第28話:繋がる絆
「昴、ちょっといいか?」
「はい」
E-Guardersのリーダー・貴久に声をかけられ、昴は会場の端へとついていった。
「お前に話したいことがある。中学の時に巻き込まれた、ハイジーンの事件のことだ。本来なら去年伝えるべきだったが、急な仕事で来られなくてな。遅くなってすまない」
思いがけない言葉に、昴は息を飲む。
ここでその話を聞くとは思っていなかった。
「俺は当時、理事長と一緒に事件を追っていた。その話をしてもいいだろうか。もちろん、聞きたくないのなら無理には——」
「いえ、聞かせてください」
貴久の言葉を遮り、昴は強い口調で答えた。
「俺も途中から参加したから、最初の方は聞いた話になるがな」
そう前置きして、貴久は静かに語り出した。
◇
最初は、誰もモンスターの仕業だとは思わなかった。
ハイジーンの起こした出来事は、日常のどこにでもあるような“ちょっとした事件”にしか見えなかったからだ。
殴られた相手が大怪我を負うわけでもなく、取り憑かれた人間も異常な様子を見せることはない。通報もされず、示談や家庭内で収まるケースが多く、表に出なかったものも数多くあっただろう。
しかも、乗っ取られる相手は老若男女さまざま。共通点はまるでなかった。
「違和感を覚えた理事長をはじめ、数名のボウエイジャーが、“モンスターの仕業ではないか”と独自に調査を始めたんだ」
だが証拠は出ない。
本人から「殴った記憶がない」と聞けても、それは証明にはならなかった。
さらに寄生されている間はストレス反応すら見られない。常に誰かの体に潜んでいるのではないか——それはただの仮説にすぎなかった。
「俺がチームに加わったのは、昴が入部してからだ。『防衛部の一年が被害者かもしれない。力を貸してほしい』と、理事長から直接そう頼まれた」
防衛部員が関わっているということで、OB組織であるE-Guardersリーダー・貴久に理事長から個人的に声がかかった。
それはボウエイ協会が正式に動いていない、非公式の調査だった。
協会に認定されない以上、他のボウエイジャーに協力を仰ぐこともできない。何より、ハイジーンに気づかれないためには少人数の方が都合が良かった。
しかし、それは上級モンスターを相手にするには危険すぎるやり方だった。
理事長たちも承知の上で、それでも精鋭だけで挑むしかなかったのだ。
「防衛部の後輩が巻き込まれたと聞いて、黙っていられるわけがなかった。中学生だったお前が、どんな思いをしたか考えると……はらわたが煮えくり返ったよ」
ハイジーンを発見してからは事態が動き出す。
協会が公式に認定し、警察も協力。被害者の洗い出しや救済の検討が進められた。
だが、すべてが整うまでには半年もの時間を要した。それはハイジーンを発見した時に貴久達が想定した日数をはるかに超えていた。
「協会との調整や証拠集めがすべて終わるまでは倒せなかった。時間がかかりすぎた。……もっと早く助けてやれなくて、悪かった。辛かっただろう」
頭を下げる貴久に、昴は慌てて首を振る。
「やめてください。先輩が謝ることなんて何もないです!」
そして今度は、昴が深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
あの時。
理事長が自分を信じてくれたこと。
モンスターの仕業だという証拠もないのに、皐が『信じるよ』と言って入部を許してくれたこと。
それだけでどれだけ救われたか分からない。
その後協会が事件を“モンスターによるもの”と発表し、自分の名が載った被害者リストを公表してくれた。
——『信じてますよ、防衛部全員』
それだけで、もう十分だったのに。
「あれはもう、本当にいいんです」
孤独だと思っていた、あの期間。
ボウエイ協会にとっては“事件”ですらなかったものを、
理事長たちは気づき、証明し、上級モンスターに立ち向かってくれていた。
『後輩が巻き込まれたから』——ただそれだけの理由で。
会ったこともない自分のために怒り、奔走し、ずっと心配してくれた先輩がいた。
そして理事長が貴久に声をかけたのは、彼がE-Guardersのリーダー、——防衛部OB達の代表だったからだ。
もしこの組織がなく、ただの卒業生というだけのいちボウエイジャーだったなら、きっと声はかかっていない。
事件解決までもっと時間がかかったかもしれない。
E-Guardersという形で先輩達が繋がってくれていた。
その防衛部の歴史そのものにも——
「……俺は、ずっと守られていたんですね」
会場で談笑する人々を見渡しながら、昴が呟く。
その横顔を見て、貴久は優しく笑って頷いた。




