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伸ばした道の代償

冬の海に朝日が差し込み、波の上に白い光が揺れていた。


本太城のある島から伸びた若木の先端が、海の中央でふるふると震えている。

その向こう、本土側から伸びてきたもう一本の若木も、同じように震えていた。


「……来るよ」


弥九郎は挿し木部隊の相棒、蜘蛛のツグミの背で息を呑んだ。

鳥や蜂たちが空で輪を描き、獣人たちが枝の上で固唾を飲む。


この数日間、全員が睡眠二〜三時間で交代しながら作業を続けてきた。

健司と繋がっていない若木は、少しでも方向を誤ればそれを正すのに結構な労力を使わなければならなくなる。

弥九郎は剪定で進路を調整し続け、

蜘蛛たちは足になり、枝から枝へ渡り歩き、

限界を越えた作業の連続。

だが──今日で終わる。

デカ木島から本太城、そして本土へ繋がるのだ。


二本の若木が触れ合う直前、弥九郎はツグミに合図した。


「ツグミ、支えてくれ」


ツグミが枝先に移動し、八本の脚で若木をしっかりと押さえ込む。

弥九郎は腰の小刀を抜き、若木の表皮──柔らかな“皮”をそっと削ぎ落とした。

薄く、細く、内側を傷つけぬように。

白い樹肉が冷たい海風にさらされ、ほのかに湯気を立てる。


本土側の若木にも同じ処置を施す。

皮を剥がれた二本の枝は、まるで互いを求めるように震えていた。


「……よし。寄せるぞ」


弥九郎が二本の若木をそっと引き寄せ、

露わになった樹肉同士をぴたりと重ね合わせた。


その瞬間、八本の脚が舞うように走り、ツグミが動いた。

絹糸が白い光を帯びながら枝を巻き、

重ねた樹肉をしっかりと縛り上げていく。


海風に揺れながら、

二本の若木は一本の命として脈動を始めた。


パァンッ


光が弾け、樹液が混ざり合い、海の上に一本の“命の道”が生まれた。


健司くんの意思が、枝を通して弥九郎の手に伝わる。


「……繋がった。児島と阿知潟が、今日ついに繋がったぞ」


歓声が上がる。

蜂たちが舞い、獣人たちが吠え、蜘蛛たちが脚を鳴らす。


歓声が海風に流れる中、

弥九郎は枝に手を置き、静かに目を閉じた。


──ここまで来るのに、どれだけのことがあっただろう。


脳裏に、数日前の光景がよみがえる。


最初の一本を本太城の裏庭に刺したのは、ほんの数日前だった。


あのときは、ただの“試し”のつもりだった。

健司くんの用意した指し穂がどうなるのか、確かめるだけの。


だが──


若木は一晩で十丈(三十メートル)も伸びた。


「なんだこれは……?」


枝が本太城にあたりそうになったので

驚きながらも、城に当たりそうな枝や

デカ木島の方へある枝だけを残し、

逆向きに生えている枝を剪定した。

すると若木は、まるで“道を理解した”かのように、

さらに勢いを増して伸び始めた。

これで健司くんにつながるとどうなるのか


繋げるには接ぎ木をやってみたらどうかと、

試しに剪定した枝を接いでみた。

普通は違う木の枝を接ぐのだが、

これは早く健司くんとの接続を早くしたいための接ぎ木であるので同じ枝だ。

健司くんから接ぎ木で使える枝を用意してもらった。

それを獣人達や虫達で運搬した


枝の皮を薄く剥ぐと、白い樹肉が露わになり、

健司くんの魔力がそこへ集まっていく。

接ぎ木用の方も合わさる所の皮を剥いで二つをくっつける。


次の瞬間──

ツグミが動いた。


八本の脚が舞うように走り、

絹糸が白い光を帯びながら枝を巻き、

二本の若木をしっかりと縛り上げていく。


パチン、と音がして、

二本の若木が一本の命として脈動を始めた。


「……繋がった……!」


弥九郎の手に、健司の意思が流れ込んだ。

まるで「これでいい」と言っているように。


接ぎ木は、ただの技術ではない。

 健司くんの魔力と、虫たちの力と、人の手が合わさって初めて成立する“術”だ。


ツグミは誇らしげに脚を震わせた。

その姿を見た数匹の蜘蛛が、同じように枝に寄り添い、

弥九郎の手元を真似るように糸を張り始めた。


この瞬間が、

後に“接ぎ蜘蛛衆”と呼ばれる者たちの、

最初の一歩だった。


接ぎ木が有効だと分かったので

どんどんと接ぎ木をして健司くんと繋がったとき

ドクンと若木がゆれ成長がとまる


『繋がったら制御出来るみたいだよ

 この調子でどんどん繋げて行こうか』

健司くんもノリノリで次々に指し穂や接ぎ木用の枝を伸ばしていく



弥九郎は目を開けた。

海の上で揺れる一本の若木は、

あの日の小さな発見が生んだ奇跡そのものだった。


作業が一段落したころ、健太郎が弥九郎の横に来て、ぽつりと言った。

「……これ、通行料を取ったらどうでしょう?」


「通行料?」


「ええ。人間は基本この道を通さないようにして

 虫を雇って運んでもらうしかないようにすれば。

 それを、虫たちの仕事にしてしまえばいい。冒険者の新しい稼ぎにもなる」


蜂たちが誇らしげに羽音を鳴らし、

蜘蛛たちは脚をカチカチと鳴らした。

まるで「任せろ」と言っているようだった。


弥九郎は海の向こう──阿知潟の村と、本土を見つめた。

「……なるほど。虫タクシーか。悪くないね」


健司の意志が枝を震わせ、まるで賛同するように脈動した。


作業が完全に終わったとき、

みつきは大きく伸びをして言った。


『じゃ、あたし赤間関行ってくる!

