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21:「返せなかったもの」
引っ越しのために部屋を片付けていると、机の奥から古いゲームソフトが出てきた。
ケースを開く。
ディスクの表面を指先でなぞると、十年前テレビから流れていた音楽まで蘇った。
農民だった勇者が聖剣を抜き、魔王を倒す旅に出るゲームだった。
ドラゴンに焼かれても、仲間を失っても、勇者は立ち上がった。
俺も、何度ゲームオーバーになってもコントローラーを握り直した。
学校で一番ヤバイと言われていたやつに絡まれた時も、そうだった。
「あんたは間違ってる」
言った瞬間、教室が静かになった。
翌日から、昼休みの席は一つ余った。
体育のペア決めでは、最後まで俺が残った。
それでも帰宅すると、俺はゲーム機の電源を入れた。
勇者は何も言わず、剣を握っていた。
だから俺も、もう一度立ち上がれた。
あれから十年。
俺はゲーム機の電源を入れた。
画面は真っ暗だった。
メーカーのサイトを調べると、倒産していた。
工場も閉鎖。修理も受け付けていない。
「これ、借りパクじゃん!」
思わず笑った。
俺は勇者から『勇気』を借りた。
なのに、まだ返していない。
ネットオークションを開く。
ゲーム機の相場を見て、貯金残高を確認する。
少し迷ってから、購入ボタンを押した。
待ってろよ、勇者。
今度はちゃんと返すから。




