7.遭遇
7話です。すみません。長いです。分割しようと思ったのですが、書いていると止まらなくなり、最後まで書いててしまったのでそのまま出します。
楽しんでくださると幸いです。
「ねえ!これどうやってドカンってやるの!..です。」
興奮してキンチの教えを忘れていたことを思い出したアルバは、目を泳がせている狩人に鉄の杖を突きつけた。
「あ、あぁ、、それは猟銃だ。筒の奥に火薬と鉛の玉を詰めて、この引き金で火花を散らして爆発させるんだ。…だが、一度撃つと次を詰めるのに時間がかかる。だから今みたいに仕留め損なうと、、、」
「なるほどね! 威力はすごいけど、連発できないのか..です。面白いけど、不便だね!..です。」
アルバが笑いながら銃を返すと、狩人は獣が逃げた方角とアルバを交互に見比べ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「お、お前、、本当にただの子供か? 一体どうやってあんな一撃を・・・・いや、命を救ってもらったのは確かだ。礼を言う」
「いいよ別に。それよりおじさん、その筒が不便なら、さっきみたいな奴が現れた時に普段はどうしてるの?..です。」
「…罠だよ。俺たち猟師の仕事は、獣と正面から殺し合うことじゃない。あらかじめ仕掛けを作って、森の力で獲物を仕留めるんだ。後その喋り方を、、いや、なんでもない。」
「罠」という言葉に、アルバはパッと目を輝かせた。
聞いた事はあるが、実際に見たことのない物。
「罠! 見たい!..です。おじさん、俺にそれ教えてよ!..です。」
半ば強引に背中を押すアルバに、狩人はため息をつきながらも、森の奥に仕掛けた罠の場へと案内してくれた。
___________________________
狩人は獣道の脇にしゃがみ込むと、周囲の落ち葉を慎重に払い、木の枝を取り出した。
「これは『デッドフォール(圧死罠)』だ。この3本の小枝を数字の4の形に組んで、上に重い丸太や岩を乗せる。これが4の字仕掛けって呼ばれる仕組みだ」
「へえ、絶妙なバランスで支え合ってるんだね..です。」
「ああ。横に突き出た棒の先に木の実を刺しておく。獲物が少しでもそれに触れると……」
狩人が細い枝の先で仕掛けに触れた瞬間。
ガコンッ! と鈍い音を立てて支えが崩れ、巨大な丸太が容赦なく地面に叩きつけられた。
「うわあ、すごい!..です。丸太が勝手に・・・! 」
「そうだ。これは重力を使うから、自分の腕力よりずっとでかい獲物を確実に潰せる」
次に狩人が案内してくれたのは、獣道に不自然に曲げられた若い木だった。
「こっちは『スプリング・スネア(跳ね上げ罠)』だ。しなりの強い生木を曲げて、足元に植物のツルで作った輪っか(スネア)を隠しておく」
「これ、踏むとどうなるの?..です。」
「輪っかが足に絡まり、木の戻る力で一気に宙吊りになる。鳥や小動物がよくかかるな。宙に吊るしておけば、他の獣に横取りされずに済むんだ」
「……すっげー、、」
アルバは積み上げられた人の知恵に本気で感心していた。
そして、罠を見て疑問に思った事を聞いた。
「それで、捕まえた生き物はどうするの?」
少しだけ声を潜めて尋ねると、狩人は罠から視線を上げ、じっとアルバを見据える。
「食べる。」
ひどく短い言葉だった。
「肉は残さず喰らい、血の一滴まで啜る。皮は鞣して服や道具にし、残った骨は砕いて森の土に還す。…決して、何ひとつ無駄にはしない」
狩人の腰に下げられたナイフの柄や、革の外套が、その言葉が嘘ではないことを証明していた。
すべてが手入れされ、使い込まれた末の鈍い光を放っている。
「…かわいそうじゃないの?」
ただ、純粋な疑問だった。罠にかかって足掻き、そして動かなくなる命を故郷で死にゆく人と重ねてしまったのだ。
