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転生したら後宮妃!? ―料理で陛下の胃袋を掴んだら、寵妃になってしまいました―  作者: 島崎紗都子
第4章 陛下と朝を迎える? いや、ほんとに何もなかったから!
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2 酒杯を交わす

 毎月一日と、十五日は皇后と過ごす決まりがある。燕鶯は皇后が住まう黎明宮を訪れるために向かった。ふと、どこからともなく漂うおいしそうなにおいに足を止めた。

「凜貴人さまですね。最近では他の妃たちにも食事を作って届けることがあるようですよ。今宵は何をお作りになったのでしょう」

 御前太監の孫旺千は言う。

 燕鶯はうむと頷いた。


「月明宮にお寄りになりますか」

 行き先を変更するかと尋ねる孫旺千に、燕鶯は否、と首を振る。

 予定通り皇后の元へ向かおうと歩き出したが、数歩進んだところで再び足を止めた。

 今日は政務に忙しく、まともな食事をとる暇もなかった。今夜は皇后と夕餉の膳をともにし、泊まる予定だ。

 燕鶯は腹のあたりを手で押さえる。

 空きっ腹に直撃するニンニクと、甘辛い醤油の香り。一気に腹が減ってきた。


「陛下?」

 孫旺千が上目遣いで見上げてくる。

 我慢ができない!

「月明宮に行く」

 心得ましたと、孫旺千は行き先を変更する旨を伝えた。




 月明宮では今宵もメシテロ的な香ばしい醤油の香りが辺りにただよっていた。正殿の前庭では、まるでお祭りでもやっているのかと思うほどの明るさと賑わいだ。

 前庭の木に赤や橙色の提灯をぶらさげ、その下で一心が炭火鉢に鍋を乗せ何かを煮込んでいる。

 こうして好き勝手ができるのも、月明宮が人目につきにくい後宮の外れにあるからだ。

「できたぞ」

 一心はできたての料理を皆に配る。


「こんなおいしい東坡肉(トンポウロウ)は初めてです!」

「じっくり煮込んだから味が染みてうまいだろ。で、こうすると、さらにうまい」

 一心は煮込んだ東坡肉を、半月型の白い饅頭に切り込みを入れ、挟んで詩夏に渡す。

「ほら詩夏、食べてみ。割包(ガーパオ)だ」

「わあ、おいしそうです。しっとりつやつやとした肉のかたまり。脂身はぷるぷるとゼリーのようですね。いただきます!」

 詩夏が口を開け、はむりと割包にかぶりつく。


「うーん!」

 幸せそうな顔で詩夏が頬を押さえ瞳を潤ませた。

「噛んだ瞬間にあふれる脂身の旨味。じっくりと柔らかく煮込んだ濃厚なお醤油の味が口の中に広がり、鼻に抜けていきます。脂身はくどいかなと思うけど、でも決してそうではなく、赤身との均等がとれてお口の中でしっとりと溶けていきます」

 かぶりついた時に、あふれた肉汁が詩夏の手に伝っていく。詩夏は垂れた肉汁をペロリと舐めた。


 宮女が大口を開けて食べるのも、こぼれた肉汁を舐めるのも、はしたないと怒る者はここにはいない。かつて行儀作法にうるさかった林杏も、割包を頬張り、幸せそうな顔をしている。

「ん?」

 ふと、一心は門の辺りに燕鶯が立っているのに気づき手をあげた。

「よお燕鶯、ちょうど饅頭が蒸し上がったところだ、食っていかないか」

 相変わらずの凜貴人の態度に燕鶯は苦笑する。

 孫旺千は渋い顔だが、凜貴人が陛下のお気に入りということもあり、特に叱ることもなかった。


 一心に手招きをされ、燕鶯はつかつかと歩いてくる。

「凜花、そなたは相変わらずだな」

「無礼な態度を改めろって言うのか? 無理だな」

「かまわん。むしろ、その飾らない態度がいっそう清々しくて好ましい」

 はは、と笑って一心は頭に手を置いた。


「それにしても、ここはいつ来ても祭りのような賑わいだな。今日の夕飯はなんだ?」

 一心はできたての割包を燕鶯に手渡した。

「これは?」

「うまいから食べて見ろ」

 燕鶯は饅頭の中に挟んだ角煮をしばし見つめ、ぱくりとかぶりついた。

「うまい」

 一心はだろ? と満足げに頷く。

 燕鶯はぺろりと角煮を挟んだ割包を平らげた。


「完食とは珍しい。もっと食うか?」

「いただこう」

「よし、ちょっと待て」

「私も手伝おう」

 一心の側に近寄ろうとした燕鶯は、不意に足元をよろめかせた。

「おい、大丈夫か!」

 すぐに一心が燕鶯の体を支える。


「陛下、お怪我はありませんか! 誰か侍医を呼んで参れ!」

 慌てて孫旺千が駆けつけようとしたところを、燕鶯は大丈夫だと手をあげる。

「少しめまいがしただけだ。すぐにおさまる」

「めまいって、具合でも悪いのか? 無理しないで医者に診てもらったほうがいいぞ」

「本当に大丈夫だ。しばらく政務が忙しくてあまり寝ていなかったせいだろう」

「寝る暇もないくらい忙しいのかよ。皇帝ってのも本当に大変なんだな。少し寝所で横になってろ。立てるか? 私の肩につかまれ」

 燕鶯の腕を肩に回し、一心は部屋へと連れて行く。

 側で孫旺千がおろおろしているが、燕鶯は私にかまうな、というように目で合図をする。


「足取りがおぼつかないな。もしかして、ちゃんと飯食ってないだろ?」

「確かに、忙しさのあまり食事をおろそかにしていた。それに、あまり食欲がない日が続いていたせいもあるのだろう。だが、先程の割包はうまかった」

「もう少し食べられるか? 食べられるのなら食べたほうがいい」

 燕鶯を部屋に連れて行き椅子に座らせた。すぐに詩夏が割包を乗せた皿をテーブルに置く。食欲がなかったと言っていた燕鶯だが、二個目の割包も瞬く間に平らげる。

 一心は椅子に座り、酒杯に酒を満たし飲み干した。

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