表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/57

14 親しくなれないものか

「菓子もどうぞ、私が作った」

「けっこうよ。おまえが作ったものなんて、食べる気がしないわ」

 ひどいことを言われても、一心はまったく気にしない。

 一心は椅子の上に立て膝をつき、じろじろと寧貴妃を見る。


 やっぱ、美人だよなあ。ちょっときつめでクールな感じもいい。


 だらしがなく目元を緩ませる一心の顔を見て、寧貴妃は口元に手巾をあて眉根を寄せた。まるで、汚物を見る目だ。それでも一心はめげない。

 一心から目をそらした寧貴妃は、部屋を見渡す。

「月明宮に陛下が訪れたというのは本当なの?」

「訪れたといっても、突然やって来てすぐに帰った」

「すぐに帰った? 何もなかったの?」

「そう、何しに来たんだか知らないけど、すぐ帰った。まあ、みんなが言うほど、あいつは私のことなんて興味がないと思うぜ。てか、興味持たれても困るし」

 断言する一心の言葉に安心したのか、寧貴妃はいつもの自信たっぷりな笑みを取り戻す。


「そうだと思っていたわ。陛下がおまえのような女を気にかけるはずがないもの。月明宮を訪れたのもただの気まぐれ」

「そうそう、ただの気まぐれ」

「おまえのように美人というわけでもない、教養もない。実家だって落ちぶれている。そんな女を気にかけるだけ無駄ですもの」

「そうそう、ムダムダ」

 散々言われているがそれでも一心は気にしていない。それどころかお気に入りの寧貴妃を目の前にすこぶる上機嫌だ。

 機嫌がよくなった寧貴妃を、機嫌良く見つめていた一心の耳に、外から騒がしい声が聞こえてきた。


「いけません、小黒(シヤオヘイ)さま! そちらに行ってはなりません!」

 部屋の外が騒がしい。何事だろうかと様子を見に行こうとして扉を開けた瞬間、いきなり黒い毛玉のようなものが飛び込んで来た。反射的に一心はそれを受け止める。

「きゃあ! 凜貴人さま!」

 それは黒いふわふわとした毛並みの子犬であった。

「凜貴人さま、大丈夫ですか!」

 林杏と詩夏が顔色を変えて駆け寄ってくる。

「大丈夫だ。見ろ、子犬だ。黒い毛並みのポメラニアン。可愛いな」

 一心は腕の中で懐いてくる子犬に頬ずりをした。


「小黒が私以外の者に懐くなんて」

 寧貴妃が驚いたように言う。

「へえ、寧貴妃さまのわんこだったのか。可愛いなあ、小黒って言うんだ。よーしよしよしよしよし良い子だ」

 背中を撫でると、小黒は嬉しそうに尻尾を横に振り、ベロベロと一心の顔を舐めまくる。

「おいおい、やめろよ、やめろって、可愛い奴め。腹は空いてないか? なんか食うか?」

 寧貴妃は一心の腕から小黒を引きはがす。

「小黒を返しなさい!」

「私も子どもの頃犬を飼っていたんだ。小黒は寧貴妃さまに懐いているんだな」


 寧貴妃に抱っこされ小黒は嬉しそうにハアハアと舌を出し、尻尾を振る。

「犬好きに悪い人はいないって言うし。なあ、今までのオレたちの関係がどうだったか知らないけど、犬好き同士、これからは仲良くしないか」

 まずはお友達からだ。

 寧貴妃はふんと鼻で嘲笑う。

「冗談ではないわ。おまえみたいな器量も要領も家柄も悪い女なんてごめんよ。仲良くですって? おまえと同等だと思われたら迷惑。それに、おまえのナメクジみたいな目つきが大っ嫌い。気持ち悪い!」

 寧貴妃は立ち上がった。


「もう帰っちゃうのか! もうちょっと話をしようよ……って行っちまった」

 一心は未練がましく、扉にすがりつき寧貴妃の姿を見つめている。

「いくらなんでも、あんな言い方はひどいです。姉姉はどうしてそう笑っていられるんですか。寛大すぎます。以前の姉姉だったら、泣いて部屋に引きこもってしまわれたのに」


 まあ、オレは本当の李凜花じゃないからな。


 それにしてもこの体の持ち主である凜花って、どういう女だったんだよ。

 周りの人から嫌われ、意地悪をされ、陛下にも相手にされない。そのせいで荒れ果てた月明宮で寂しく暮らしていた。

『冗談ではないわ。おまえみたいな器量も要領も家柄も悪い女なんてごめんよ。仲良くですって? おまえと同等だと思われたら迷惑』

 先程の寧貴妃の言葉が頭の中で何度もこだまする。

 一心は腕を組んだ。


「なあ、どうにかして寧貴妃と親しくなれないものかな。まじで好みなんだ」

「無理だと思います」

「絶対、無理です!」

 林杏と詩夏がさらりと言いながら、後片付けを始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