「かわいそうだな」
狩人は即答した。
否定されると思っていたアルバが驚いて顔を上げると、狩人は森の奥へと視線を向けていた。
「かわいそうだ。痛いだろうし、苦しいだろう。だからこそ、遊びや慰みで命を奪うような真似は絶対にしない」
狩人はゆっくりとしゃがみ込み、アルバと同じ目線になった。
その瞳は、木漏れ日を吸い込んだように静かで、底知れない覚悟の色が沈んでいた。
「罠を仕掛ける時は、いつも腹をくくっている。命を奪う罪悪感も、その命の重さも、全部この背中に負って生きていくってな。…それが、森に入らせてもらう人間の礼儀だ」
「そっか、そうなんだ。おじさん、ありがとう..です。」
その後、いくつかの大小様々な罠を見せてもらっている最中に、ドゴンッと大きな音が森の中を響いた。
2人が、顔を見合わせて不思議がっていると、音のした方から、黒髪で長髪の不気味な男が姿を現す。
男は血だらけで着ている服はボロボロだっだ。だが、注目すべきはその見た目じゃない。男が引きずっているものだ。
それは、先ほど2人が逃した獣の死体だった。しかも、腹に穴が空いている。
その不気味な男が笑顔で訪ねてくる。まさしく異様な光景だった。
「ねぇ、君たち、小さくて真っ黒な箱を知らないぃ?こいつの腹の中にもなかったぁ・・・あれは"あの人"から貰った物なんだ、、、知らない?ねえねえねえねえねえ。」
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
2人は状況が飲み込めず絶句していた。唯一分かると事は、その男の声に反応して、背中に流れる冷や汗が止まらないこと。
「少年よ、俺が合図したら逃げろ、、俺の勘が告げている。これ以上、ここにいるのはまずい、、」
「おじさんはどうするの・・・?」
「俺のことは心配するな。ここは俺のテリトリーだ。」
彼らの心臓の鼓動が加速していく。
「ねぇ、2人で何を話してるの?もしかして、黒い箱を持ってたりするのかなぁ??まぁ、関係ないか、、会った奴、全員殺して調べればいいんだし、、、」
その瞬間、アルバが男から感じたのは"威圧感"。
そしてすぐに、身を包む大きな衝撃。殴られたのだ。威圧感に気圧された間に距離を詰められた。
アルバは、すんでのとこで防御は間に合ったが、その上で後ろの木まで吹っ飛ばされた。
「ッッッガハッ」
「!!!!少年!!!」
狩人はすぐに銃を取り出すが、間に合わない。
男が狩人に向かって来る。だが、ふっと目の前から姿がかき消えたかと思うと、直後に左手側で凄まじい衝突音が轟いた。
見れば、男が木に叩きつけられていた。
呆気に取られる狩人の視界の端に棒の様な物が横切るが、すぐさま冷静になり、男の眉間に銃を打ち込む。
「逃げるぞ!少年!」
「は、、い、」
2人は転がる様にして、村の方へと逃げていった。
___________________________
男が砂煙の中から立ち上がる。アルバの能力によって、不意をつかれた左腕と銃弾を打ち込まれた頭以外はほとんどダメージを負っていない。頭はほんの少し赤くなっているだけであり、まともに喰らったはずの左腕でさえ、僅かな傷を負った程度だった。
「なんで逃げたのかなぁ???やっぱりあいつらが持ってるんだ・・・・・・・確か、、あっちに行ったよなぁぁ、、」
男が地を蹴り、飛ぶ。彼らの足では到底逃げ切れるはずもない速度で、男は背後から死神のように距離を縮めていった。
____________________________
「はぁ、はぁ、おじさん、このペースで走っても奴に追いつかれる、、、」
「そんな事は分かっている!だからここを通っているんだ!この道には罠が沢山ある。引っかからない様、しっかり着いてこい!」
