14話:「鏡の中の自分だけが、昨日の出来事を覚えていた」
早朝。私は起き抜けに鏡を見た。
鏡の中の私は、人差し指で机を二度叩いた。
私は同じように二度叩き返す。
昨日の私からの合図だった。
私は同じ時間を繰り返している。
ループに気付いたのは一週間前だ。
その頃は、鏡が昨日を覚えているなんて思いもしなかった。
私は椅子の背もたれを撫でた。
鏡の私は昨日の合図を繰り返す。
私は椅子を元に戻す。
明日の私は、これを見れば思い出す。
そして私は支度を整えて、昨日と同じ会話をする家族との朝食を澄ませる。
チャイムの鳴る順番も、先生の冗談も、友達が笑う場所も昨日と変わらない。
友達と寄ったトイレの手洗い場で、私たち以外の黒い影が、鏡の奥に立っていた。
「可哀想に。もう人類は滅びているのに、この子だけは今日を……」
「はあ? 何言ってるの?」
「夢から覚めても、あなたの命は……」
それきり、鏡の奥の影は喋らなくなった。
授業が終わって友達と挨拶してから帰路につく。
これも何度も繰り返しているけど、飽きはしない。
そして家に帰ったら、自分の部屋のエアコンをつけて、鏡を見る。
「ねえ、あれって本当?」
鏡の中の私は無反応だった。
ただ鏡らしく私の動きを真似するだけ。
「私は滅びたって、べつに良いんじゃないかって思ってるよ」
だって、日常という素敵か夢の中でみんな微睡んでいるんでしょ。
それは幸せなことなんだよ。




