9:「待ち合わせ場所に来た相手が、約束を破っていたことに気づく」
※第9話には津波や東日本大震災を連想させる描写があります
※苦手な方は読まないでください
「ごめん、海の日だけは予定を入れたくないんだ」
毎年そう言ってデートも旅行も断る彼に、今年こそ約束させた。
私は三年間も海の日はひとりぼっちなのだ。
「私にも会わないで、海の日に何やってるのよ? 元カノに会ってるとか?」
浮気を疑ったら、彼はようやく観念した。
「どこがいい?」
「海の日だから、海に行きたい」
「わかった」
私が行きたいのは、インスタ映えするおしゃれな場所。
それがわからない彼じゃない。
だけど、前日眠れないほどワクワクした初めての海の日旅行は、待ち合わせから暗雲がたちこめていた。
彼の車は首都高ではなく、東北自動車道へ入った。
時々休憩はとったけど、四時間半も乗せられて辿り着いたのは東北の寂れた町並みだった。
不況と酷暑で潰れた浜茶屋があるような浜辺で、全然おしゃれじゃない。
「湘南じゃなくて悪かったな」
彼は私の本音を見透かしている。
「どうしてこんなところに連れてきたの?」
しまった。声に棘が含まれている。
「太平洋なら、どこだって同じ海だろ」
「はあ……?」
彼は海ばかり眺めている。
私は気づいてほしかった。
湘南とかおしゃれな場所で、インスタ用の写真やTikTok用の動画を撮りたかった。
そこには、必ずあなたがいる。
それ以上の喜びはないのに。
なんで、こんなださいところに。
「俺の家族は、みんなあそこにいる」
「海しかないじゃない」
「あの日から、家族はみんなこの海にいる」
「……」
私は波打ち際から目を逸らした。
それは可哀想なことだけど、私とのデートにどんな関係があるというの?
私はスマホを取り出して、帰りの電車を調べた。
泣けばいいのかしら?
私が泣き出すと彼は優しくなって、あらゆる手を尽くして機嫌をとってくれる人だった。
「今日は俺の家族に会ってくれて、ありがとう」
私は口も聞きたくなかった。
無言で車に向かう時の、彼の背中はよく覚えている。
あんなに頼もしかった人なのに、あの日の背中は孤独すぎた。
とてもじゃないけど、いつものように抱きつくことはできなかった。
彼は津波で家族を亡くし、私も家族も震災の被害をテレビで見たことがあるだけだった。
その後、私から連絡を取ることはなかった。
彼からは毎日のようにLINEが届いた。
電話も鳴った。
共通の友人から伝言を預かった。
でも、私はあの日、インスタ映えする海に行きたかったの!
その願いだけは、別れる日まで変わらなかった。
サブタイトル「絶対に結婚してはいけない二人」




