4.旅立ち
4話です。区切りが良いので、少し短いです。楽しんでいただけたら幸いです。
リーンに着いていき、3人が荷車に戻るとシサムが立ちながら待っていた。
「どうじゃった?この3人は?」
「とっても優秀でした。多分直ぐに私達が教えれる事は無くなると思います。というか、アルバ君に至っては魂力について教えることはないので、シサムさんに引き継ぎたいです。」
シサムは少し驚いて、思わぬ掘り出し物が見つかったような喜びの表情になった。
「そうか。それは良きことじゃな。じゃが、魂力を使えぬワシがそんな優秀な者に教えれることはあるかのう。」
「はぁ、謙遜はや・・・・・・」
リーンが何か言いかけたところにアルバが食い入るように割って入る。
「爺さん、魂力使えないの!?」
「そうなんじゃよ。昔は使えたんじゃが、今は使えなくなってしまってのう。ここに来た4人の護衛の中で1番弱いんじゃよう。」
シサムは、悲しそうな表情をしてメソメソしていたが、声から微塵も悲しい感情が伝わってこない。
「もう、貴方が1番弱いってなんですか?私達は、まだ貴方に一撃すら入れることが出来ないのに・・」
「ヒョッヒョッヒョ、それはまだお主らが未熟じゃからじゃ。」
リーンが大きなため息をついてると、横からエルレが割り込んでくる。
「失礼かも知れないですけどー、魂力が使えないのにー、護衛が務まるんですかー?それとも本当は使えるんですかー?」
「シサムさんが魂力を使えないのは本当の事よ。それで護衛が務まるかはあなた達で体験しなさい。さっきキンチとやった事を3人で同時にやりなさい。」
「え?ワシ、無駄に疲れるの嫌なんじゃが。」
指南のやり方を全て任せると言ったシサムが手合わせを断るのを見て、リーンは少しイラつきながら答える。
「この前、私の水浴びを覗いていた事まだ許してませんからね。それなのに断るんですか?」
「・・・・・・」
シサムとアルバ達の1対3による手合わせが始まった。
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「そう!!そこよ!!思いっきり殴りなさい!!!!」
「リーンの奴、ワシを目の敵にしておるな。はぁ、弟子にそんな目を向けられるワシが可哀想だと思わなんか?む、答える余裕はないか。」
3人は何をしても攻撃を当てることすら出来ずにいた。
戦いに不慣れながらも工夫して、上に飛んだり、フェイントを入れたり、連携を取って攻めるが、そのどれも、シサムにかすりもしない。もちろん、魂力を使って身体能力は上げている。
「トーマ!エルレ!退いて!」
痺れを切らしたアルバが能力を発動し、棒のようなもので叩こうとしたが、その瞬間、シサムが視界から消えた。
「小僧よ、それはここでは使っちゃいかん」
「え、は、、」
刀の鞘が首筋にあたり、アルバは、はっとする。周りには荷車があり、能力を使用すると被害が及ぶかも知れない事に気づいた。
「...俺たちの負けです。」
「うむ、よろしい。周りの観察は常に忘れない事じゃ。じゃが、ワシに攻撃を当たらんことを察知してからの工夫は良かったの。」
「でも、一発も当たらなかった。しかも、片足しか使ってない人に、それじゃ意味ないだろ。」
「ま、確かに"正解"ではなかったの。じゃが、常に正解を選ぶなど無理な話じゃ。大切なのは、思考を止めず、常に最善を模索し続けること。思考を止めた時、人は初めて停滞するからの。当たらずとも、考え抜いて動いた経験は必ずお主の糧になるぞい。」
常に思考を止めない事。それは、グレイがアルバに伝えていた『理想だけではなく現実を考える事』と何か通じるものがあった。
だからこそ、その言葉は静かな波紋のようにアルバの心の奥底へと広がっていく。
「そうか。そういうものなのか。」
「ああ。そういうものじゃ。」
シサムは1仕事を終えて満足したのか、背伸びをしながらリーンの方へと振り返る。
「そうじゃ、リーンよ。引き続き、指南役はお前達に任せる。魂力以外にも教えることは山ほどあるじゃろう。それらも含んで、お主達がやれ。」
「え、それ本当ですか?」
