↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園戦隊ボウエイジャー  作者: 水嶋りこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/31

第5話:天然ヒーロー

土曜日。

若葉は待ち合わせ場所の駅前へ向かっていた。

今日はボウエイ協会のアウトレット市に、行く予定だ。

 

六花はアイドル活動のため来られないらしく

『行きたかった〜!』

と嘆いていた。

六花が来られないのは残念だけど、泉が熱く語るプロの装備や武器には少し興味がある。


「やばっ、あと五分じゃん!遅刻したら絶対言われる……!」


そう思った矢先——


小さな声が背後から届いた。

振り返れば、今にも泣き出しそうな顔の子どもが立っている。

「どうした?」

「ママとはぐれちゃったの」

「……お、おう。大丈夫!駅員さんに言えばすぐ見つかるからな!」

子どもの手を引いて歩き出すと、すぐに母親が駆け寄ってきた。

  

無事に引き渡すと、今度は老人がうろうろしているのが目に入った。

「すまんのう、この辺に市役所は……」

通りかかる人に尋ねるものの、誰も足を止めずに素通りしていく。

「えっと、市役所はあっちですよ!信号二つ先の右手です!」


そのまま走り出すと、リンゴが足元に転がってきた。

集めて拾って、また走る。

 

そんなことを繰り返しながら、ようやく集合場所が見えてきた。


「ふぅ、セーフ!……えっ財布どこ!?」

さっきまでポケットにあったはずの、財布がない。

若葉の顔から血の気が引いた。


『すみません、先行っててくださいっ!』

慌てて連絡すると、再び駅に向かって来た道を引き返した。


突然後ろを向いて走り出す若葉の姿は、集合場所にいる三人からもよく見えていた。

 

「……何かあったんでしょうか?」

「まだ時間はあるしな。着いてってみるか」


後ろからのんびり昴達がついてきていることに、若葉は気づいていない。


「おにーちゃん、ばいばーい!」

「おう、ばいばーい!」


さっき助けた子供が母親と手を繋いで、若葉に手を振った。

すれ違った老人からは「ありがとうなぁ」と声をかけられた。

「さっきはどうもねぇ」と腰を曲げた女性が頭を下げる。


その都度、「いえいえ!」「全然っ」を繰り返すのだが——

「あーもう、どこだよっ。俺の財布〜!!」

若葉の頭の中は、財布のことだけでいっぱいだった。


そんな姿を見て、泉がぽつりと漏らした。

「昴が若葉を仲間にしたがった理由、分かってきたかも」

 

千代も静かに頷いた。

「若葉さん。あれ、無意識なんですよね……?いつもこうなんですか……?」

「すげぇよな」

昴が面白そうに笑った。


若葉は決して強くない。

努力は長続きしないし、面倒なことからは逃げる。

 

でも。


「周りに困ってる人がいたら、あいつは気づく。そんで、考える前に体が動く。若葉には、たぶんそれが当たり前なんだよ」


すれ違い様に、あれだけ感謝の言葉をかけられているのに、若葉は全く気にしていない様子だ。

そのくらい、彼にとってはいつものことなのだろう。


「……ヒーロー、ですね」

千代がそっと呟いた。


「まぁ、ヒーローとしてはまだまだだけどな。筋力、体力、根性がなさすぎる」

センスも覚えも悪くないくせに、と昴は続ける。


昴の頭に初めてのヤムヤム戦が浮かぶ。


若葉は六花を敵の水爆銃から庇った。

あれは敵が構えてから動いていたら間に合っていない。本人も周りも気づいていないが——


(あいつは、敵が動く前に予想して飛んでいた)



課題は山ほどある。

若葉のストレスで敵がパワーアップしていたし、攻撃回数も受ける回数も多い六花より先に体力が尽きていた。

連携も取れていない。


でもソードの振り方は、構え方も振り方も基本に忠実だった。

 

養成所で基礎を教わっているとはいえ、養成所ではモンスターと戦わない。

部では一度も教えずにいきなり実戦に突っ込んだ。初めての実戦では形が崩れるのが普通だ。

なのに若葉は全くぶれていなかった。


六花のような構え方と振り方の基礎は、若葉には必要ない。若葉に必要なのは、体力と経験と自信だ。


「だから走り込みと筋トレばかりやらせてるの?」


泉の問いに、昴は小さく笑っただけで答えない。

若葉を見る眼差しが答えだった。



「……はぁ。俺って、なんでこう毎回トラブルに巻き込まれるんだろ」


ベンチの下を覗き込むが、何もない。

頭を抱える若葉の横に、千代がすっと腰を下ろした。

 

「お疲れ様です」

「え、千代先輩!?アウトレット市は!?」

「夕方までやっていますから、急がなくても平気ですよ」

いつも通りの落ち着いた声音だった。

 

「じゃあ、昴先輩達も…?」

慌てて振り向くと、二人とも少し離れた場所に立っている。

 

「遅刻してすいませんっ!財布落として……」

「駅に問い合わせたら、先ほどお財布の落とし物が届けられたそうです。入っていた学生証で名前も確認してもらいました」

千代の言葉に、若葉が目を丸くした。


「え!?」

「若葉さんの物で間違いなさそうですよ」

「ほんとですか!?良かったぁ〜。ありがとうございます!!」

嬉しそうに笑う若葉に、千代も小さく微笑む。

 

「……先日、あなたがなぜ選ばれたのか分からないって言ったのを、覚えていますか?」

そして真剣な表情で、そう続けた。

 

つい数日前に部室の前で話した時のことだ。若葉は頷いた。


「少し分かった気がします。あなたは誰かのために動ける人なんですね」

「えっ?俺が??」

 

若葉は本気で不思議そうな顔をした。


「さっき、色々な方にお礼を言われていたでしょう?」

「あれは、全然大したことしてないし……。優しさとかじゃなく、巻き込まれて仕方なくっていうか!」

 

若葉は、慌てて両手を振った。

自分がただの巻き込まれ体質だと思っていたからだ。


”誰かのために”なんて考えたことはないし、積極的に助けに行くような正義感があるわけでもない。

誰かのために動けると言われても、全然実感が湧かない。


千代は困惑している若葉を見た。

その瞳は冷静で、けれどどこか優しい光を宿していた。


困っている人に『気づく』ことも、『動く』ことも、当たり前にできる人は少ない。

それを、千代は知っている。


「私も、あなたに期待していいですか?」


若葉は言葉に詰まる。

胸の奥が熱くなり、でも何をどう返せばいいか分からない。

ただ頬をかきながら、情けない笑みを浮かべるだけだった。


千代は立ち上がり、スカートの裾を整える。

「さぁ、お財布を取りに行きましょうか。アウトレット市が終わってしまいますよ」

「うっ……それはやばい!俺、急いで取ってきます!」

 

慌てて駆け出す若葉の背を見つめる。

 

——まだ頼りない。けれど。


「どう成長するのか……見てみたいですね」


彼女の小さな独り言は、風の中に溶けて消えた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。