第026話 十四歳の執務机を埋め尽くす恋文の山は、わたくしの事務処理能力に対する無慈避な挑戦状に他なりません
財務局という場所は、本来、王国の血税という名の生きた金が、わたくしの弾く算盤の音に合わせて脈動する、鉄とインクの聖域なのだが、最近の廊下には、帳簿の重みとは無縁の、薄ら甘くて嫌な熱気が漂っている。
わたくし、セレスティーナ・アデレイドは、手にした大事な書類の束を抱え直し、眉の間に深く刻まれた皺を隠そうともせずに、石造りの長い道を突き進んでいた。
十四歳という年が、この国においてどのような意味を持つのか、わたくしは少々考えが甘かったようだ。
大人の仲間入りをする儀式を前にして、わたくしの見た目がどうやら整ってきたらしく、それに合わせて、財務局の硬い守りをすり抜けて入り込んでくる不届き者が後を絶たない。
さらに困ったことに、学院の講義を終えてそのままこちらへ立ち寄ったエルメリンダ・ロートレックまでもが、この神聖な職場を我が物顔で闊歩している。
彼女は、この世で唯一わたくしが心を許す親友であり、そのあまりに素直で屈託のない性質を知っているからこそ、わたくしとしても彼女の来訪を無下に追い返すことができない。
彼女は『学院での流行りを教えに来て差し上げましたわ』などと嘯きながら、わたくしに並んで歩いてくる。
「セレスティーナ様! お待ちください! この、わたくしの命よりも赤い薔薇を受け取っていただきたい!」
曲がり角の陰から急に現れたのは、どこかの伯爵家の二番目の息子だったか。
彼は膝をつき、芝居のような手つきで一輪の花を差し出してきた。
わたくしは足を止める。
止めたくはなかったが、体で道を塞がれている以上、通り道の邪魔に他ならない。
わたくしの左目が、彼の内面を厳しく見透かす。
【わぁ、なんて美しい。その氷のような瞳で叱られたい。彼女に断られることで、わたくしの恋は永遠に綺麗なまま残るのだ】
呆れたことに、そこには企みもズルい考えもなかった。
あるのは、自分を物語の主人公だと思い込んだ、救いようのない勝手な満足感と熱い気持ちだけである。
わたくしは、差し出された薔薇を目の端で見つめ、それからゆっくりと時計を確認した。
「貴方。今、この瞬間にわたくしの足を止めたことで、国のお金を使う計画が正確に百二十秒、遅れたわ。貴方の家が納めるべきお金の何割が、この意味のない待ち伏せによって無駄にされているか、考えたことはございませんの?」
若者の顔から血の気が引いていく。
だが、わたくしの問い詰めはここからが本番だ。
「この薔薇にしてもそう。この時期にこれほど立派な大きな花を咲かせるには、暖かい部屋を保つお金、そして腕の良い庭師の手間が欠かせない。それを、ただの自分勝手な満足のために無駄にする。貴方の愛とやらは、我が国の働きをひどく邪魔する困った騒ぎ、そのものでしてよ」
「あ、愛を……騒ぎとおっしゃるのですか……」
「ええ、それも極めて質の悪いものだわ。わたくしにとって、時間は金銭よりも尊い宝。それを奪う者は、蔵から金を盗む泥棒と何ら変わりない。すぐに、その枯れていくゴミを持って立ち去りなさいな。さもなくば、貴方の家の持ち物を細かく調べ直し、次のお金の決まりに書き加えるようにお願いして差し上げますわよ」
若者は、言葉を失ったまま、崩れ落ちるように道を開けた。
わたくしは見向きもせず、背中を伸ばして仕事部屋へと急ぐ。
後ろでエルメリンダが、『また一人、犠牲者が……。でも今の断り文句、学院の掲示板に書いたらさらに人気が出てしまいますわね』などと、額を押さえながら恐ろしいことを呟いている気配がしたが、親友の無邪気な言動ゆえ、わたくしは小さく溜息をつくだけに留めた。
仕事部屋の扉を閉めると、ようやく使い慣れたインクの香りが鼻をくすぐり、わたくしの荒んだ心は安らぎを取り戻しかけた。
しかし、机の上に置かれた終わっていない仕事の山を見て、わたくしは再びがっかりすることになる。
そこには、お役所の書類に混じって、色とりどりの封で閉じられた個人の手紙という名のゴミが積み上がっていたのだ。
「わたくしは、財務局の門番に正しい教えを授けたはずだわ。なぜ、このような紙屑がわたくしの机まで届いているのかしら?」
「まあ、セレスティーナ! それはゴミではなく、貴女を慕う若者たちの熱烈な恋文ですわよ。見てくださいな、この金色の飾りを。この方は、貴女の賢さを褒める詩を添えてくださっていますの」
学院の帰り道、わざわざ恋文の運び屋を自称して財務局へ潜り込んだエルメリンダが、まるで自分のことのように嬉しそうに一通の手紙を広げる。
わたくしはそれを奪うように取り上げると、中身も見ずに、左目で本音だけを読み取った。
