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その旅の果てに 〜世界を巡る彩色録〜  作者: 浦島 晴次郎
序章 旅立ち

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8/14

8.傷

8話です。楽しんで頂けたら、幸いです。

 狩人が破片に貫かれ、血を吐き地べたに伏す。


 「おじさん!!!!」


 アルバに様々な感情が渦巻く。


 あの時、戻らなければよかった?

  違う!!戻らなければ、おじさんは死んでいた。


 結局死んでるじゃないか。

  それは、俺に力が、、、


 そうだ。お前(俺)が弱いからだ。グレイの時だって、お前は何も出来なかった。いつも見ているだけ。

  でも今回は、、


 行動した?その結果がこれだ。意味がないんだよ。何も。力もない。知恵もない。経験もない。そんな奴が人の覚悟を無駄にして、勝手に動いて希望を見せてこのザマだ。

 

 そもそもお前が罠について聞かなかったら?山に入っていなかったら?こうなったのも、お前のせいだ。


 俺がやったんだ・・・・・・・・・!!!


 

 ぐるぐるとアルバの思考が廻る。同じような自問自答を繰り返し、自らを責める。


 呼吸が荒くなる。体は既に限界であり、気力だけで動かしていた。だが、その気力も、もう、、、


 「はー、はー、」


 「!!!!!!」


 狩人から僅かではあるが、呼吸が聞こえる。

 まだ、生きている。何とかここから運び出さなくては、、、


 アルバは、狩人を待ちあげ、立とうとするも脚に力が入らない。


 一瞬、彼の精神が折れた時、身体は思い出してしまった。自らの身体の疲れを、状態を、とうに限界がきていることを。


 これは、今の彼の精神の話ではない。彼は、再び立とうとしている。

 だが、もう限界を迎えていた事を思い出した身体がついて行かないのだ。


 「なんで、、、どうして、、、魂力は尽きていない。俺は立とうとしている。なのに、なんで、、、くそっ!くそっ!くそっ!」


 アルバは苛立ちから、感覚のない腕で自らの脚を殴るも、それで動くはずもない。


 「あぁ、こんな所にいたんだぁ!!!」


 最悪だ。奴が来た。でも、奴も所々ダメージを負い、傷がついていた。超大型の罠に嵌ったのだ。さすがの奴も、無事では済まなかったらしい。


 「"契約"するぅ??」


 「・・・・・・・」


 アルバは一呼吸おいて答える。今の状態では、もう手も足も出ない。


 「そうだな。するよ、契約。でもその前に一ついいか?俺が、黒い箱のことを教えたとして、それが見つからなかったり、お前の想像している物とは別の物だったらどうするんだ?」


 「んー?そうだったらぁ、また、周りにいる奴を殺したりしてぇ、探すかぁ、"契約"するかだなぁ」


 「そうか、最後にもう一つだけ答えてくれ。なんで、お前はそんな簡単に人を殺せるんだ?」


 男は、人差し指を顎に置き、眉をしかめて考える。 

 狩人を運ばないと行けない事は、アルバも理解しているが、どうしても体が動かない。


 「そうだなぁ、君はいちいち、道端の石ころを蹴るのに大層な理由をつけるのかい?そこにあってぇ、ただ目に入って邪魔だから蹴る、そんな感じだろぉ?」


 「...石ころ?お前は何を言ってるんだ・・・?」


 「???何って言われてもぉ。...あ!そういうことねぇ。そのおっさんがぁ、死にかけててぇ、センチになってるんだぁ!僕はぁ、そのおっさん、魂力もないくせに歯向かってきて、うざかったんだよねぇ。」


 男が2人がいるところまで近づいてくる。


 "契約"をするのかとアルバが身構えていると、男は右脚を上げ、狩人の右手を思い切り潰(・)し(・)た(・)。

 狩人が、声にならない悲鳴を上げ、男は喜んでいた。


 「キャハハハハハ!今の悲鳴聞いたぁ?ヘバぁだってぇw、ヘバぁw。はぁー、スッキリしたぁ。じゃ、"契約"しよっかぁ。」


 直後、男が感じたのは強烈な悪寒。本能で後ろに飛び退き、悪寒の原因を見る。


 「なぁ?お前は何がそんなに楽しいんだ?」


 アルバが感じたのは、純粋で底知れぬ『怒り』だった。

 

 それは、こんな状況でさえ何も出来ない自己に対する、そして、無抵抗な者の痛みを嘲笑う目の前の理不尽に対する激憤。

 

