34:「夜のコンビニ」
仕事帰り、夜のコンビニに立ち寄った。
店員はかわいい子だけど、型通り「いらっしゃいませ」と声をかけてくる。
飲み物とサラダチキンを選んでレジへ向かうと、店員さんが不思議そうな顔をした。
「お客様、今日は何を買いに来たんですか?」
俺が答える前に、店員さんは続ける。
「昨日も、その前も、何も買わずに帰られましたよね?」
ところが、俺は昨日このコンビニに来た記憶がない。
「人違いじゃないですか」
「そんなはずは……」
自動ドアが開いて新たな客が入ってきた。
いらっしゃいませを言おうとした店員さんが凍り付いた。
客の顔は俺と同じだ。
服装も体格もよく似ている。
「よう、大輝」
「あ、一輝」
「こんなところで何してるんだ?」
「困るよ。俺が先に目を付けたのに」
「まずは何か買うところから始めよう」
親しげに話す俺たちを見ている店員さんの顔が青ざめている。
流石に可哀想になった。
「俺たち、双子なんだ」
「え……?」
店員さんが目を丸くする。
「怖かった? ごめんね」
種明かしすると店員さんはほっとしたようだ。
だが、次の瞬間、妙なことを言い出した。
「双子なんて……」
「え?」
まさか、騙されたなんて言うつもりか?
騙す気なんか、端からないのに。
「お祭りに丁度いいじゃないですか!」
「はあ?」
店員さんは目を輝かせながら、俺たちを勧誘した。
「お祭りに双子がいるんです。この地区では双子がいなくて、伝統のお祭りが廃止の危機に瀕しているんです!」
「それは大変だね」
「でも、俺たち仕事があるから」
しかしまだ会計を済ませていないので、店から出られない。
「着物を来て三十分間、ずっと座っているだけの簡単な儀式です」
「いいよ」
「大輝」
「祭りって楽しそうじゃん」
「職場になんて言うんだよ?」
「もちろん、謝礼はたっぷりお渡ししますよ」
「やります!」
金目当てじゃない。
地域の伝統が途絶えないように協力するだけ。
それに店員さん、かわいいから。
「打ち合わせはどこでやるんですか?」
「うちの座敷です」
もしかして親御さんに会えるかも。
ちゃんとした服を着ていこう。
靴も新品に履き替えて。
「特別な準備はいりません」
店員さんがレジから出てきた。
近くで見ると彼女はますますかわいい。
そして雷が落ちてきたようなショックと痺れを感じて床に倒れ伏した。
「スタンガンよ。違法改造してるけどね」
かわいかったはずの店員さんが、魔女のような邪悪な笑みを浮かべている。
「こいつらを蔵に運んで、閉じ込めておいて」
「はい」
店長どころか、たまたまいた客もグルだった。
彼らは俺たちをロープで縛って猿轡を噛ませ、裏口からトラックの荷台に乗せた。
手際がよすぎるから、同じことを何度かやってるんじゃないか。
「お嬢、今年はもう駄目だと思ってました」
「寸前で双子が手に入るとは、お嬢はすごい強運ですね」
「お喋りをしている暇はないわ。早く生贄を蔵へ運んで」
「はい」
俺たちは、これからどうなるんだろう。
本社の命令でこんな田舎に転勤しただけなのに、なぜこんな目にあわなきゃならないんだ。
それに生贄ってなんだよ?
まさか俺たち殺されるのか?
でも、舌も身体も動かない。
トラックは走り続けている。
警察に通報しようと思いつくが、スマートフォンは拘束された時に奪われていた。
何度かカーブを曲がったあと、トラックは止まった。
扉が開くのが恐ろしいと感じたのは、人生で初めてだった。




