16:「夏の朝のラジオ体操」
朝だけは涼しい夏休みの朝。
私を含めた子どもや大人たちが、いそいそと公園へ行く。
ある程度人数が集まると、古いCDラジカセからラジオ体操第一の音楽と号令が流れてくる。
みんなが一斉に動き出し、私も運動音痴ながら懸命に体を動かす。
次はジャンプを伴う運動という、その時だった。
「ガルサミ星人、触手じゃなくて腕をきちんと伸ばしなさい」
奇妙な指示を私は確かに聞いた。
でも、他の参加者たちは気にする様子もなく、いつもと同じようにジャンプを始める。
(ガルサミ星人?)
私もやや遅れて運動を始めるが、みんなが着地している間にジャンプし、みんながジャンプしている時にはジャンプしていた。
見られてるよね。間違っていると言われたら恥ずかしいな。
最後の深呼吸をしてラジオ体操が終わる。
それからカードにハンコを押してもらうのだが、聞こえてきた。
「ガルサミ星人は擬態が不十分。次から気をつけて」
またガルサミ星人だ。
ふざけているのかな?
でも、町内会の人がふざけるメリットなどないはずだ。
私の番が来た。ハンコを押してもうカードを差し出す。
「ガルサミ星人、私の言ってることがわかりますか?」
まさか、私に向かって言っている?
私はちゃんと教わった通りに擬態している。
余計な部分も隠している。
それなのに大勢の宇宙人が集まる場で名指しは、ひどすぎる。
「差別はやめてください」
「しっ。人間に聞こえたらヤバイぞ」
「お互い様でしょ」
うしろの列から早くしろと苦情が入ったので、講師は私のカードにハンコを押し、私は列から外れた。
手足の数が人間より多くて、触手など持っている私たちは人間たちから宇宙人と呼ばれている。
ラジオ体操は新人類潜入過程の必修科目だ。
さて、私は公衆トイレに入り、手洗い場の鏡に自分の擬態を映してみる。
群衆の中に埋没しそうな平凡な少女の見た目で、肘関節の可動域に合わせて腕を動かす。
首を回転させてはならない、足は順番に動かす、様々なルールを再確認した。
トイレから出ると、蒸し暑くなっていた。
日本とかいう地域の夏は異常に暑いせいか、子どもたちは外で遊ばない。
それではエナジーを吸い出せないので困る。
今日も一人だけ元気がなくなるだろう。
でも、人間は「夏バテ」と呼ぶらしい。