 彼の瞳は、昏く冷酷な青い光が彩られていく。


 「お前は、やっぱり放っておいてはダメだ。...ちょっと待っててね、おじさん。すぐ終わらせるから。」


 彼の後方から何かが出てくる。

 それは"指"ではない。

 全長2.5m程はある、巨大な"手"だった。


 突発的成長。能力は突然、このような成長を遂げる事がある。だが、彼ほどの成長を遂げる者はそれほど多くない。

 それはまさしく、"進化"と呼べる代物だろう。



 男には、この一連の流れで出来た明確な"傷"があった。


 痛みに鈍い男は気づいていないが、それは眉間にあった。そこは計4度、狩人が銃弾を打ち込んだ場所。

 

 アルバは、ありったけの魂力を注ぎ込み、"手"を握り拳にして、男の"傷"めがけて打ち込む。


 元々、男の戦闘技術は稚拙である。今までの攻撃も自らの圧倒的な魂力量による身体強化で速度を速めていただけであり、巨大な塊が男と同じ、いやそれ以上の速度で動くならば、必然、消耗している男は激突を避ける事ができない。


 直撃した。轟音が鳴り響く。


 彼の今繰り出せる、全てを出した最大の一撃。




 だが、それでも、、、


 「痛ってぇなぁァァァァ、あぁぁ痛いぃィ」


 それでも尚、届かない壁は存在するのだ。


 「(はは、、まじ、、かよ、、)」


 アルバは地面にへたり込む。もう声を出す余力すら残っていない。

 

 「決めたぁぁ、殺す!絶対殺すぅ!箱は、別のやつから聞けばいいぃ。」

 

 男が片足を引きずりながら、アルバの元へ飛んでくる。


 「(俺は、、、俺は、、ちくしょう、、、)」


 アルバに向かって、勢いのまま男の腕が振り下ろされる。


 何度だって言おう。意思だけではどうにもならない事は存在する。


 しかし、、


 ゴガッッ

 衝撃音が聞こえた。


 だが、アルバに男の攻撃は当たっていない。


 上を見上げると、そこには、すっかり見慣れた赤と黒の紋様が入った刀の鞘が目に入る。


 「ヒョッヒョッ、何とか間に合ったわい。小僧、よくやったの。」


 シサムが男の拳を鞘で受け流していた。



 意思だけではどうにもならないことは存在する。


 しかし、その意思とも呼べる執念が稼いだ時間は、確かに彼らの命を救ったのだ。



_________________________



 「お主も大概じゃが、後ろの奴の方が酷いのう。安心せい。間も無くロニも来る。」


 「何だよぉォォ。爺がしゃしゃり出てくんなよなぁぁ」


 間髪入れず、男がシサムに蹴りを入れようとするも、蹴りを出すことが出来ずによろけてしまう。

 代わりに軸足に何か当たった様な感覚が走る。


 「(何だぁ、、僕は今何をされたぁぁ、、)」


 男はシサムから何も感じない。それなのに自身の攻撃が2度失敗した。当然、男の警戒心が強まる


 「(能力ぅ?いや、それよりも、あの爺は僕の攻撃を防ぐのに魂力を使っていなぃぃ、、ありえるのかぁ?そんな事がぁ、、)」


 一般に魂力は視認不可である。それは、魂力使いも例外ではない。

 だが、お互いに魂力を使用している時に触れ合うと、量までは分からないが、その存在を認識する事はできる。


 男は鞘を通じて、シサムと触れ合った。そして、シサムが男の攻撃を防ぐのに、魂力を使っていない事が判明した。


 得体の知れない不気味な存在。それが男がシサムに感じた印象である。

 

 「ふぃー、シサムさん、急に速度上げ過ぎですって。じゃ、俺がこの2人を運べばいいですか?」


 「そうじゃのう。お前の方が速いしな。よろしく頼む。」


 状況は、梟で把握していたのだろう。遅れてやってきたロニが狩人を抱えた後に、アルバを拾おうとする。


 「俺、、は、いい、、それ、、より、早く、、お、じさん、、を運んで。」


 「運んでって、、お前もだいぶ重症だぞ?それに、、」


 ロニがシサムの方をチラッと見る。アルバがシサムの戦いの邪魔にならないか心配しているようだ。


 「まぁ、小僧も重症じゃが、死にはせんじゃろう。それに、そいつがここに居ても居なくても、たいして変わらん。」


 「流石ですね。では、運んだらすぐに戻ってきます。」


 そう言って、ロニが狩人を連れて山を降りていく姿を視界の端で捉えたアルバは安堵していた。


 彼がここに残るとロニに話した理由は、狩人に一刻も早く治療を受けてもらうためではあるが、それだけではない。


 自らの弱さを知った事で、この目で直接、シサムの戦いを目に焼き付けたくなったのだ。



 彼らのやり取りの最中、男はシサムが話した始めたタイミングで何度も攻撃を仕掛けるているが、そのどれも、攻撃自体を繰り出す事が出来ずにいた。


 何度も何度も、男は仕掛けるも同じ目に遭う。


 何をしても無駄だった。背後に退くことも、男が思いつく攻撃のあらゆる工夫も許されない。その全てに先手を打たれる。

 

