第8話:連携の心得
防衛部では、個別訓練は若葉を昴、六花を泉が指導している。
二人まとめて教える場合は実戦を昴、座学を泉、武器のメンテナンスや事務全般を千代が担当していた。
今日は座学。
「基本は身についてきたから、今日からは応用編にいくよ」
放課後のグラウンドに集合した防衛部員に、先生役の泉が口を開いた。
部室のホワイトボードの代わりに、マーカー付きのスケッチブックを手にしている。
「まずは、モンスターの倒し方について」
そう言って「①物理攻撃」と大きく書いた。
「おさらいだよ。モンスターを倒す手段は三つ。一つ目が物理攻撃。ここで問題——若葉がボウエイソードで斬ったダメージが10だとしたら、昴ならいくつだと思う?」
六花は勢いよく手をあげる。
「50!」
「いやいや、武器一緒なんでそんな差ないでしょ。……30とか?」
若葉は慎重に答えた。
泉はすぐさま首を振る。
「答えは10。誰が斬っても同じ。攻撃力は武器の価格に比例するからね」
「防衛部は免許更新や装備レンタルで予算ギリギリです。だから最低ランクのソードと個別武器しか借りられません」
千代が冷静に付け加える。
「防衛部は常に予算とも戦っています」
「せちがらい……」
六花と若葉の声が揃った。
叡徳高校は治安が良く、モンスターの攻撃レベルも低い。
だからこそ最低ランクの武器でも工夫すれば戦えるし、高校生ボウエイジャーが認められているのだと補足した。
「武器が弱いからこそ物理攻撃は“連携”が大事。戦闘中は常に連携を意識して、お互いの動きに注意を払うこと。バラバラに攻撃しても大したダメージにはならないからね」
「はい!」
「あと…これはまだ先の話だけど、連携といえば”必殺技”。条件とタイミングを揃えば、ソードでも高威力の技を放つことができるようになるよ」
「必殺技!?」
二人の目が輝く。
昴が一歩進み出た。
「デビュー戦で見せただろ。俺と泉が使った”クロスブレイク”も必殺技の一つだ」
他の人と連携することで攻撃力を倍増させることができる。放てる必殺技は、武器や人数によってさまざまだ。
「習得に時間はかかるが、ソードでもヤムヤムを一撃で倒すことができるぜ」
「あぁ、あの時の!?すげぇ!やりたい!」
若葉がぱっと顔を輝かせた。
「わぁっ!あれかっこよかったです〜!!」
泉ははしゃぐ二人の姿を、懐かしく感じる。
自分も初めて必殺技を見たとき、あんな風に憧れを抱いた。
「二年になったら教えるよ。防衛部ではソードだけで出せる、二つの必殺技だけを習得する。個別武器の組み合わせ次第で、他の必殺技が出せる可能性もあるから……その辺は相手と相談だね」
「必殺技って、先輩たちが編み出したんですか?」
千代が静かに首を振った。
「いいえ。各必殺技については、ボウエイ協会のホームページに載っています。手順は単純ですが、タイミングがシビアなので、……習うよりも、慣れですね」
昴が頷いて後を続けた。
「まぁ、クロスブレイクが必要な敵も滅多に出ねぇからな。一応学ぶが、必殺技はあくまで保険。俺たちの攻撃の基本は”精神攻撃”だ」
「精神攻撃?」
六花が首を傾げる。
泉はにっこり笑って頷くと、ページをめくり「②精神攻撃」と書いた。
「そう。これが防衛部の本領だ。——まず、モンスターはストレスを糧に成長する。だから相手にストレスを与えないのが鉄則なのは知ってるよね?」
「あ、それは養成所でもよく言われました!」
六花が元気よく反応する。
「六花はそこは完璧。あと生徒のストレスでも強くなるからね。生徒をストレスから解放することも重要だよ」
「その上で……モンスターは自分自身のストレスが毒になる。焦ったり恐怖を覚えれば弱体化するんだ。これも利用して戦う」
泉が昴へ視線を送る。
昴がソードを肩に担ぎながら笑った。
「敵の弱点を見つけて恐怖を煽って、笑いながら一斉攻撃。それが俺たちの戦術の基本だ」
若葉がぽつり。
「……なんか言ってること悪役っぽいっす」
昴は鼻で笑ったが、泉も千代も否定しない。その沈黙が逆にリアルさを増した。
泉が最後のページをめくる。「③浄化」
「これはレアケース。モンスターの心が満たされ、ストレスが消えて自滅することもある」
「寄り添ったり励まして弱体化したところにとどめを刺す、という作戦も可能です」
千代が補足する。
「鬼畜すぎません?」
若葉の声に、先輩達は顔を見合わせて苦笑した。
「前の部長が得意だったんだよ。個人武器はメガホン。言葉のパワーを増大させる装備でね。普通は補助的なアイテムだけど、あの人の場合は殺傷力抜群だったなぁ……」
懐かしそうに泉が呟く。
「メガホンだけで倒してましたよね……」
真顔で千代も頷いた。
「言葉だけでヤムヤム倒すとかどうなってんすか!?」
「俺たちに言うな。あの人がおかしいんだよ」
昴の口調は淡々としていたが、先輩にも「追いつけない誰か」がいると知って、若葉は少し驚いた。
