8:「十年ぶりに開けた引き出し」
引き出しを開くと古い紙の匂いと一緒に、秘められた過去の残り香が解き放たれた。
十年前、軽い気持ちで開けた時には、姉に秘密があることに面食らって呼吸が浅くなった。
「お弁当まだ?」
「はい。もうすぐだよ」
「もうお風呂に入るの?」
「今月は赤字で」
「すみません。いろんなものが値上がりして」
「おまえが無駄遣いするのが悪い」
「……ごめんなさい」
姉の給料は「実家暮らしなんだから当然」という母の一言で、毎月消えた。
母は姉の腹の贅肉を掴んで笑った。
父はずっとテレビを見ていた。
私も笑った。
「お姉ちゃんさ、こんなことやって恥ずかしくないの?」
私は引き出しから出した雅人への手紙を、姉に突きつけた。
翌日に弁当はなかった。
姉は首を吊ったのだ。
それから十年間、コンビニ弁当でお昼を済ませ、うちは常にゴミが溜まって荒れ果てている。
私は雅人への手紙を読むうちに、姉にとっての本当の家族は彼だけだったんだと思い知る。
だって私は母に溺愛されているけど、バイトすら長続きしない無能で、小遣いはねだれば手に入るけど、一人暮らしは決して許されない。
我が家は少しずつ破滅に向かっているけど、私は止めることも逃げることもできない。
流れ落ちた涙が封筒にしみを作る。
ピンポーンと、インターホンの音が聞こえてきた。
慌てて涙を拭いて玄関に行き、扉を開けると、見知らぬ男性が立っていた。
イケメンというほどはないが、清潔感のある好青年という感じだ。
「誰?」
「雅人です」
「なっ……!」
腕に鳥肌が立ち、冷や汗でシャツが背中に張り付く。
雅人は、姉しか知らないはずの名前だった。
「手紙だけ返してくれませんか? 復讐とか考えてないので」
それを知っているなら雅人本人であることは間違いない。
私は大急ぎで部屋に向かい、手紙の束を持ってきた。
数を確認しながら、雅人は言う。
「ありがとうございます。それでは」
帰り際に雅人は振り返った。
「あの人は、最後まであなたの話ばかりしていました」
私は必死で涙を押し留めた。
私に泣く資格はない。
でも、この家を出て、両親と絶縁しようと決心した。