「本当じゃ。人に何かを教える経験もお主達の糧となる。では、よろしく頼むぞ。ワシは疲れた。」
そうして、シサムは荷車の中に戻っていった。
その後しばらく、アルバ達はフラーテを含む今この場にいない商隊のメンバーが荷車に戻ってくるまで、その場で待機しているメンバーと自己紹介をしながら談笑をしていた。
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談笑時に、様々な事を聞いたアルバは1つ疑問に思っている事をぶつけた。
「ねえ、ヴィクトルっていう奴知ってる?」
「知ってるも何も、超有名人じゃない。」
リーンがそう言うと、周りのメンバーも『逆に知らなかったの?』という具合に囃し立てる。
「へぇー、そんな有名なんだ。どんな人なの?」
「世界で最も優れている軍人...そして、魂力使いの中では、『最強の魂力使い』と言われてるわ」
「最強・・・・・!」
周りにいるメンバーの1人が得意げに語る。
「『ガルメールの戦い』や『ミズムルド攻防戦』に始まり、色んな伝説を紡ぎ続ける、アークレムの英雄だぜ!男なら一度は憧れちゃうよなぁ。」
「あーくれむ?」
「あんたの住んでる国の名前よ。ここ、『アークレム』って言うの。世界で最も平和な国とも言われてるわ。」
アルバは彼のいた境遇から"平和"という言葉に疑問を覚え、質問をしようとしたが、遠くから戻ってくるフラーテ達の声と風の音に遮られた。
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フラーテ達が、7頭の馬と案内人を引き連れて戻ってきた。
アルバ達は談笑時に護衛を含む14人ほどのメンバーと2台の荷車でこの商隊が構成されていることを知り、戻ってきたメンバーを数えると全員いた。
「この生き物、馬にしては大きいな〜。あとなんかー、すっごく小さいけど、角みたいなものも生えてる〜。」
エルレがそう溢すと、いつの間にか気絶から復帰していたキンチが得意げになる。
「あれは馬ではなく、ラパと呼ばれる珍しい生き物で、馬より力強く、長い距離を走れるんだ!」
「へぇーそうなんですねぇ。だったら、全ての移動をラパ?がすればいいのに〜」
「まず、ラパ自体が珍しい生き物だし、なにより体格が大きい分、食費が嵩むんだ!だから、ラパを使ってるのは、俺たちが所属するツガーフ家のような一部の豪商達だけなんだよ。」
「うわーすごーい。キンチさーん。詳しい〜。」
キンチはエルレに煽てられて、鼻の下が完全に伸びきっている。
ここで、談笑時にアルバ達が聞いた範囲でのツガーフ家の説明をしよう。
ツガーフ家とは、1代目がとある鉱山の採掘権を独占することで1代で成り上がった豪商一族であり、この商隊のリーダであるフラーテ・ツガーフは3代目候補の1人であるらしい。
商隊が次の目的地への準備を終えて、出発する直前にフラーテが皆を集める。
「もう聞いた者もいると思うが、僕らの商隊に新しいメンバーが3人加わることとなった。3人ともまだ子供だが、魂力使いであるという。君らの方が年も歴も上だが、もし舐めた口を聞いたらぶっ飛ばされるかも知れないぞ(笑)。では、自己紹介を頼む。」
フラーテにそう促されて、3人がそれぞれ自己紹介をすると、少しの歓声と拍手がわく。
「どうやら、歓迎されてるようで良かったよ。では、そろそろ出発しようか。」
そうして3人は荷車に乗り込み、ラパが荷車を引き始める。
「行ってくるよ!グレイ!」
アルバは心の中でそう呟いた。
まだ見ぬ世界が、人々が、文化が、彼らを待っている。その未知との出会いは決して良いことだけではないだろう。
だが、そんな不安を塗りつぶすほど、彼の胸の鼓動は期待で高鳴っていた。
だって彼は知ってしまったから。
奇妙な力や道具を、想像しえない人や生き物がいる事を、自分たちが狭い世界で生きていた事を知ってしまった。
アルバのお気に入りの場所に、手紙と小さな土の山を残して彼らは旅立っていった。
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