第6話:【十月】文化祭を守り抜け!(前編)
ボウエイウォッチのアラームが鳴ったのは、文化祭が終盤に差し掛かった頃だった。
「楽しい行事でもヤムヤム出るんすか!?」
泉が頷く。
「イベントが嫌いな人はいるからね」
ストレス反応のある場所に向かう途中、
「ん?今、校舎の向こうに白い影があったような……」
若葉が何かに気づいて足を止める。
「ちょっと待っててください!」
急いで向かうと、ヤダモンが女子生徒を連れ去ろうとしていた。
「ボウエイチェンジ!」
ソードで倒して、生徒を解放する。
一緒にいた友達も攫われたと言う。
「分かりました!その友達も助けるんで」
「でも、ミスコンは……もう、間に合わないよね」
「ミスコン??」
「若葉。こっちにもヤダモンがいたぜ」
昴が女子生徒と一緒にくる。こちらもヤダモンに連れ去られるところだったらしい。彼女もミスコン参加者だと言う。
「ミスコンを狙うヤムヤムの仕業か」
昴はボウエイウォッチで指示を飛ばす。
「泉と千代はストレス反応が出てるヤムヤムのところへ行け。若葉はヤダモンを探して追跡。生徒が攫われた場所を突き止めろ。俺と六花は体育館だ」
ボウエイウォッチから「了解」という返事が響く。
体育館のざわめきは、次第に不満の声へと変わっていった。
本来なら今ごろ、ステージイベントのトリを飾るミスコンが始まっているはずだった。
観客席からは「どうなってんだよ」「早くしてくれー」と不満の声が上がりはじめる。
昴は六花と合流すると、そのまま舞台袖へと向かった。
「ミスコンの参加者がほとんど来ていないんだ。このままじゃ、開催できないよ!」
「モンスターのせいだな。今防衛部が探しに行ってる。ミスコンを30分延期できるか?」
文化祭実行委員と小声でやり取りを交わす。
「分かった。でも、この空気……放っておいたら観客が帰っちゃうぞ」
昴はざわめく観客席を見渡す。
「六花。お前の出番だ」
「えっ、あたし!?」
「この空気を変えられるのは、お前しかいない。30分で観客全員、笑顔にできるな?」
疑問ではなく、確認だった。その目には信頼が宿っている。
六花は一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「……任せてください!観客のみんなを笑顔にするの、アイドルの仕事だから!」
30分の延期が告げられる。
六花は盛大なブーイングが湧き起こるステージに上がった。
照明がステージ中央を照らす。
ひとりで舞台に立った六花は、胸に手をあてて深呼吸をした。そして顔をあげる。
BGMが流れ出す。明るくはじけるイントロ。
六花の声がマイクを通して体育館に広がった。
「こんにちはー!『∞Bloom』のリッカでーす!」
「ブルームって……アイドルグループの?」
「え、待って!制服ってことはうちの学校!?」
大所帯のアイドルグループなので、メンバー全員を知っている人は少ない。
それでも、グループ名だけなら誰もが一度は聞いたことがある。
「ミスコンまでの間、ただ待ってるだけじゃつまらないよね!あたしと一緒にステージを楽しんでください——届け!『ときめきリボン!』」
笑顔で手を大きく振り、ステップを踏む。観客席からざわめきが起こった。
彼女の声は、その性格を写すように明るくて真っ直ぐだった。振りに合わせてスカートの裾が揺れ、笑顔が弾ける。
愛らしさと、それ以上にステージ全体を包むような温かさがあった。
「結んで、ひらいて、繋がるリボン!さぁ、手を伸ばして。一緒に歌おう——!」
いつの間にか体育館全体が一体となり、掛け声や拍手が起こり始めていた。
最初に不満を漏らしていた生徒たちでさえ、手を叩きながら笑顔になっている。
六花は汗を光らせながらステージ中央で大きく跳ねた。
「みんなー!まだまだ盛り上がれるよねーっ!?」
「「おおーっ!!」」
歓声が体育館を震わせた。
——その頃。
ミスコンの参加者達はプール横の倉庫に集められていた。倉庫をぐるりと大量のヤダモン達が取り囲んでいる。
「うわ、すげー数……」
若葉が様子を伺いながら呟く。
一人で相手にするには無理がある。
できれば逃げ出したい。せめて部長を待ちたい。
だけど。
「誰か助けて」
倉庫から聞こえる泣き声に、心を決めた。
「……しょーがない。行くしかないかっ」
意を決して、ヤダモンの群れに飛び込んだ。