【セレスティーナ・アデレイドを妻に迎えれば、我が家の暮らしは安心だ。あの賢さ、あの計算の力……彼女を家の差配に置けば、私は一生遊んで暮らせる】
「……エルメリンダ。この熱い手紙の主は、わたくしをただの動く宝箱としか見ていないようだわ。この文章に並ぶ綺麗な言葉の九割は、わたくしを油断させるための偽の飾り。残りの一割は、自分の欲を流しているだけ。読む価値もないわね」
わたくしは迷わず、その手紙を細かく切り刻む箱へと放り込んだ。
「そんな! セレスティーナ、たまには一通くらい読んであげてもよろしいのでは? 貴女、十四歳なのですよ? 普通なら、誰が一番素敵な手紙をくれたか、お茶を飲みながらお話しする時期ですわ」
「お茶を飲む時間があるなら、王宮の道具の管理が甘いことを教える報告書を書くわ。エルメリンダ、貴女という人は、どうしてこうも筋の通らないことに一生懸命になれるのかしら。わたくしの見た目が良いという当たり前の事実が、これほどまでに仕事の邪魔をすること自体が、わたくしにとっては最大の失態なのよ」
わたくしは筆を手に取り、積まれた恋文の束を睨みつけた。
彼らが並べる甘い言葉の数々は、わたくしの耳には、壊れた算盤が鳴らす変な音にしか聞こえない。
愛している。
守りたい。
一生、貴女の家来になりたい。
……馬鹿げたことだ。
家来を雇って食べさせるお金がどれほどかかるか、彼らは分かっているのだろうか。
ふわふわした気持ちに包まれた彼らの言葉には、少しの誠実さも、一銭の価値も感じられなかった。
「エルメリンダ。わたくし、決めたわ。この溢れかえる恋文を、ただ捨てるのは確かに効率が悪いわね。これを役立てる案を、今すぐ行いましょう」
「……嫌な予感がしますわ。セレスティーナ、何を考えていますの?」
わたくしは不敵に微笑み、窓の外に見える王宮のお湯を沸かす建物を指差した。
「これだけの紙があれば、冬の王宮の火を焚くお金を少しは抑えられるはずだわ。送り主の熱い気持ちという力を、そのまま本当の熱に変えるの。愛の言葉が燃え上がり、お湯となって王宮を温める。これほどまでに完璧な、使い回しが他にあるかしら?」
「セレスティーナ……貴女、いつか本当に罰が当たりますわよ……」
親友が震えているのを余所に、わたくしは係の者に指示を出した。
これより、わたくし宛に届く恋文はすべて燃やすものとして扱い、その重さを記録すること。
浮いたお金の分は、次の仕事のための予算に加えること。
これこそが、十四歳のわたくしにできる、最も立派な世の中への尽くし方であると、わたくしの考えははっきりと告げていた。
しかし、それでも廊下の待ち伏せは減らなかった。
それどころか、厳しくあしらわれ、手紙を燃やされることに喜びを感じるような、おかしな連中まで現れ始めた。
わたくしは、仕事部屋で一人、深くため息をついた。
「……理解に苦しむわ。人間という生き物は、どうしてこうも無駄なものを積み上げることに夢中になるのかしら。わたくしのインクの香りを乱すほどに、彼らは救いようのないおかしな世界の中に生きているのね」
窓から差し込む夕陽が、わたくしの机の上のインクの瓶を金色に照らす。
大人の儀式まで、あと少し。
大人になるということは、この押し寄せる意味のない流れを、さらに上手く、さらに厳しく裁き続けることなのだろう。
わたくしは再び算盤を手に取り、その冷たい手触りに指先を這わせる。
乾いた音が、静かな部屋の中に、まるで雨垂れのように規則正しく響き渡る。
恋の予感などという不確かなものは、わたくしの人生の帳簿には必要ない。
この、揺るぎない数字だけが、わたくしの心を正しく整えてくれるのだ。
自分を慕う者の気持ちを薪にして、国の行く末を温める。
その非情さを、誰が責めることができよう。
わたくしは官吏であり、同時に一人の十四歳の少女でもある。
だが、そのどちらを選び取るかという問いに、迷いなど一厘も存在しなかった。
「さて、次は廊下の曲がり角に、勝手に入ってきた者からお金を取る箱を置くべきだわ。わたくしの前に立つ権利を、もっと高いものに決めなくては、わたくしの心の疲れが取れないもの。ねぇ、そう思わない?エルメリンダ」
親友の呆れたようなため息を聞きながら、わたくしは新しい計算を始めた。
夜が来る頃、財務局の高くそびえる煙突から吐き出される煙るは、少しだけ甘い香りがするような気が下。
それは、十四歳の私に向けられたたくさんの恋心が、国の温かな熱へと姿を変えた印なのだ。
その煙は、寒空へと消えていき、後にはただ、灰と数字の記録だけが残るのである。
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