 年明け直ぐとか言ってもう4日になっちゃったし!』


「悪い。時間とらせっちゃったね。もう行くの?」


『うん! 弥九郎たちは式でしょ? あたしはあたしの仕事するだけ!』


蜂たちが一斉に飛び立ち、

みつきはその中心でくるりと宙返りした。


「……気をつけてな」


『任せて! またすぐ会えるよ!』


みつきは冬の空へ飛び去った。

その背中は、まるで新しい時代を切り開く風のようだった。


弥九郎は枝に手を置き、静かに目を閉じた。


「……これで、ひと段落だ。式までにはなんとか形になった。」


弥九郎がつぶやくと、冬の海風が一本の若木を揺らした。

その揺れは、まるで未来へ続く道を祝福するかのようだった。


式が終われば、健太郎たちはすぐに月山富田城の攻略に動く。

さらに海賊衆は赤間関へ向かい、大内家再興の狼煙を上げる。

この若木の道は、そのすべての始まりだった。



翌日。

大山祇神社の境内で、健太郎が桜と挙式を挙げた。


冬の陽光が社殿の屋根に反射し、

白無垢の桜の姿を柔らかく照らす。

健太郎は緊張しながらも、どこか誇らしげだった。


式が終わると、花火が上がった。

これは凪が海鬼丸から打ち上げたものだった

”たまやー”は凪がちゃんと発動さしたみたいで安心する。

その足で、元海賊衆は赤間関へ向かっていく。


健太郎も「後は任せましたよ」と弥九郎に言い残し、

鹿之助と共に姫路へ向けて出発した。

次に会うとき、彼はもう“出雲の領主”になっているだろう。


弥九郎はその場を離れようとしたとき、

背後から声をかけられた。

「おう、弥九郎ではないか」


聞き覚えのある低い声だった。


「お主、デカ木島に住んどったろ。

 伸びたあの木のこと、何か知っとるんか」

振り返ると、

そこには宇喜多直家が立っていた。


鋭い眼光。

笑っているようで、まったく笑っていない口元。

周囲の空気がわずかに冷える。


──しまった。


弥九郎の背筋に、ひやりとしたものが走った。


そうだ。

勝手に阿知潟へ繋げてしまったけど、

阿知潟は宇喜多家の領地だ。


つまり──

弥九郎は、宇喜多直家の領内に勝手に道を通してしまったことになる


宇喜多直家の声は穏やかだが、

その奥に冷たい刃が潜んでいた。


ここはとぼけるしかない

「……あれは、勝手に、阿知潟の方へ向かってしまいまして」


直家の目が細くなる。

「勝手に、のう」


「はい。良くわからないのですが、誰も制御できぬほどの勢いで伸びまして。

 放っておけば、どこへ向かうか分からぬ状態でした」


直家は無言で弥九郎を見つめる。

その視線は、嘘を見抜く獣のようだ。


弥九郎は続けた。

「危険ですので、冒険者というのを作って管理を始めました」


「冒険者……? 先ほど武吉殿が名乗るというとったあれか?

 作ったいうて、お主が作ったんか」

直家の眉が大きく動いた。


弥九郎はうなずき、丁寧に説明した。

「冒険者とは、どの領主にも属さず、危険な仕事を請け負う者たちです。

 僕が作ったわけではないんですが... 冒険者で組合を作り、その組合長ではあります。

