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転生したら後宮妃!? ―料理で陛下の胃袋を掴んだら、寵妃になってしまいました―  作者: 島崎紗都子
第3章 底辺だった妃が、陛下の寵妃になって出世街道まっしぐら!
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4 命の恩人

「正直、戻ってこないかと思っていた」

 素直に言う一心に、小幽子は深々と頭を下げる。

「そう思われても仕方がございません」

「母ちゃんの具合はよくなったか?」

「はい。凜貴人さまからいただいた銀子で医者を呼び、薬も買うことができました。いただいた人参と阿膠の効果もあり、母の病も回復に向かっています。もう心配はないと」

「それで戻ってきたのか。そのまま、母ちゃんの側についていることもできたのに」

「いいえ、もう大丈夫です。後は弟たちが母の面倒を見てくれるので」

「そうか」


 小幽子は改まって、一心の前で拝礼する。

「母の命を救ってくれた凜貴人さまのために、これからは凜貴人さまに一生変わらぬ忠誠を誓います。絶対に裏切ったりはしません。私の命を捧げます」

 小幽子の言葉に、一心は困ったように頭を掻く。

「やめてくれよ。忠誠を誓うとかそういうのは。それに、おまえの命はおまえのもんだ。オレに捧げなくていい」

「いいえ、罪を犯した私を許してくださっただけではなく、母のことまで気にかけてくださいました。凜貴人さまは母の命の恩人です」

「まあ、おまえの母ちゃんが無事だったのは本当によかったよ。これからも困ったことがあれば一人で悩まずに言ってくれ。オレにできることがあれば力になるから」

「凜貴人さま……」

 感極まった顔をする小幽子の前に、一心は湯円の入った腕を差し出した。


「今日は元宵節だってな。これはおまえの分だ。元宵節にこれはかかせないだろ?」

「あ、ありがとうございます。いただきます」

 小幽子が部屋を退出したあと、林杏は気難しい顔をする。

「凜貴人さま、あの者が戻ってきたのは予想外でしたが、あそこまで心を砕く必要はないかと」

「そう言うな。宮中で優しさはいらないって言いたいんだろ。だけど、困っている人がいれば手を貸してやりたいと思うのが私の考えだ。だからもし、林杏も困っていることがあったら遠慮なく言って欲しい。私のためにいろいろやってくれているのは知っている。私も林杏のために何かをしたいと思っている」

 林杏は複雑な表情を浮かべた。


「本当に変わられましたね。以前の凜貴人さまでしたら、いつも部屋に閉じこもり、なるべく他人とはかかわりを持とうとはしなかった。私どもにも心を開くことも。だけど、今は違う。まるで別人のようです」

 そう言って、林杏はじっと一心を見つめる。


「凜貴人さま、川に飛び込んでから、何があったのですか?」

 一心は林杏から視線をそらす。

 自分が本当の凜貴人ではない。未来からやって来た李一心という名の男で、李凜花の体に転生したと言ったら信じてくれるだろうか。

 虚言を語る頭のおかしい奴だと思われるに決まっている。けれど、心のどこかで林杏を信じて話してもいいのではと思うのもあった。

 それでも迷う一心に、林杏はいいえ、と首を振る。


「話したくなければ、無理して語らずともいいのです。たとえ、凜貴人さまが変わろうとも、皆、凜貴人さまを慕う気持ちはかわらないでしょうから」

「林杏……」

 話してみるべきだろうか。林杏なら真剣に話を聞いてくれるかもしれない。元の時代に戻れる方法を一緒に考えてくれるかも。

「林杏、あのな!」

「陛下のおなり」

 そこへ、燕鶯陛下がやって来たことを告げる御前太監の声が聞こえた。


 一心は肩の力を抜いた。張り詰めていた緊張が一気に抜ける。

「何だよ! 人の決心を邪魔しやがって! だいたい、呼んでないぞ」

 そう呟くと同時に、旗袍の裾をさっと手で払いながら燕鶯が部屋に入って来た。一応礼儀として陛下を迎える挨拶をするが、一心の表情はまったく歓迎していない。


「政務の合間をみて訪れたというのに、なんなのだ、そのあからさまに嫌そうな顔は」

「嫌っていうか、まあ確かに嫌だけど。それ以上に、他の妃に誤解されるから来るなよ。そうだ、寧……」

 寧貴妃が今どうしているのか燕鶯に聞こうとしたが、すぐに林杏がコホンと咳払いをする。どうやら、今ここで寧貴妃の話題を口にするのはヤバいらしい。

 一心が手にしている椀の中身を見た燕鶯は、ほう、と声をもらす。

「湯円か。凜貴人が作ったのか?」

 物欲しそうに見られたら、燕鶯にも渡さないわけにはいかない。

「食うか?」

「凜貴人さま、言葉使い」

 一心の言葉使いを注意する林杏に、燕鶯はよいというように手をあげた。


「凜貴人と私の仲だ。気にしなくてよい」

 どういう仲だよ。

 一心は湯円の入った腕を燕鶯に差し出した。

「色とりどりで、美しい湯円だ」

「紫芋、ほうれん草、にんじんをそれぞれすり潰して生地に練り込んだ。湯円に浸っているスープは自家製の甘酒」

「うむ、良い香りがする」


 燕鶯はさじで湯円をすくい、一口食べる。

「甘くて優しい味だ。口の中で湯円が溶けていく。凜貴人の手料理は絶品と宮中でも評判だが、本当なのだな」

 料理を褒められ、一心はふふん、と得意げに口元に笑みを浮かべる。

 燕鶯はぺろりと湯円をたいらげた。


「おいしかった」

「そうか、よかった。じゃあ、私は夕飯の仕込みがあるから」

 だから帰ってくれと言わんばかりに、燕鶯に背を向けた一心の腕を、燕鶯はつかんで引き止めた。一心は振り返り眉根を寄せる。

「なんだよ」

「凜貴人、少し花園を散策しないか?」

「遠慮しとくよ。男と花園なんか歩いて何が楽しい」

「凜貴人さま、ぜひそうなさいませ!」

 言い訳がましく散策を断る一心に対し、この好機を逃すものかと林杏はすかさず言う。


「いや、でも夕飯の支度が……」

「今夜は別の者に夕飯を任せましょう。だから、ぜひ花園を散歩してきてください!」

 渋る一心の肩を押し、林杏はしつこく散歩に行くことをすすめてくる。

「行こう、凜貴人」

 差し出してきた燕鶯の手を、一心はじっと見下ろす。

「さあ、凜貴人さま」

 林杏に促され、一心は口を歪める。

 なんで男と手を繋がなきゃなんないんだよ、と思いながら一心は嫌々、燕鶯の手を取る。林杏と詩夏に背中を押され、一心は渋々といったていで燕鶯と手を繋ぎ花園に向かった。



 月明宮の厨房の隅に座り、小幽子は凜貴人から渡された湯円を口に入れた。

「おいしい……おいしくて優しい味。まるで凜貴人さまの人柄があふれるようです」

 小幽子はあふれる涙を手の甲で拭った。

「凜貴人さまにお仕えすることができて、私は幸せです」

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