表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能召喚士、追放先で『呼んではいけない存在』を呼んでしまい辺境最強になる  作者: 怪人卒塔婆庵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/18

第5話 火を宿す器


フレアの異変は、あの日を境に強くなっていった。


夜中にうなされる。胸を押さえて飛び起きる。体が燃えるように熱くなり、けれど炎は出ない。内側で暴れる"何か"が、出口を求めてもがいているようだった。


「……苦しいよ、ミスト」


額に汗を浮かべ、フレアが掠れた声を漏らす。俺は濡らした布で彼女の額を冷やしながら、唇を噛んだ。


このままじゃ、フレアの体が保たない。器の中で目覚めかけた火が、出口を見つけられずに、宿主そのものを焼き尽くそうとしている。


『——縁の子。もはや猶予はない』


人型の羅睺が、腕を組んで言った。


『あの娘の内なる火は、目覚めの時を迎えている。だが、それは"封"の内に閉じ込められたまま。封を解かねば、火は行き場を失い、あの娘を内から焼き殺すだろう』


「封を解く方法は」


『お前にしかできぬ。お前の召喚は、封じられたものを引きずり出す力。あの娘の中の火——その"本体"を、お前が外へ喚び出すのだ』


俺は、フレアの寝顔を見つめた。


「喚び出して……それから?」


『そこからが賭けよ』羅睺の声が、低くなった。『喚び出した火の本体は、おそらく天部の眷属。格は我に劣らぬ。お前という召喚士には、それを"喚ぶ"ことはできても、"御す"ことはできまい。お前の器では、受け止めきれぬ』


「……じゃあ、どうすれば」


『器を、別に用意するしかない』


羅睺の視線が、フレアへと向いた。


『あの娘だ。あの娘の体こそ、その火を宿すために生まれてきたかのような器。お前が喚び、あの娘が宿す。二人で一つの召喚を成す——それしか、道はない』



その夜、俺はフレアを連れて、町外れの古い祠へ向かった。


羅睺が「火の気配の源」を辿った先にあった、忘れられた祭壇。苔むした石に、見覚えのある異国の文字——梵字に似た呪が刻まれている。あの遺跡で羅睺を喚び出したときと、同じものだ。


ここに、フレアの中の火と対になる"本体"が、封じられている。


「フレア。辛いだろうが、聞いてくれ」


俺は、苦しげに息をつく彼女の手を握った。


「お前の中で暴れてる火を、一度、外に出す。そして——お前自身が、その火を受け止めるんだ。お前にしか、できないことだ」


「……あたしに、できるの?」フレアの目に、不安が揺れた。「あたし、ずっと出来損ないで……何の役にも、立てなくて」


「お前は出来損ないなんかじゃない」俺は、はっきりと言った。「お前は、この火を宿すために生まれてきた。誰にもできないことが、お前にはできる。俺が保証する」


フレアは、震える唇を噛み、そして——頷いた。


「……うん。やる。ミストが、そう言うなら」


俺は祭壇の前に立ち、触媒を捧げた。最上等の魔石。この日のために、稼ぎをはたいて用意したものだ。


そして、詠唱を始めた。


封じられたものを、引きずり出す。誰も呼べぬものを、喚び覚ます。俺だけの、召喚を。


祭壇の文字が、燃えるように輝いた。同時に、フレアの胸の奥から、応えるように光が溢れ出す。内と外、二つの火が、共鳴する。


『——来る』羅睺が呟いた。『受け止めよ、娘。お前のために生まれた、火の神を』


祭壇から、炎が噴き上がった。


その炎は、形を成していった。巨大な翼。金色に燃え盛る羽。鋭い嘴。両の目は、太陽のように輝いている。竜すら喰らうという、火焔の霊鳥——


『カルラ』


羅睺が、その名を呼んだ。


『天を翔け、炎を司る神鳥。迦楼羅。——これが、あの娘に宿りし火の正体よ』


金色の霊鳥が、咆哮を上げた。その熱量は凄まじく、祠全体が陽炎に揺らぐ。俺は思わず後ずさった。羅睺の言う通りだ。この格は、俺には御せない。喚び出すので、精一杯だった。


カルラの双眸が、行き場を求めて彷徨う。宿主を、依代を、探している。


「フレア!」俺は叫んだ。「今だ! お前が、受け止めろ!」


フレアが、一歩、前に出た。


恐怖はあっただろう。目の前で燃え盛る神鳥は、彼女を一瞬で灰にできるほどの炎を纏っている。それでも——彼女は、両腕を広げた。


「……おいで」


掠れた、けれど不思議と澄んだ声だった。


「あたしが、あんたの居場所になる。ずっと、ひとりぼっちで、封じられてたんでしょ。……あたしと、おんなじだ」


カルラの双眸が、フレアを捉えた。


金色の霊鳥は、ふっと熱を和らげ——そして、光の粒となって、フレアの中へ吸い込まれていった。



光が、収まった。


フレアが、ゆっくりと目を開ける。


その姿は、変わっていた。痩せこけていた頬に生気が満ち、頭の獣耳と尻尾の先が、金色の炎を帯びて揺れている。瞳は、太陽のような橙色に輝いていた。苦しみは、もう消えていた。


「……あったかい」


フレアが、自分の両手を見つめて、呟いた。


「もう、苦しくない。あったかくて……すごく、力が、満ちてる」


彼女が手を広げると、その掌に、金色の炎がふわりと灯った。荒れ狂う火ではない。彼女の意思に従う、穏やかで、それでいて圧倒的な熱量を秘めた炎。


『見事だ』羅睺が、感嘆の声を漏らした。『神鳥を宿し、御してみせた。……縁の子、お前の見立ては正しかった。あの娘こそ、この火の唯一の器よ』


フレアが、俺を見た。


その顔には、もう「出来損ない」の影はなかった。誰にも価値を認められず、檻の中で虚ろな目をしていた少女は、もういない。そこにいたのは、炎を纏う、誇らしげな一人の戦士だった。


「ミスト」フレアが、満面の笑みで言った。「あたし、できたよ! あたし、もう、出来損ないじゃ、ないよね!?」


その目から、ぽろぽろと涙がこぼれていた。笑いながら、泣いていた。


俺は、彼女の頭にそっと手を置いた。金色の炎が、温かく指先を撫でる。


「ああ。お前は、出来損ないなんかじゃない。——誰よりも、すごい炎だ」


フレアが、わあっと声を上げて泣き出した。今度は、嬉し涙だった。



後日、フレアの炎の力は、さっそく町で証明されることになる。


再び現れた魔物の小群を、フレアはたった一人で——いや、カルラと二人で、金色の炎で焼き払ってみせた。羅睺の業火が「圧倒的な暴力」なら、フレアの炎は「鮮やかで誇り高い舞」だった。冒険者たちは、その美しさに見惚れ、そして畏れた。


「ミストの召喚獣が、また一体増えた」


「いや、あれは召喚獣じゃねえ。あの嬢ちゃん自身が、火の化身になっちまったんだ」


噂は、また一つ、辺境を駆け巡った。


そして俺は、改めて思い知った。俺の召喚は——ただ強い存在を喚ぶだけじゃない。喚んだものを、最もふさわしい者に託し、新しい力を生み出すことすら、できるのだと。


中央で無能と嗤われた力は、辺境で、まったく違う意味を持ち始めていた。


夜叉と、炎を宿した少女。俺の傍らには、もう二つの大きな火が灯っている。


だが——世界は広い。封じられたものは、まだ、いくらでも眠っている。


次に出会う"呼んではいけないもの"が、すぐそこまで近づいていることを、このときの俺は、まだ知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