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無能召喚士、追放先で『呼んではいけない存在』を呼んでしまい辺境最強になる  作者: 怪人卒塔婆庵


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第10話 辺境の旗


仲間が増えると、暮らしは一変した。


俺が買い取った町外れの空き家は、もう手狭になっていた。フレア、ヴァナ、そして転がり込んできたエルザ。賑やかというより、騒がしい。朝から晩まで、誰かしらが何かしらで騒いでいる。


「フレアー! また勝手にわたくしのお菓子を食べましたわね!?」


「だって、エルザが棚の奥に隠してるの、闇御目で視えちゃうんだもん」


「それはあなたが視させてるんですの!? あ、いえ、視てるのはわたくしで……ええい、ややこしい!」


『……縁の子。我は、静かな谷が、少し恋しくなってきたぞ』


仔狼姿のヴァナが、騒動を遠巻きに眺めて、ぼそりと呟いた。世界を喰らうと恐れられた巨狼が、今や少女たちの喧嘩に辟易している。なんとも、締まらない光景だった。


『くく。良いではないか』人型の羅睺が、楽しげに笑った。『封じられ、忘れられていた我らが、こうして誰かと騒げる日が来るとは。……悪くない。悪くないぞ、これは』


その言葉に、俺も少しだけ、頷いた。


ここにいるのは、みんな、勝手に決められた価値で居場所を奪われた者たちだ。無能と捨てられた俺。出来損ないと売られたフレア。予言で罰されたヴァナ。視すぎて忌まれた闇御目と、没落したエルザ。羅睺もカルラも、封じられ、忘れられていた。


そんな俺たちが、今、一つ屋根の下で、騒いでいる。


――それは、ずっと欲しかったものだった。



ある日、ギルドのリタが、慌てた様子で拠点に駆け込んできた。


「ミスト! 大変よ! あんたのこと、とんでもない噂が広まってるの!」


聞けば、こういうことだった。


ハルバを拠点に、俺たちが片付けてきた依頼の数々。穴蔵喰らいの討伐、魔物の大群の撃退、グラナートの森の呪い解き。その一つひとつが、辺境の枠を越えて、語り草になっていた。


「夜叉を従え、炎の少女を従え、巨狼を従え、万の目を持つ妖を従えた召喚士――その名は、ミスト」


「中央の宮廷召喚士でも、あんな格の存在は一体だって呼べない。なのにあの男は、四体も従えている」


「ハルバは今、辺境で最も安全な町だ。あの召喚士がいる限り、どんな脅威も寄せつけない」


噂は尾ひれをつけて広がり、いつしか俺は「辺境の守り神」だの「召喚王」だのと呼ばれ始めていた。


「それでね」リタが、興奮気味に続けた。「最近、ハルバに移り住む人が、すごく増えてるの! あんたがいれば安全だって、近隣の村から、商人から、流れの冒険者から……どんどん人が集まってきてる。寂れてたハルバが、見違えるように活気づいてるのよ!」


俺は、町の方を見やった。


確かに、言われてみれば。半分店じまいしていた目抜き通りは、いつの間にか賑わいを取り戻していた。新しい店ができ、人が行き交い、子どもが駆け回っている。あの寂れた辺境の町が、今や、人の集まる場所に変わりつつあった。


「ふん、当然の結果ですわね」


横から、エルザが胸を張った。だがその目は、嬉しそうに輝いていた。


「ミスト。あなた、自覚がないようですけれど――もう、ただの冒険者じゃありませんわよ。人が集まり、町が栄え、皆があなたを慕っている。これは、もう……一つの"勢力"ですわ」


「勢力、ね」


「ええ。そして勢力には、束ねる者と、理が要りますの」エルザが、ぴっと指を立てた。「幸い、わたくしは没落したとはいえ元伯爵令嬢。内政も、統治も、心得がありますわ。このわたくしが、あなたの治世を支えてさしあげます。光栄に思いなさい!」


