2/34
2:開かない扉が、今日は少しだけ開いていた
昨日まではいつもと変わらない一日だったのに、開かずの間の扉が、今日は少しだけ開いていた。
暗闇の奥が「入っておいで」と囁いているようだった。
でも、部屋の中には誰もいないのに、誰がどうやって開けたのか?
いや、そう考えることは検証してみように繋がるから駄目だ。
私は開かずの間をなるべく見ないようにして、出勤の準備を整える。
鏡だけを見続ける。
開かずの間を視界から追い出すために、一時間も化粧に没頭した。
家を出ようとすると、どうしても開かずの間が視界に入ってくる。
この扉を開けたらどうなるのか?
好奇心は猫を殺すと言われている。
いや、それより、私はかつて母が引きこもっていた部屋なんかに入りたくない。
私は母とは違う、と自分に言い聞かせる。
私は玄関で靴を履く。
しかし、母はあの部屋で何を思っていたのだろうと考えてしまう。
私の言葉はなぜ届かなかったのか――いけない、いけない!
玄関に立っていたはずなのに、いつの間にか開かずの間まで三歩のところに立っていた。
ただ、私は母と同じ過ちを繰り返す気はない。
だから、何事もなかったように振る舞って家の外に出た。
仕事に打ち込めば、開かずの間のことは忘れられると信じている。




