7 皇帝陛下崩御
燕鶯が旅立ってから七日が過ぎた。
林杏が言うには国境の町啓安に到着するのに、まだまだ日数はかかるという。
前庭に立ち、一心は夜空を見上げた。
晴れ渡った空に流れる天の川。瞬く星は近くて手を伸ばせば届きそうだ。
あいつ、今頃どこにいるんだろう。どこかで野営をしているのだろうか。ちゃんとしたもの食ってるだろうか。腹壊してないか。
一心ははっとなる。
気づけば燕鶯のことばかり考えている自分がいる。
「姉姉、そろそろお部屋に戻りましょう。風が冷たくなってきました。お風邪を召します」
近づいてきた詩夏が上着をかけてくれた。
長い間外で立っていたせいで、体が冷え切っていたことにようやく気づく。
「姉姉、心配なさらずとも大丈夫ですよ。陛下は武芸にも秀でた方です。だから絶対に戻ってきます」
詩夏はにこりと微笑んで、慰めの言葉をかけてくれた。
よく見ると鼻の頭が赤い。詩夏もずっと側についていてくれたのだ。
一心はかけてもらった上着を脱ぎ、詩夏の肩に羽織らせた。
「悪いな、寒空の下で立たせてしまって。私は大丈夫だ。鍛えているし。それよりも、詩夏が風邪をひいて倒れられたら困る」
いいえ、と詩夏は首を振る。
確かに、今ここでオレがあれこれ悩んでもどうしようもない。無事に帰ってくることを信じて待つしかない。
「なにか体が温まるものでも作ろう」
厨房へ向かおうと歩き出したその時、林杏が血相を変えてこちらに駆け寄ってきた。
「凜嬪さま!」
「どうした? 林杏が慌てた顔で走るなんて珍しいじゃないか」
林杏の目からぽろぽろと涙が落ちる。
「なに泣いてんだよ。何かあったのか?」
燕鶯を見送るときに感じた胸騒ぎ、嫌な予感。
まさか……まさかだよな。
「陛下が」
一心はごくりと唾を飲み込んだ。堪えて林杏の言葉の続きを待つ。
「陛下が……崩御されました――」
一瞬、林杏が何を言っているのか理解できなかった。頭の中が真っ白で、林杏の声が遠くに聞こえるようだ。
「う、嘘だろ。あいつが死ぬわけがない」
一心は旗袍の裾を思いっきりたくしあげ、月明宮から出て行こうとする。
「凜嬪さまどこへ!」
「あいつの元に行く。確かめるんだ!」
「凜嬪さま、どうか落ち着いてください!」
冷静を欠いた一心を、林杏が宥める。
「必ず帰ってくるって約束した。あいつが死ぬわけがない!」
燕鶯! 戻ってくるって約束したじゃないか!
燕鶯は啓安の町へ向かう途中の山で盗賊に襲われた。
一心は否定するように首を振る。
たかが盗賊に燕鶯がやられるわけがない。おそらく、何者かによって殺害された。燕鶯を玉座から引きずり下ろすために。だとしたら、燕鶯を襲ったのは皇后一派による者か。
すべて、皇后と皇后を支持する一派によって物事が運んだのだ。




