35:「夜のコインランドリーで、乾燥機が一台だけ回っている」
仕事のことで落ち込んでいたある日のこと。
コインランドリーに洗濯物を取りに来た。
夜という時間帯のせいか、店内には私しかいない。
怖いというより、ほっとした。見知らぬ人にまで気を遣いたくないからだ。
乾燥機の中で、衣類がぐるぐる回っている。
けれど、その乾燥機に使用中の表示がない。
さらによく見ると、回っている衣類の中で、見覚えのあるものが混ざっていた。
「か、課長?」
布のように薄い課長のガワが、乾燥機の中でぐるぐる回っている。
あまりにもひどい光景に目眩がした。
「大丈夫ですか?」
「あっ……」
若い女性に声をかけられて我に返る。
「大丈夫です」
彼女があれを見たら、気絶するのではないか。
すると乾燥機が終了を知らせる音を鳴らした。
若い女性は、おもむろに乾燥機へ手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと」
止める間もなかった。
彼女は扉を開けると、課長のガワを無造作にエコバッグに詰め込んだ。
唖然としている私に、彼女は微笑んだ。
「父がお世話になっています」
「ええっ!」
父親と違って礼儀正しい。
「母と私できつく叱っておいたので、明日からパワハラとかしなくなると思います」
「そ、そう」
どうやら、洗濯すると更生するらしい。
そんな馬鹿な思うのに、理屈よりも明日の課長の方が気になる。
「お先に失礼します」
「はい……」
女性を見送る。
その夜、私は人生で初めて、明日の出勤が楽しみだった。




