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30/34

30:「夜、礼冷蔵庫を開けると、昨日買った覚えのないケーキが入っていた」



 今夜もなかった。何って、アレだよ。

 妻は赤ん坊にかかりきりで、俺を蔑ろにしている。

 腹が立つが、イクメンと呼ばれたい。

 また赤ん坊が夜泣きした。

 しばらく寝付けそうにないし、なんか酒を飲むか。

 冷蔵庫を開けると、買った覚えのないケーキが入っていた。

 生クリームの甘い香りに、思わず生唾を飲み込む。

 一ホール食べたあとの妻の顔を想像すると、ワクワクした。


「いただきます!」


 生クリームの濃い味が、子どもの頃食べたバースデーケーキを思い出す。

 苺や桃など果物の瑞々しさは、スーパーのものじゃない。

 スポンジ生地がふわふわで、俺の好みに合っている。

 これは高級品の味がする。

 食費は毎月一万円と決めたのに、あいつは贅沢してパティスリーのものを買ってきたに違いない。

 あとで罰を与えよう。

 いつの間にかケーキは、あと一切れしか残っていない。

 独り占めするんだとフォークを入れようとしたその時。


「助けてよ、あなた!」


 妻が邪魔しに来た。

 ケーキで盛り上がった心が一瞬で冷めた。


「まったく、おまえというやつは! どうして男を立てることができないんだ!」


「今夜だけでいいから、赤ちゃんをあやして。私三日も眠れなくて、もう限界なの」


「知るか! 俺を蔑ろにしやがって!」

 

「してないわよ。私はただ、赤ちゃんの面倒を見てほしいだけ」


 妻の目がテーブルに釘付けになる。


「な、何それ?」


「無断で贅沢した罰だ」


 妻がヒステリー起こすかな? 

 それとも泣くかな?

 これを機にシメてやるんだ。

 俺をナメた女さんに罰を――


「うっ……」


 妻はえづいた。

 想定外の反応に、俺の頭が真っ白になる。


「あ、あなた。なんてものを食べてるのよ!」


「何ってケーキを。羨ましくないのか?」


「何言ってるのよ。人を食べておいて」


「人?」


 妻の演技は迫真ものだが、俺を脅かした罰は受けてもらおう。


「よく見て。これ、目玉よ!」


「……」


 ケーキの最後の一切れには、プリプリの目玉が三個も入っていた。


「オェェェ!」


 俺は吐いた。

 ゲロには女の指、子どもの耳、得体の知れない肉が含まれている。

 冷蔵庫には確かに、ショートケーキがあったと記憶してるのに。

 なんで俺の胃から、人体のパーツが出てくるんだよ。

 慰めてほしくて妻を見るが、そこにはいない。

 あいつは寝室でスマートフォンを操作していた。

 画面に表示された「緊急通報」の文字が見える。


「やめろ、バカ!」


「きゃあ!」


 俺は妻を殴った。

 この女は俺の足を引っ張ることしかしない。

 重い罰を下して、わからせてやるんだ。

 もう一発殴ろうとした時、視線を感じて振り返ると、ケーキに飾られている目玉が俺をじっと見ている。


「ひいぃ」


 俺は助けてほしくて妻を見た。

 しかし、あいつはスマートフォンの「緊急通報」をタップした。

 赤ん坊が泣いている。

 この子は、父親がいないとして育てられるのだろう。




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