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転生したら後宮妃!? ―料理で陛下の胃袋を掴んだら、寵妃になってしまいました―  作者: 島崎紗都子
第4章 陛下と朝を迎える? いや、ほんとに何もなかったから!
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5 皇太子候補

 それは朝議の場で起きた。

「他に上奏はあるか? なければ……」

 そこへ、一人の重臣が前に進み出た。

「陛下、以前からお願いしていたことですが」

 言葉を濁す重臣の態度に、燕鶯は眉根を寄せる。


「なんだ? はっきり申してみろ」

「今はまだ我が国の情勢も落ち着いているとはいえ、いつ何が起こらないとも限りません」

 すると、それに続くように別の臣下たちも前に進み出る。まるであらかじめ示し合わせていたようだ。

「その通りでございます。事実、辺境では盗賊が横行し無辜の民を苦しめていると」

「民の不満が増長すれば、陛下の信頼も失われましょう」

 燕鶯は眉をあげ、目の前に並ぶ臣下たちを玉座から見下ろす。

「つまり、何が言いたい」


 一部の臣下たちが互いに顔を見合わせ、何やら目で合図している。そこへ、別の重臣が皇帝陛下の前に出て頭を下げた。

 皇帝を敬っているようで、その態度の端々に奢り昂ぶったものを感じさせた。

「陛下、前々からお願いしている通り、この機会にどうか皇太子をお立てください」

 そう進言するのは、皇后の父蘇琴哲(そきんてつ)であった。先帝からの寵臣として朝廷でも顔を利かせ、今でも燕鶯の補佐を務めている男だ。

 朝議の場がざわついた。


 蘇琴哲は若くして即位した燕鶯を助けてきた頼りになる臣下であった。

 玉座についた当初は燕鶯も彼を頼りにしていた。だが、しだいに蘇琴哲に欲が出てきたのだろう、自分がこの国になくてはならない存在と過信するようになった。そして蘇琴哲は自分の娘を燕鶯の正妻として娶らせ、己の地位を確実なものへと固めた。

 そこから権力を欲しいままにし、自分の意見に反対する者がいれば容赦なく排除し朝廷から追い出した。


 実質、この男が朝廷を支配しているといっても過言ではない。だが、蘇琴哲の横暴ぶりに腹を立て、彼を失脚させようとする反対派もいる。それが寧貴妃の一族と、その一族を指示する者たちであった。

「何を言う蘇琴哲、見ての通り私は元気だ。皇太子を立てるつもりはまだないが」

「そうですぞ、蘇琴哲殿! 陛下はまだお若い。皇太子選びもこれからじっくり見定めてから立てるべきだ。今ではない!」

「その通り! 皇太子を決めるのは早急というもの。それに今なぜそのような話を持ち出さなければならない」


 蘇琴哲に対立する一派が口を揃えて言う。

「ですが陛下、先程も申した通り、いつ何があるやも分かりませぬ。万が一の時を考え、やはり、跡継ぎを決めておくことによって、民の憂いを払拭することもできましょう。民を安心させることも陛下の務めでございます」

「何を言う! 民の憂いを拭うならば、皇太子を立てるよりも、まずは盗賊どもを征伐すし民の安寧を取り戻すことが先決ではないのか!」

「民の安寧もそうですが、皇太子を立てることによって、この先皇子たちの帝位争いを回避することもできます」

「陛下、皇太子冊立を望む者はたくさんおります。彼らの要望を陛下は必要ないの一言で無下にするというのですか」


 燕鶯は肘掛けに肘をつき、臣下たちを睨み据える。

「なるほど。おまえたちはお飾りの皇帝である私の意見には聞く耳を持たぬということか」

「そうは言っておりませぬ。皇太子の座が空いたままでは、政局の安定にも支障が出る恐れもあるからです」

「では参考のために聞こう。そなたたちは誰を皇太子に立てよと? ふさわしい者は?」

「それは……」


 皇太子冊立を望む者たちは、再び顔を見合わせた。

「おまえたちが推したいと思う皇子がいるのだろう? 遠慮せず申してみよ」

「やはり、皇太子に相応しいのは朱皇子(ジユフアンズー)ではないでしょうか」

 ほう? と燕鶯はおかしそうに片眉をあげた。無言で重臣たちの言葉に耳を傾ける。

「朱皇子は陛下にとってもご長男であり、皇太子として申し分ないでしょう」

 朱皇子とは今年十三歳になる皇后の一番目の息子だ。

 別の臣下もその通りだと頷いて同意する。

「私も朱皇子さまこそ適任だと思います」

「何を言う! 皇太子は能力で選ぶべきだ」

「能力と申すなら、朱皇子さまは徳と仁を兼ね備え、学問も優秀でございます。それに兄弟たちの面倒見もよく、彼らも兄である朱皇子を慕っております」


 朱皇子を皇太子にと推す彼らに対抗し、反対派が反論する。

「しかし朱皇子さまは体が弱い。季節の変わり目になると体調を崩し寝込むこともしばしば。それで皇帝という重責に堪えられるのか」

 第一皇子、陛下の嫡子ということで朱皇子は、未来の皇帝となるべく、幼い頃から学問や武芸を厳しく教え込まれてきた。皇后は息子の教育にとても熱心で、都でも優秀な教師を何人も招き皇子の先生とした。だが、反対派が言う通り、朱皇子は体が弱く、冷たい風にあたるだけですぐに風邪をひき、体調を崩すことがたびたびあった。

「第一皇子を貶めるような発言、聞き捨てなりませぬぞ!」

「事実を言ったまでだ!」

 朝廷の場が騒がしくなる。


 燕鶯は玉座からまるで他人事のように臣下たちが言い争うさまを眺めていた。

 燕鶯の目元が細められる。口元には皮肉な笑み。

 これほど朝議で活発に意見が飛び交うことも珍しい。

「わかった」

 燕鶯の一言に、この場が一瞬にして静まる。

「では、朱皇子を皇太子に!」

「そう急くな。先程も言ったであろう、参考のために聞いたと。皇太子はまだ立てるつもりはない。以上だ」

 燕鶯はきっぱりと言い、朝議を閉廷した。

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