 村上海賊も冒険者になりましたが、獣人もいますし

 虫や鳥と契約し、魔力を扱う者もおります。

 今回のような“勝手に伸びる木”の管理は、彼らの得意とするところでして」


蜂たちが空輸し、

蜘蛛たちが補修し、

獣人が根元を支え、

人間が剪定で誘導する。


それは、領主の軍勢では到底できない“専門職”だった。


「ふむ...うちのもんが木に登ってみようとすると

 虫が寄ってきて登れんかった言ようったわ。

 専門に扱えるもんがおったら安心じゃわのぅ」


直家はデカ木島から繋がっている木を見たのだろうか

これは専門職みたいにして直家殿に認めてもらうのが良いけど

通行料をとるというと、どんな反応をするだろうか

「虫同士はケンカしないようにデカ木島で調整出来ていますので、

 虫を雇って運んでもらえるようにしようと思っております。

 ですので、通行料を取り、維持費に充てようと考えております」

と恐る恐る言ってみると

直家の目が、わずかに輝いた。

「虫と意思疎通がかなうのか?……それに通行料、とな」


やはり通行料は反応してきたが、ここは冒険者の仕事にしなくては

今後大変なことになってくる。

「はい。最近デカ木島の技術で虫たちと意思疎通が可能になったのです。

 虫は馬よりも揺れが少なく、虫に鐙を付けるようにして乗れるようになりました。

 冒険者の新しい仕事にもなります」


直家は口元だけで笑った。

「ほう……虫にのぅ......じゃが領主の許可もなく勝手に伸び、

 勝手に道となり、勝手に金を取るのか。

 まるで陸地の海賊じゃが。 領主はどうなるんじゃ?」


維持していることで領主は得をしていると思わせなければ怒らせる――よな?

「そこは、木が勝手に伸びたもので、どこへ生えるかはわからないのです。

 一晩で1丈も伸びるんです。とにかく今は、田畑に害をなさないよう何とか維持しております」


「一丈じゃと!放っておいたらどうなるんじゃ?」

一晩で30mも伸びる木など、勝手にどこでも生えたら

その対応に沢山の人員を割かねばならない

計算の出来ない人ではない

「扱えますのは冒険者のみでございます」

と頭をさげて仕方ないんですよという表情を作り出す


直家はしばらく考え、やがて静かに言った。

「……弥九郎。

 その“冒険者”とやら、わしも詳しく聞いてみとうなった」


そして、ゆっくりと続ける。


「場所を変えようか。ここでは話し足りぬ。

 今後の事も考えねばならんしのう」

といって直家の船に“連行”されてしまった。


船内では塩飽海賊が道案内をしていたが、

村上海賊が冒険者になったと聞き、船内は大騒ぎになった。


「この者が冒険者組合長じゃ!」

と紹介され、

備前福岡に着くまで質問攻めに遭う。


どうやら、直家は“今後の会談”に弥九郎を連れていくつもりらしい。


──考えはまだまとまっていない。

だが、乗り切るしかない。


そう思っているうちに、船は港に着いた。


弥九郎が降り立った先──

そこは、あの 如水堂 だった。


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