倉庫の出入り口は一つ。
ガッチリと大量のヤダモン達が固めている。
ソードを振り回しヤダモン達を倒していくが、あまりにも数が多すぎる。
倒しても倒しても入口まで辿り着けない。
「多すぎんだろ!」
「ヤダモン♪」
こっちが焦った途端、ヤダモンの表情がぱあっと明るくなった。
(ストレスで強くなるのは、ヤムヤムだけじゃないのかよ)
「……やめた」
若葉は入口まで辿り着くのを諦め、ソードを下ろした。
駆けつけた昴の目に映る光景は
「数多すぎて無理無理〜。ぜったい無理〜」
泣き言を言いながら逃げる若葉と、目を輝かせながらおいかけるヤダモンの群れである。
「何やってんだ、あいつ」
舌打ちして駆け寄ろうとした時、若葉が後ろを振り返って叫んだ。
「みんなー!!今のうちに逃げて!!!」
ヤダモンが離れた倉庫から、女子生徒達が飛び出してくる。
気づいたヤダモン達が彼女達を追いかけようとするが、その前に昴のランサーがヤダモン達を一掃した。
昴を見た若葉の第一声は
「ずるい!」
だった。
「何がだ」
「その槍!俺も一気に敵倒せる武器が欲しいですー!」
「あるぜ」
「え!?」
驚く若葉に、昴が軽い口調で言う。
「ボウエイツインブレードがお前の武器だ。使ってみろ」
一年の個別武器は、適性を見てから二年が選ぶ。
今月中に注文するとは聞いていたが、もう決まっているとは思わなかった。
「ツインブレード……?」
指示された通りにアイコンを選択すると、手にしたソードが消え、代わりに緑の双剣が若葉の両手に収まった。
刃は細身で軽く、力任せに振るうというより、スピードと技術を要求してきそうな武器だ。
「ちょうどヤダモンもたくさん残ってるしな。存分に試してみろよ」
「え、いきなり!?練習ゼロで??」
慌てる若葉とは対照的に、昴は涼しい顔だ。
「ミスコン参加者は解放したし、ヤムヤムは泉と千代がいればなんとかなる。急がなくても大丈夫だしな!」
「いやいやいやっ!ヤダモンの量が!大丈夫じゃない感じだけども!?」
話している間に二人の周りをヤダモン達が取り囲んでいた。じりじりと近づいてくる。
「いざとなったら助けるから。うん」
「少しは、感情こめてもらっていいですかね!?」
「うるせー、さっさとやれ」
昴はランサーを地面に突き刺し、踏み台にして一気に跳躍すると、悠々と輪の外へ抜け出してしまった。
「ずるい!!!」
絶望の声を上げる若葉。その間にも、ヤダモン達が襲いかかってきた。
「あーもう!やりゃいーんだろ!双剣のやり方なんて全っ然分かんないんだけど!」
とっさに片方で攻撃を受け流し、もう片方で反撃する。双剣が火花を散らし、ヤダモンが吹き飛ぶ。
「おお!?これ、意外といけるかも!」
次々に繰り出されるヤダモンの攻撃を、左で受けて右で薙ぎ払った。
二本の刃を交差させて防御し、その反動で一回転する。柄を合わせて遠心力を利用すると、周囲を取り囲んでいたヤダモンがまとめて弾け飛んだ。
「うおおおーーーっ!!」
半ばヤケクソの雄叫びと共に、双剣が踊る。怒涛の連撃にヤダモン達は次々と消えていった。
「つっかれたぁ……死ぬ……」
気づけばヤダモン達は数えるほどになってきた。汗で前髪が額に張り付き、息が荒い。
その時、残りのヤダモン達が音もなく消滅した。
「え?昴先輩…?」
「時間切れだ。これ以上遅くなると六花のステージが見れなくなるからな」
「ステージ?」
昴が体育館へ視線を向けた。
「ミスコンまでの間、あいつが繋いでんだよ。今ダッシュで行けばギリギリ見れるだろ。お前はどうする?」
「……そういうことなら、もっと早く助けてくれてもよくないですか!?俺もう動けないんですけど!!」
「じゃ、寝てていいぞ」
「行きますけどねっ!?」
昴は周囲を見渡して、一瞬だけ口元を緩めた。
身軽で器用な若葉に、ツインブレードを選んだのは昴だ。
スピードや技術は要するが、慣れれば攻守ともに様々な使い方ができる。戦い方の自由度が高い。
注文したばかりの新武器をぶっつけ本番でやらせたのは、若葉なら初見でもある程度使えるかもしれないと思ったからだが……
(あの数のヤダモンを、初見のツインブレードで倒すとはな)
「……悪くねぇデビューだったな、ツインブレード」
若葉は褒められたことに驚き目を丸くしたが、
「っでしょ!」
へらっと笑った。
若葉は息を整えながら、体育館へ駆け出す昴の後を追いかけた。




