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7 悪女との対決!?

「よし、後宮を牛耳る悪女との初対決だな」

「だから! 対決はだめです! 寧貴妃さまにきちんとご挨拶をしてください」

 一心はおう、とうなずいて、手巾を持つ手をあげ軽く膝を曲げた。

「ごきげん麗しゅう、寧貴妃娘娘、苑嬪娘娘」

 林杏から教わった作法通り、自分よりも位の高い妃嬪たちに挨拶をする。

 詩夏も頭を下げ一歩下がった。

「あら凜答応ではないの。後宮の片隅で暮らすあなたがこんな場所にいるなんて、いったいどういう風の吹き回しかしら」

 寧貴妃は軽くあごを持ち上げ、半眼でこちらを見下す。紅を塗った朱い唇がつり上がり嘲笑を浮かべていた。


 うひゃー! めちゃくちゃ心臓がばくばくする。ヤバいよ、ヤバい!


「寧貴妃さま、最近の凜答応は御膳房に行って、残り物をあさっているのですって」

「まあ、気の毒だこと」

「それどころか、誰も凜答応の食事を用意する者がいないから、今では自分で料理をしているそうよ。ふ、後宮の妃ともあろう者が残り物で料理をするなんて。でも、それも仕方がないわ。凜答応は一度も陛下からお声をかけてもらったことがないから。だから、後宮の片隅に追いやられ存在も忘れられている。御膳房の奴婢たちが食事を作り忘れてしまうのも無理もないわ。それに、なんといっても月明宮は実質、冷宮のような場所ですもの」

 苑嬪はべらべらとよく喋る妃だ。

 苑嬪は口元に手をあて、クスクスと笑う。侍女たちも口元を歪ませ、侮蔑のこもった目で凜答応を見つめていた。

 一心は顔を真っ赤にしながら、肩を震わせた。


「あら、顔が赤いわ。怯えているの? それとも、本当のことを言われて悔しさのあまり震えている?」

「寧貴妃さま、そんな意地悪を言ったら、いつものように凜答応が泣き出してしまうわ」

「苑嬪」

 感情のない声を落とし、寧貴妃はまなじりを細め隣にいる苑嬪に視線をやる。

「私がいつ凜答応に意地悪を言ったかしら。まるで私が凜答応をいじめているみたいに聞こえるじゃない。私に何か恨みでもあるのかしら、苑嬪?」

「ひっ!」

 と、小さな悲鳴を発し、苑嬪はその場に膝をついた。同時に苑嬪の侍女たちも主にならって膝をつき地面にひたいをつける。


「口がすぎました。どうかおめこぼしを!」

 苑嬪は肩を震わせ、さらに言い訳を続ける。

「寧貴妃さまは皇后に次ぐ立場のあるお方。後宮の指南役として行き届かない者を指導するのが寧貴妃さまのお役目です!」

「そうよ、意地悪ではないの。私はいまだ後宮に馴染めない凜答応を気にかけているだけ」

「その通りでございます! どうか……どうかご寛恕のほどを!」

 苑嬪は何度もひたいを地面に叩きつける。

 寧貴妃の唇に緩やかな笑みが浮かんだ。


「立って、妹妹。私は少しも気にしてないわ。これでは本当に私が苑嬪をいじめているみたいよ、紫蘭(ズーラン)

 寧貴妃は側仕えの侍女紫蘭に、苑嬪を立たせるよう目で合図する。

 跪き、何度も地面に叩きつけるようにして謝罪していた苑嬪のひたいは、赤くすり切れ、血が滲んでいた。しかし、これだけで済んだのは苑嬪にとって不幸中の幸い。

 どうやら、寧貴妃を怒らせることなく、うまく乗り切ったようだ。あるいは、よほど寧貴妃のご機嫌が良かったのか。

 ヤバいよ、ヤバいよ! まじでヤバい!

 一心は食い入るように寧貴妃を見つめた。


「凜答応、寧貴妃さまを見つめるとは無礼ですぞ!」

 寧貴妃の侍女紫蘭が声を荒らげ注意する。

 二人の妃にバカにされ、一心は悔しがっているかとおもいきや――。

「なんて、美しい人なんだ……これって一目惚れ?」

 まじでオレ好みなんだけど! 好きだ。オレの彼女になって。付き合ってください、お願いします! と、一心は心の中で叫ぶ。

 一心は鼻の下を伸ばしてニヤつき、寧貴妃から視線をそらせずにいた。

 おもいっきり鼻から息を吸う。

 あー、良い匂いがする。この甘い香りに身も心も包まれたい。

 一心はぐっとこぶしを握りしめた。惜しむらくは、寧貴妃が皇帝の妻だということ。

 寧貴妃の眉がぴくりと動く。

「なんなの? そのナメクジのような目つき。気持ちが悪いわ」

 ナメクジと言われても気にしない。一心の目は変わらず寧貴妃に熱視線を送っていた。

 ふと、寧貴妃の目が一心の持つ丸々と太った鶏に向けられた。それから、詩夏が手にしているカゴに視線を移す

「そのカゴの中身はなにが入っているの?」

「今日の晩飯の材料だ。もち米と……」

「ふうん。いったい、おまえはどんなものを食べているのかしら。あまりにも粗末なら私が直接御膳房に口利きをしてあげてもよくてよ。さあ見せなさい。紫蘭」

 寧貴妃の侍女紫蘭が、詩夏が抱えているカゴを奪おうとする。

「やめてください。これは凜答応さまのものです!」

 奪われてたまるかと、詩夏はカゴをぎゅっと胸に抱えるが、紫蘭は無理矢理奪い中を確かめた。


 カゴの中身はもち米の他に、ナツメ、栗、ニンニク、生姜、長葱、松の実、枸杞の実など、たくさんの食材が入っていた。

「よかったら夕飯、食べに来ないか? 高麗人参があるからそれを使って料理をしようと思ってんだ」


 うわ、好きな女性を食事に誘うって緊張するぜ。


 しかし、食事に誘われた寧貴妃は、きっとまなじりをつり上げる。

「行くわけがないでしょう。それに、高麗人参だなんて、どうしておまえごときがそんな貴重なものを手に入れられるの? もしや、御膳房から盗んだのではないでしょうね? 盗みがバレたら重罪よ」

「違うよ。陛下から貰ったんだ」

「陛下がおまえに……」

「嘘を仰い! 陛下がおまえごときに、そんな貴重なものを贈るわけがないでしょう!」

 そう言って、寧貴妃の侍女は手にしているカゴの中身を投げ捨てようとする。

「そこまでになさいませ」

 後宮ナンバー2の権力を持つ寧貴妃の侍女の暴挙を止めたのは、意外なことに太監総管の孫旺千であった。

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