俺は、少し考えて、頷いた。


「……ああ、頼む。お前がいてくれると、助かる」


「そ、そんな、素直に頼られると……っ! ま、まあ、当然ですけれど!」


照れ隠しに、エルザがそっぽを向く。その耳が、赤かった。


こうして、ハルバは少しずつ、ただの町から、俺たちの「拠点」へと姿を変えていった。エルザの差配で、町の運営が整い、防衛の仕組みが作られ、人が安心して暮らせる場所になっていった。


辺境に、一本の旗が、立ち始めていた。



だが――噂は、辺境だけに留まらなかった。


それは、川の流れが逆流するように、少しずつ、中央へと届いていった。


王都の酒場。商人の寄合。冒険者ギルドの本部。あちこちで、その名が囁かれ始める。


「辺境に、とんでもない召喚士がいるらしい」


「夜叉に巨狼に……宮廷召喚士も呼べない格の存在を、何体も従えてるんだとよ」


「名は、ミスト……? はて、どこかで聞いたような」


そして、その噂は――かつて、その男を「無能」と嗤って追放した者たちの耳にも、届くことになる。



王都の場末の酒場で、勇者アレクは、その噂を聞いていた。


ミストを追放してから、銀翼の剣は転落の一途を辿っていた。依頼は失敗続き。仲間は離れ、ランクは下がり、今や彼らをAランクパーティと呼ぶ者はいない。アレクは、安酒を呷る日々を送っていた。


「――おい、聞いたか。辺境の召喚士の話」


隣の席の冒険者の会話が、耳に入った。


「ミストとかいう男だろ。夜叉を従えてるって」


「ああ。なんでも、元はどっかのパーティで無能扱いされて追放されたらしいぜ。それが今や、辺境の守り神だってよ。追放した連中、今ごろ歯ぎしりしてんじゃねえか?」


「ははっ、見る目がなかったってわけだ。気の毒に」


アレクの手の中で、酒杯が、ぴしりと音を立てた。


(ミスト……あの、ミストだと……?)


無能と嗤って、追い出した男。荷物持ちにもならないと、報酬も渡さず捨てた男。


それが今、自分が一度も呼べなかったような格の存在を、何体も従えて、辺境で崇められている――?


アレクの胸に、どす黒いものが渦巻いた。後悔。屈辱。そして――嫉妬。


「……ふざけるな」


低い声で、アレクは呟いた。


「あんな無能が……俺を差し置いて、栄光を掴むなんて……許されるわけが、ねえ」


その目には、もはや正気とは言えない光が、宿り始めていた。


追放した者と、追放された者。墜ちた者と、昇った者。


二つの運命は、再び――交わろうとしていた。



その夜、拠点で。


エルザが、ふと、空を見上げて、眉をひそめた。彼女の瞳の奥で、無数の目が、ざわりと蠢いた気がした。


「……エルザ?」俺は尋ねた。「どうした」


「……いえ」エルザは、少し迷ってから、静かに言った。「闇御目の目が……遠くの方で、何か、嫌な"気配"を視ているんですの。まだ、はっきりとは視えませんけれど……」


彼女は、自分の胸に手を当てた。


「世界のあちこちで……封じられているはずの何かが、ざわめき始めている。まるで、長い眠りから、目を覚まそうとしているみたいに……」


その言葉に、羅睺とヴァナが、同時に、わずかに身を硬くした。


俺は、夜空を見上げた。


辺境に旗を立て、居場所を築いた。仲間も、力も、得た。


だが――世界は、俺たちが穏やかに暮らすことを、許してはくれないらしい。


何かが、動き始めている。それも、これまでの魔物や呪いとは、比べ物にならない規模の、何かが。


「……まあ、来るなら来い」


俺は、静かに呟いた。


「何が相手だろうと、俺には、こいつらがいる。――もう、独りじゃないからな」


夜風が、辺境の旗を、静かに揺らした。


嵐の前の、束の間の静けさだった。


13時より投稿再開します!

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