26:「返さなかった電話」
休日の夜、スマートフォンに知らない番号から電話がかかってきた。
お酒を片手に一日中動画を見ていたのに、気分が一瞬で冷めた。
着信音は十分も鳴り続けたけど、出たくない。
だらける幸せを邪魔された恨みばかり募る。
私は不貞寝した。
月曜日の朝、大急ぎで支度を整えていると、電話がかかってくる。
スマートフォンの画面を見ると、昨日の番号からの電話だった。
少し苛つきながら電話に出ようとした瞬間、着信が切れる。
「なんなのよ、もう?」
その直後、留守番電話に一件のメッセージが入る。
「昨日、どうして電話に出てくれなかったの?」
私の声だ。
「お願いだから、あんな男と結婚しないで!」
私の声で好き放題言われて、唖然とした。
「吉田さん。年収一千万円の。彼と結婚したって、いいことなんかない。家事はやらないし、モラハラされるし、マザコンでもう一人子どもがいるみたい」
散々な言われようだな、と他人事みたいに考えてしまった。
でも、私のプライベートに詳しすぎて気持ち悪い。
「漫画家の後藤さんにしなさい。最近連載が決まったし、ヒットすれば印税が入ってくるわ」
なぜ彼のことまで知っているのか。
どうやって情報を手に入れたのか。
私の周りにストーカーがいる?
いや、でも、声が私と同じだ。
私が私に電話しているの?
馬鹿らしいと笑い飛ばそうとしたが、笑えなかった。
「不幸になりたくなければ、私の言うことを聞きなさい」
母そっくりの言い方にイラッと来た。
私はスマートフォンを操作して、留守番電話のメッセージを削除し、電話番号をブロックした。
「誰と結婚しようが、私の勝手でしょ」
出勤前の貴重な時間を無駄にしてしまった。
今日のお化粧は手抜きせざるをえない。
スマートフォンを鞄に入れようとした時、メッセージが届いた。
吉田さんと後藤さんからデートのお誘いが来た。
なぜか嬉しくなかった。
二人とも、なぜ忙しい朝にメッセージを寄越すのか。
私の都合を考えてよ。
突然スマートフォンが着信音を鳴らす。
番号は違うけど、またあいつだと直感が告げる。
私は電話に出た。
「私は結婚しません。それと結婚相手を年収で決めるの、人としてどうかしてますよ」
そう言うと、電話番号をブロックした。
早く行かなきゃ遅刻しちゃう。
たぶん、電話してきたやつは未来の私なんだろう。
でも、私はあんな自分になりたくない。
誰と結婚するかも、結婚しないかも、私が決める。
老後の資金のために、今日も働こう。
私はスマートフォンを鞄に仕舞った。
「……って、遅刻する!」
私は慌ててアパートを飛び出した。




