王国に平和を << マイネ 14 >>
セルバートはケルベロスの死を確認すると、闇の穴への侵入の一番手に、提案者の西の強国ギルドのロドリゲスの部隊を指名した。
ロドリゲスが若干恐怖に顔を引きつらせたのは、見て見ぬふりをしてあげるべきだろうね。
誰だって、怖いものは怖い。
でも彼はその役目を見事果たし、「足元が悪いので騎馬は止めたほうが良いが、侵入自体は問題ない」と報告してきた。
続いて、西の強国ギルドの他のメンバーの部隊が入り、商人ギルド、懲罰ギルドの順で入り、最後に僕たち王立騎士団が入った。
僕らはセルバートやザラと共に、最後に入った。
闇の世界はゲームの中の世界と変わらない。
リアル社会とは違う、自然に満ちた空気だった。
重苦しさとか、毒に満ちた世界ではなかった。
もちろん、足元が悪いこの場所は沼地なので、沼特有の臭いはしたけれどね。
前方には沼地の向こうに水辺が見え、後方には青々とした山脈がそびえていた。
セルバートは足元のしっかりした場所にまず出ようということで、後方の山脈を目指した。
僕らは今度はセルバートと一緒に最前列で歩き出した。
歩き始めて少したった頃だ。
異様に甲高い鳴き声が聞こえた。
山脈の方の上空から、何かがこちらに向かってくるのが見えた。
「まずいな。あれはデカすぎる」セルバートが隣でそんなことを呟いたのを聞いた。
その直後だ。
甲高い鳴き声と共に巨大なドラゴンが、一気にこちらに飛んできて、炎の息を吐いた。
僕たちのすぐ後方にそれは着火し、部隊の1/3が炎に包まれた。
これはみんな死ぬ。
僕は即座にそれを理解した。
勝てる相手ではない。
僕はセルバートの方を見た。
フェアリーもヨーネスも、助けを求めるようにセルバートを見た。
それはセルバートが王立騎士団のリーダーであり、国王に相応しい男だからだ。
セルバートは安心しろというように頷いて、魔法の砂時計をねじり割り、飛び散った魔法の粉に願いを伝えた。
「王国に・・・」
その瞬間だ。
僕たちの身体が何かに引っ張られるように空中を飛び、闇の穴の中へと放り込まれたのだ。
次から次へと兵士たちが大臣室に飛ばされてきたので、僕たちはロマール城に残った兵士たちと協力して、彼らを中庭や大広間へと運んだ。
誰も兵士は数字だとは言わなかった。
500名ほどの兵士は、すでに死亡していた。
体が焼けただれ、うめき声をあげる兵士も同じくらいいた。
各ギルドのプレイヤー将校は治癒魔法を唱え、手持ちのポーションを惜しみなく負傷兵に与えた。
ヨーネスも回復魔法は得意ではないようだったけど、少しでも助けようと頑張っていた。
僕も回復魔法は得意ではないけど、火傷の箇所や、兵士の口に手を当てて回復魔法を送り込んだ。
異世界に最後まで残っていたのは商人ギルドリーダーのゴールネスのようだった
彼は最後に、口の中に炎を蓄積するドラゴンに向かって、人間が発せられる、敵に対する最も攻撃的な咆哮を浴びせ、即座に闇の穴に向かって走り出したそうだ。
その逃げ出すゴールネスに向かって、ドラゴンが炎を吐いたとき、異世界に姿を見せたベラトリクスがウォータードラゴンを召喚して、ドラゴンの吐き出された炎を消火したようだった。
そして、ゴールネスがこちらの世界に駆け込み、ベラトリクスも戻ってきたところで、フェアリーが魔法の粉の魔力を使って、闇の穴を閉じたという話だった。
兵士への治療はその日ずっと続いたが、回復はほとんどできなかった。
ドラゴンの炎の火傷には、何らかの魔力が込められているようで、魔法を受け付けなかったのだ。
誰も、異世界に入ろうとした僕らやセルバートの判断を責める人はいない。
だから僕らは余計に、兵士たちを治療しなければならないという思いに囚われた。
治療ははかどらなかったけれども、僕らは時間がある限り、魔力が回復する限り、回復魔法を唱えた。
翌朝、火傷をした兵士たちはみんな死んだ。
そして兵士だけでなく、将校たちも多く死んだ。
そしてその被害がもっとも大きかったのが、王立騎士団だった。
役員の中でプレイヤー将校を失った人はいなかったけれど、メンバーの中には何人かいた。
そして役員の中でも、プレイヤー将校以外の将校を失った人は多数いた。
その日、王都敷地内のロマール城の近くに、墓地を建設した。
フェアリーがその時に、呟いた詩のような言葉が、僕は忘れられない。
セルバートもそれを聞いていた。
セルバートはそれを墓碑にしようと言った。
フェアリーは少しはにかんで、青臭いポエムですと言った。
セルバートは「それは良い。ここにはその青臭い思いが必要だ」と言った。
「王国に平和を」
圧の強いセルバートが願った、この時の言葉を、僕は忘れることはないだろう。




