あの日の思い出 << セルバート 6 >>
私の村が襲撃された日。
それはこのゲームにおける私の人生が、本当の意味で始まった日だった。
王様であるミナークに、ギルドの譲渡を求められ、私はそれを拒否した上に、国庫からの更なる支援を求めた。
ギルドは組織のリーダーが持つべきもので、ミナークが譲渡を求めたのはもっともな話だった。
私はなぜそこでわがままとも言える選択をしたのか。
それはミナークが横柄な態度でギルドの譲渡を要求したからだ。
こいつは私のリーダーには相応しくない。
私はそう思ったので、ただ要求を断っただけだった。
その日は内政官のザラが、一人の少年を連れてきた。
ヨーネスという黒人の少年だった。
村を持たない流れ者の少年ということだった。
私の村に滞在させることは出来ないかと聞いてきた。
私はかまわないと答えた。
私は単身赴任で他国に出向することが決まっていたから、家族ようなものを求めていたのかも知れないね。
その日は二人に、私のゲーム内料理を振る舞ったよ。
その時だった。
私の村が王国政権のメンバーに襲われたのは。
王国政権の軍事大臣である、ローバーとアクバルの部隊が、私の村を襲撃した。
アクバルは壊すだけだったが、ローバーは火矢まで放ちやがったから、私の村の被害はとても大きなものになった。
奴らは私の屋敷にも攻撃を仕掛けてきた。
私は少年を逃そうと裏口から出そうとしたら、少年は戦えると言う。
「もう村は燃えちゃってるし、炎の龍を召喚しても問題ないよね?」と聞いて来たので、「問題ない」と答えた。
こいつらが、次に襲うのは他のギルドメンバーだからだ。
ここで食い止めることが出来るなら、それに越したことはない。
ヨーネスはファイヤードラゴンを召喚した。
私はこのゲームで初めてA級魔法を見たよ。
ローバーとアクバルの部隊は這々の体で退却した。
サブリーダーのライゼンは真っ先に駆けつけてくれ、ギルドメンバーへ支援の要請を出してくれたし、ザラは王国政権の非道を王国チャットでとつとつと訴えてくれた。
「昨日までの仲間を突然強襲しますか?」と。
そうだ、あの時は、ゴールネスもイザベラも王立騎士団のメンバーで、私の村の復興に手を貸してくれた。
そしてその時、私の村が煌々と燃えていたおかげで、二人の旅人が来てくれたことも忘れたりはしない。
フェアリーとマイネ。
彼らは私の村を賑やかにし、王立騎士団を明るくした。
私はゲームの中で、もう一つの家族を得たのだ。
3人の滞在者の中では、マイネが一番幼かった。
彼は現実世界でも問題を抱えているかも知れない。
引っ込み思案で、私とは性格が違うようだ。
そう、私の娘に似ているな。
私は自分とは性質の違う娘の扱いに苦労した。
どう接して良いのかわからなかったのだ。
私は彼女の育児を母親に任せきりにしてしまった。
私は育児から逃げたことを認める。
だが、今回は違う。
私はマイネに対しては、男が何たるかを示すつもりだ。
フェアリーは別の王国でも遊んでいるようで、この王国にだけ時間を使うことは出来ないようだ。
だが、彼女はマイネの面倒を良く見てくれている。
まるでマイネのお姉ちゃんのようで、私は敬意を持って接してきたつもりだ。
ヨーネスに関しては、申し分ないプレイヤーだ。
彼はどんな戦いにも嫌な顔をせず引き受けて、必ず実行する。
戦自体は勝つこともあるが、負けることもある。
だが、戦を始めてくれるとこまでは、確実に計算できる。
どんな状況にあってもだ。
頼りになる長男といったところだ。
ライゼンじいさんは、良くできた人だ。
温和だが、戦のやり方もわかっていて強い。
王立騎士団のサブリーダーに相応しい男だ。
だが、王立騎士団の層は厚い。
私の女房役としては、ザラが適任者だ。
ザラは戦争し、勢力拡大する口実を次々に見つけてくれる。
悪女のように言うやつもいるが、根は温和だ。
サブリーダーとして、活躍してくれるだろう。
最も危険な状況に陥ったロマール連合軍との戦いに勝利してからは、私たちの快進撃は加速した。
長年の宿敵であった暫定政権と再戦して撃破し、降伏させた。
ミナーク元王はゲームを引退し、ギルド名は暫定政権からアグリの民に変更された。
そして私は王都の結界を解き、ロマール城に進軍して、先程、玉座に腰掛けた。
王立騎士団グループの誰もがそれを受け入れた。
その勢いを持って、私たちは異世界の闇の穴の中へ進軍した。
そして、この結果だ。
私たちのすぐ背後で、巨大なドラゴンの炎が着火した。
3000人いる兵力のうち、間違いなく1000人は被害を受けた。
あと10分後には、間違いなく私たちは全滅する。
私は何をすべきなのか。
マイネが、フェアリーが、ヨーネスまでもが、助けを求めるように私を見ている。
私に何ができるのか。
ヨーネスのファイヤードラゴンでも、あのドラゴンは倒せぬ。
規模が違う。
そもそもこんな破壊的なことが、当たり前のように起こるなら、ゲームとして成り立たない。
そんなゲームの運営会社の経営も怪しいと思われるだろう。
私はこの会社の従業員だ。
私にできることがあるだろうか?
この状況下でできることはあるのか?
絶望的な状況だ。
私はこのゲームを楽しみ始めていた。
それがたった一瞬で終わるというのか。
ここで死んだら、私の会社員生活にも支障が出かねない。
私がこのゲームを始めた理由は、みんなと楽しみたいからだ。
私がこの会社で働く理由は、そんな環境を守りたいからだ。
しかし、この状況はそれを許さない。
無理だろう。
全滅しか考えられない。
だとしたら、私に出来ることは祈ることだけだ。
冒険を停止し、王国の平和を祈ることだ。
この魔法の粉を使って。
それから先のことはあまり覚えていない。
深夜で疲れていたこともあったが、言い訳にはならないだろう。
わかったのは、私自身はトラブルに対処する力が高いわけではないということだ。
異世界に最後まで残っていたのはゴールネスだったようだ。
ベラトリクスが支援して、帰還に成功したとのことだ。
その異世界への穴は、フェアリーが持つ魔法の粉の力で閉じてくれた。
大臣室のもの以外にも見つかった、王都の3つの闇の穴も、フェアリーが封鎖した。
死者、負傷兵の救護は、ザラとライゼンが指示を出して行ってくれた。
私はただ彼らが動いてくれるのを見ていた。
もちろん、間違った動きをしていたら対処するつもりだったが、彼らは良い動きをしていた。
ヨーネスもマイネも、兵士たちの救護に全力を尽くしていた。
私はただ見ていただけだ。
異世界へ行くか行かないか、最高決定権を行使した結果がこれだ。
だが、今回の失敗は、私の油断した心を引き締め直すことになるだろう。
この後が本番だ。
これからが本番だ。
王国評議会を開催しなければならない。
私の王国運営は、これからが本番なのだ。