狩人は、自らが仕掛けた獣用の罠の道を通る事で、逃げる時間を稼ごうとしていた。
実際、その考えは正しく、男は山に不慣れなこともあってか、ほとんどの罠に引っかかっていた。
だが、狩人に誤算があるとするならば、その罠を喰らってもなお、男の速度が全く落ちなかったことだろう。
とうとう、狩人の耳に罠が作動する音が聞こえる。 これは、男がもうすぐアルバ達の元へ辿り着くことを示していた。
狩人が足を止める。
「どうしたんだよ!おじさん!」
「間も無く奴が現れる。俺が時間を稼ぐから、君はこの方角をまっすぐ進め。」
「時間を稼ぐ?おじさんも見ただろ!1人で残ったら絶対に殺される!あんたが残るなら俺も残る!!俺には"力"もある!」
その言葉に、狩人は一瞬だけ微笑む。だが直後、凄まじい剣幕で声を上げる。
「そうだな。君には何か特別な力が宿っているんだろう。だが、それはきっと奴もだろう・・・?しかも、君よりも強いと見た。..いいか、2人で残っても犬死にするだけだ!!逃げろ!!大人には未来ある子供を守る責務があるんだ!!!ここで死ぬために、君はここまで来たのか!?」
「ッッッ、、」
狩人の命懸けの覚悟を感じ取ったアルバは、苦虫を噛み潰す様な表情でこの場を後にした。
「ああ、それでいい。」
狩人は、自らが指した方角へと逃げる少年を見ながら、銃に弾を込めようとするも、震える手では上手くいかない。
「すぅー、はぁー」
深呼吸をして、なんとか弾を込めた矢先に、男が狩人の前に現れる。
「ふぅー。よう、化け物。黒い箱なら場所を知ってる。知りたいなら、俺の口から直接聞き出させてみろ。」
狩人の言っている事は、ほんの僅かでも、アルバが逃げる時間を稼ぐために用意したはったりである。
黒い箱の場所はおろか、その存在すら知らない。
「あぁあぁあぁぁ、やっぱりぃぃ知ってたんだぁ!」
狩人は男の眉間に銃を撃つも、少しのけぞるだけで、男は気にしてすらいない。
男が狩人に襲いかかる。もう一度、銃に弾を込めようとするも、間に合わない。
「(ここで俺もこの山の一部となるのか・・・、覚悟していた事だが、はは、手の震えが止まらない)」
狩人が死を覚悟した瞬間、背後から棒状の何かが男に激突する。
どこかで見た構図。ただし、決定的に違うのは、、、
「..なぜ戻って来た!!!!」
その覚悟だろう。
「俺は、もう2度とあんな、、あんな思いはしない!!これはそのための力だ!!!」
アルバが自身の故郷で見たものが、容易に彼の心を動かした。それがたとえ、無謀であると分かっていても。動かずにはいられなかった。
____________________________
「なぜだ!?なぜ戻って来た?...いや、今は言い争っている場合ではないか、、それより、ここをどう切り抜けるか、だ」
「とにかく時間を稼ぐんだ!俺が前で闘うから、おじさんは、猟銃で援護して!」
「時間を稼ぐ??あぁ、何か策があるのだな?」
「うん!成功するかは賭けだけど、、」
「0でないならば結構!なら、俺にも時間を稼ぐ策がある。戦闘しながら奴を誘導できるか?」
「やってみせるよ!」
俺の返答を聞いた狩人のおじさんは立ちあがろうとする男の眉間に弾を1発撃ち込むと、すぐさま移動し始める。
「さっきからうざったいなぁ、、、あれぇ、さっきの子もいるじゃん!という事は、君も黒い箱の場所を知ってたりするのかなぁぁ?」
「(さっきから、アイツが言ってる黒い箱ってなんだ?...もしかしたら、あん時エルレが話してたやつのことか!?)」
「さあね、知ってたら見逃してくれるか?」
「そうだねぇ見逃すよぉ。あ、でもぉ、もしそれに触ってたりしたら、殺しちゃうかもぉ。"契約"するぅ??」
契約?何を言ってるんだこいつは。
こんな奴に場所を教えたら、今すぐにでも村にいる人たちたちを殺して回るんじゃないか?