「要するに——折れない心を持つこと。そして相手のメンタルを削ること。チームで連携を取ること。最低ランク装備で戦う僕たちには不可欠だから覚えておくように」
泉がまとめると、手を叩いた。
「よし、それを踏まえて実戦訓練行こうか」
「えっ、今日は座学じゃ……」
若葉が抗議しかける。
「座学“だけ”とは言ってないよ」
泉は涼しい顔で遮った。
昴が既にソードを構えて立っている。
「動け、若葉。ツインブレードまだ慣れてねーだろ」
「六花も今日から個人武器の特訓に入ろう」
泉が言った。
「君の武器はボウエイハンマーだ」
「ハンマー!?」
若葉が素っ頓狂な声をあげた。
「もっとアイドルっぽい可愛いのかと思ったのに」
「六花は真っ直ぐ突っ込む武器が合ってる。笑いながらハンマー振り回せば、それだけで敵は怯むだろ」
泉があっさり言う。
「そこにモンスターの嫌うポジティブパワーで叩き潰せば——最強だ」
「……理屈はわかったけど、ポジティブと叩き潰すを同じ文に入れるのどうなんすか」
若葉が呟く。
「がんばりまーすっ!」
六花は満面の笑みでハンマーを呼び出した。
「あ、ソードよりは重いけど、これなら振れそうっ!」
六花がハンマーを振るった。
ドォン、と地面が震える。
「わっ……威力エグい……」
若葉が一歩後ずさる。
昴は口角を少しだけ上げて、二人の前に立った。
「よし、今日の訓練は“連携”だ。二人まとめてかかってこい」
昴が片手でソードを構えた瞬間、若葉と六花は同時に固まった。
「ちょ、ちょっと待ってください!いきなり部長相手に実戦とか無理っす!」
「手加減はしてやる」
「昴の”手加減”は、“死なない程度に”という前置詞がつくので、お気をつけて」
千代が冷静に付け足す。
「大丈夫。ボウエイスーツが守ってくれるから、痛くても怪我はないはずだよ」
にっこり笑って泉が言った。
昴を見ればボウエイレッドに変身している。
「変身……ってガチなやつじゃないですかぁぁ!」
若葉の悲鳴がグラウンドに響いた。
「行くぞ。考えるより動け」
昴が地を蹴った瞬間、空気が震えた。
ボウエイチェンジした六花がハンマーを振り下ろした。
ドォン!!
グラウンドに土煙が舞い上がる。
「やった!?」
だがそこに昴はいない。背後から肩を押され、六花はあっさり倒された。
「ハンマーは振ったあと隙がデカい。次の手を考えて使え」
「っ……はいっ!」
六花は泥だらけになりながらも、すぐ立ち上がる。
「それカバーすんのが連携だろ。……っておい、若葉、逃げてんじゃねーよ!」
「逃げてません!回避っす!これは戦略的回避なんで!」
すぐに追いついて昴がソードを振りかぶる。
若葉は必死に受け止めたが、一撃に腕が痺れた。
泉が若葉に向かって叫ぶ。
「若葉、焦っちゃだめだよ!モンスターも昴も相手のストレスで強くなっちゃうから!」
相手が追い詰められるほどに、嬉々としてその隙を突いてくる。
その意味では確かに間違ってはいない。
だが。
「部長に人の心はないんですか!?」
若葉は思わず叫んだ。
その間に、昴は目前に迫っていた。
足を払われ、尻もちをつく。
「二人とも動きがバラバラだ。息を合わせろ」
「若葉くん、次は一緒に!」
六花が差し伸べた手を掴む。
「……っだな!」
再び二人はソードを構えた。
若葉が正面から斬りかかり、昴が受け止める。
その瞬間、剣の形状がソードがツインブレードへ変わる。
左手に握られた剣が昴の脇腹を狙った。
横に避けて躱す。その頭上から
「えいっ!」
六花がハンマーが降りおろした。
ガァン!!
再び土煙が舞い上がる。昴は後ろに飛んでその攻撃を避けていた。
「おおっ!?」
若葉と六花は目を見合わせた。
「やったぁ!」
六花が飛び跳ねる。
「やればできるじゃん俺たち!」
若葉もガッツポーズをした。
「一歩下がっただけで、のん気に浮かれてる場合か?」
呆れ声が上から降ってきて、二人まとめて薙ぎ倒される。
「バランス崩した隙がチャンスだろ。追撃してこいよ。勝てるチャンスを逃すな。……実戦のための訓練だって分かってんのか?」
昴の目が、すっと細められた。
怒鳴られたわけでもないのに、二人の背中に冷たい汗が伝う。
思わず二人とも背筋をぴんと伸ばした。
「了解っす!」
「ごめんなさーいっっ!!」
泉が手を叩いて締めくくる。
「はい、今日の模擬戦はここまで」
変身を解いた若葉と六花は涙目だった。
だが二人の胸の奥には、確かに手応えが残っていた。
「……部長を下がらせたのが嬉しくて……!次は絶対追い詰めような!」
「うん!絶対できる!」
頷き合う。
「連携を意識すれば、最低ランクの武器でもダメージは通る。その隙に追い詰めれば、モンスター自身のストレスになって弱体化にもつながる。立て直す時間を与えるな。……それを忘れんなよ」
「はい!」
迷いなく返事する二人を見て、昴は小さく笑った。