 男に苛立ちが募る。

 自分の方が大きく、速いのに、魂力すら使用していない爺に、文字通り、手も足も出ないこの現状に。


 「あぁあァァあぁああ」


 男が苛立ちから、ありったけの魂力を全て腕に集中させる。そして、その腕を鞭のようにしならせ、シサムに振るおうとする。


 「おお、怖い、怖い。」


 だが、その攻撃もシサムが、男が腕を振るおうとする前(・)に(・)、肩に鞘で攻撃をすることで、軌道を逸らし、空を切らせる。


 

 何故、能力(スキル)はおろか魂力すら使えぬシサムが男を圧倒できるのか。

 もちろん、敵の攻撃を受け流すような卓越した技術は持っている。だが、それだけではない。


 この問いに答えるならば、それは"勘"の一言に集約される。


 脳が思考を巡らせるより疾く、神経が、筋肉が、血流の全てが、反射の域で彼に最適解を教え、その通りに身体が動く。

 

 それは、武の才を持つ者が、厳しい修行を積み、幾千もの死線を潜り抜けた末に辿り着く、1つの武の極地。


 言葉にすれば、ただの"勘"。


 しかし極限まで研ぎ澄まされた彼の勘は、相手の起こりを察知し、意識の隙間を縫い、戦闘においては未来予知の如きを可能としているのだ。



 だが、そんな彼にも弱点がある。

 それは、『魂力を使えない』と言うことである。


 魂力とは、足し算である。自らが使用する魂力量の分だけ、身体能力が向上し、攻撃力、防御力も共に上昇する


 つまり、幾ら彼が機先を制した所で、彼の攻撃力では、相手の防御を突破する事は出来ない。


 であるならば、鞘ではなく刀身で攻撃すれば良いのでは?と思うだろうが、それは出来ないのだ。


 それは、信念とか、己の枷とかそういうものではなく、単純に彼の法具である刀は、持ち主の魂力を込めないと使う事はおろか、抜くことすら叶わないのだ。


 それなら、その刀を使うのをやめろだって?それを彼に言うのは無粋の極みであるとしか言えない。


 話は逸れたが、彼には相手を突破する攻撃力がないのだ。


 そうすると、どうなるのか。今の状況のように、シサムに少し分のある千日手となる。


 だが、今の状況であれば、時間さえ過ぎれば、援軍が来るため、千日手となり有利になるのはシサム(こちら)の方である。


 そのことは当然、シサムも理解しているため、男を逃すことなく戦闘は続いている。


 僅かな刻がたつ。


 シサムとの戦闘により、ボロボロだった男の服がさらに破れて、男の肩からとある焼印が見える。


 その焼印は、下部には、弓なりに太い爪が大きく湾曲し、それぞれの先端には鋭い矢印のような返しが付けられており、その太い爪の中央から伸びる棒の頂部には、逆階段上に3段のブロックが積み重なっているものだった。


 「お主・・『傷(ウルヌス)』の一員じゃったのか。」


 シサムの言葉を聞き、男は攻撃する意思を止める。


 「へぇぇ、爺の癖によく知ってるねぇ。」


 「まあ、な。ここ数年で台頭してきた、金次第で何でも請け負う、"何でも屋"。衣類や身体の一部にその様な紋様を入れてる事がメンバーの証と訊く。良評から悪評まで様々な噂を耳にするわい。」


 「僕らもぉ、有名になったのかぁ」


 シサムに自分達のことが知られてて嬉しかったのか、男は怒りで忘れていた自らの本来の目的を思い出す。


 「そうだぁぁ。爺ぃ。小さくて真っ黒な箱を知らないぃ??ここら辺にあると思うんだぁ。」


 「黒い箱?これのことかの?」


 シサムが服から取り出した物は、昨夜ロニから受け取った物であり、エルレが昨日の訓練の休み中にアルバに対して話した物と同じ物であった。


 「それ!それ!それ!それぇぇぇ!!僕のぉぉ!!返せぇぇぇ!!」


 「ふむ。返せと言われてものう。おいそれと、、、」


 突如、シサムを襲ったのは箱に対する猛烈な違和感。


 その勘に従い、すぐに箱を男に投げつけると、箱しかない空間から"それ"は現れた。


8話どうだったでしょうか?面白いと思っていただけたなら幸いです。面白いと思っていただけたなら、是非とも次も見に来て欲しいです。

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