撤退と退職 << ミナーク 3 >>
俺が王となった日 << ミナーク >>
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魔界の番犬・ケルベロス << ミナーク 2 >>
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「これは無理だ」
「撤退だ」
大臣たちが口々に騒ぎ始め、俺も自分の部隊に避難を指示したものの、城門を出て、堀を渡る橋の前で、誰もが立ち止まった。
強力な結界が行く手を阻んでいたからだ。
先程の会談で、結界に内外から部隊を突入させて全滅した話をしていたので、誰も突入ができなかったのだ。
俺は仕方ないと諦め、一人で城の北口へと向かった。
ロマール城は東西の堀に橋がかけられ、南北には橋がなかった。
俺は手に持った水時計を逆さまにして、そこから零れた水がきらめく砂に変化した時に、願いをかけた。
「ロマール城の結界よ、解けよ」
すると、城を覆う青白い光の壁が消えていった。
「効果はそれほど長くない」
橋の上で結界の消失に気づいた兵士たちが、対岸に殺到する足音が響き渡った。
「俺も急がねば」
俺は自分の部隊と合流して、橋を渡った。
全員が城から出たら、俺たちは官職を失った。
「これで他と変わらない、ただギルドになってしまいました。王国政権というギルド名も嘲りの対象になるでしょう。これからどうしましょうか?」
第二内政大臣だったライクが情けないことをいうので、俺は少し思案して、暫定政権というグループチャットを作り、ひとまず和平をした王立騎士団のセルバートと第一ギルドのファンリー、そして新世界ギルドのチャードンを入れ、それを王国チャットに公表した。
「これで、俺たちを見くびるギルドはないだろう。急ぎ、北西の小都市アグリを目指すぞ」
ゲームを閉じ、俺は現実世界に戻る。
近くのカフェでコーヒーを買い、穴場のベンチに腰掛ける。
眼の前の石壁を、水が静かに滝のように落ちている。
俺は転職で、悪くない会社に入ったと思う。
14時間勤務も、正社員なら今までもあった。
むしろ、基本土日祝日が休みというのは、今までなかった。
営業も苦手ではなかった。
まだ契約は取れていなかったが、楽しさを感じていた。
ただ、家から遠いのは、致命的になりつつある。
俺は今は実家にいる。
一つの選択肢として、実家を出て、会社の近くに引っ越すことが出来ないか。
俺は実は、再就職活動の費用を、親から借りていた。
まだ返済していない。
その上で更に引っ越し費用を借りれるのか。
今の職場で数ヶ月頑張って、自分の金で引っ越すのが筋だろうね。
実家なら金も貯まる。
ただ、その数ヶ月が、とてもきつい。
この状態では、耐えられないだろう。
そう、俺はもう、会社を辞める気でいた。
実家から通える範囲で働ける、まともな会社はないのか?
俺は昨年大学卒業してから転職を繰り返し、すでに4つ目の仕事だ。
でもそのうちのほとんどが、仕事を短期間で見つけていた。
手当たり次第の転職の繰り返しだった。
じっくり探してみて、実家から通って働き続けるならば、貯金は今まで見たことないくらい貯まるだろう。
親も今の仕事には心配していた。
親が寝たあとに帰宅し、親が起きる前に家を出る。
また転職するのは不甲斐ないが、親も許してくれる可能性はある。
決めた。
このまま、退職を伝えよう。
体調不良で営業活動がきつい。
そういえば良い。
俺はせっかく得たチャンスだったが、ここは諦めよう。