あ、でも、シサムさん達がいるか。いや、ダメだ。彼らが駆けつける前に村の人がこいつと出会ったらどうする。
やっぱり、誰かが、"アレ"に気づいてくれるまで時間を稼ぐしかない。
「契約って何?」
「それはねぇ、"これ"にお互いが同意すればいいんだよぉ。」
そう言うと、男の目の前に白い紙が突然現れた。おそらくアイツの能力だ。
「僕は君を見逃す。君は僕に箱の場所を教える。これが、今回の契約だ。『同意する』って言うだけで、いいんだよぉ。さあさあさあァさあァァ!!」
多分だけど、同意すると大変なことになる気がする。それに、これ以上の口での時間稼ぎは厳しそうだ。
俺は、能力の"指"を男に叩きつける。だが、避けられてしまった。すぐに、"指"で追撃をするも、まとわりつく蠅みたいに軽くいなされてしまう。
「くそっ!」
すぐに、俺は狩人のおじさんの後を追った。
「あれぇ、逃げるんだぁ、、、やっぱり、痛めつけないと分かんないかなぁ。」
奴が脚に力を溜めると、一っ飛びで俺の背後まで迫る。
「そぉれ。」
奴が拳を突き出してくる。咄嗟に防御するも、、重い。腕が弾け飛びそうになる。
だが、その拳の衝撃の反動を使い、後ろに飛ぶことで、奴との距離を少し離す。
"指"での攻撃も飛びながら行うも、あまり効いてはいない。
プラーン。右腕に力が入らない。はは、威圧感に気圧された時と、今、たった2回でこうなるのかよ、、、
そして、奴と俺の追いかけっこが始まった。
俺は狩人のおじさんの後を追いかける。奴はその俺を追いかける。
ただ、奴のやる事は変わらない。ただ真っ直ぐに走り、勢いよく殴る。それだけだ。
それだけなのに速すぎて回避ができない。
いや、違う。確かに奴の攻撃が速いのもあるが、俺がワンテンポ遅いのだ。
見て、『考えて』、避ける。戦いに慣れていないせいで、この考える時間が長い。そのせいで、自分の行動に遅れが生じる。
気づけば俺は完全に防戦一方に追い込まれていた。
俺は脚を、左腕を、"指"を使い、どうにかして、まともに喰らう事だけを避ける。
だが、それも限界だった。
「ガハッッ・・・・・・!」
アルバは防御越しにめり込んだ衝撃に、肺から強制的に空気が押し出される。彼の膝がひどく笑い、視界が明滅する。
感覚で分かる。後1発でも喰らったら、終わりだろう。
「(もう、、立っているだけで、、やっとだ、、)」
「うーん。これでも"契約"する気にならないの?」
「ペッ」
アルバは、口に溜まった血を男に向かって吐きつけた。
「そうかぁ、、じゃあ、もう一回思い切りやるけど、死なないでねぇ。」
その言葉を聞いても尚、アルバの意思は死なない。
自らの死が目前まで迫っていることを肌で感じながらも、狩人を、そして会ったこともない村人達を気にかけている。
それは傍目から見ると異常なのかもしれない。
しかし、彼には命を賭けてでも貫きたい信念めいたものがある。
だからこそ、視界が歪んでても尚、腕の感覚がなくても尚、アルバは怯まない。目だけでも、目前の敵を威圧し続ける。
だが、意思だけではどうにもならないことはある。
男が殴りの構えを見せる。
ドォン!
後ろからする衝撃音。そして、火と鉄の匂いと共に、男が少しのけぞる。
「少年よ、思い切り後ろに飛べ!!!」
アルバは、渾身の気力で声のする方へと飛んだ。
男がすぐ後を地続きで追いかけるも、罠が作動し、大きな何かが崩れる音と共に男の姿が見えなくなる。
「これは、ここにしかない魔獣用の落とし穴付き、超大型デッド•フォールだ。これでやられてくれるといいんだが、、時間稼ぎにはなるだろう。そして、少年よ、、よく頑張った!さぁ、村まで戻るぞ。」
アルバは狩人に抱き抱えられ、山を下っていく。
少し走った後、後ろで大きな音が聞こえる。
「やはり生きていたか。」
狩人がそう呟いた瞬間、男が罠から脱出した際に飛び散った大型の破片がいくつも飛んでくる。男が腹いせにあちこちに飛ばしているのだ。
そしてその1つが不幸にも、狩人の腹に突き刺さる。
「グボッコハッッ」
狩人は血を吐き、その場で倒れる。
「おじさん!!」
もう一度言おう。意思だけでどうにもならない事は存在するのだ。
7話どうだったでしょうか?面白いと思っていただけたら幸いです。面白いと思っていただけたなら、是非とも次も見に来て欲しいです。
最後の部分をどうしても入れたくて、書いていたらここまで長くなってしまいました。多分削れるとこは多々あると思うので、自身の書き手としての力量のなさを痛感しております。それでも楽しんで頂けると幸いです。




