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7:「真夜中。主人公は十年ぶりに実家へ帰ってきた。玄関の扉を開けると、家の中は誰もいないはずなのに、台所から物音がした」
実家に着いたのは真夜中だった。
特急とバスを乗り継いできたせいで疲れているし、眠くて機嫌が悪い。
今は墓じまいとか、仏壇や神棚の魂抜きなんてどうでもいい。
中に入ったらすぐに布団を敷いて寝よう。考えられるのはこれだけ。
玄関の扉を開けると、家の空気は閉め切っていたはずなのに、煮物の湯気のような匂いが漂ってきた。
靴を脱ごうとした手が止まる。
喉が鳴った。
台所からトントンと包丁で野菜を刻むリズミカルな音、コトコトと煮物を煮る音、ジュージューと肉を焼いている音が聞こえてきた。
「おかえり」
母の声が耳の奥でよみがえる。
今にも母親がエプロン姿で顔を出しそうだった。
だが、両親も祖父母も、何年も前に見送った。
呼吸が浅くなり、背中に冷や汗をかく。
台所の奥は真っ暗なのに、音だけが生活の時間を送っていた。
俺は玄関脇のスイッチを片っ端から押すと、座敷に閉じこもった。
座敷の押し入れから出した布団は少しカビの匂いがするが、もう気にしていられない。
朝になれば、全部夢だったと思える。
そう信じて目を閉じた。
眠りに落ちる直前、台所から包丁を刻む音が、もう一度だけ聞こえた。




