第27話:悩んだ先に
後輩達が盛り上がっているのを横目に、泉は立食のテーブルでグラスを手にしていた。
会場を見渡せば、防衛部の先輩たちが笑いながら語り合い、思い思いに現役へ声をかけている。
「なぁ、将来どうすんの?」
声をかけられて振り返ると、近くにいた先輩たちの輪が泉を見ていた。
「えっと……実はまだ決めてなくて。ただ……」
泉は少し考えてから言葉を続けた。
「ボウエイジャーを支える仕事をしてみたいんです。もし誰かそういう仕事をされてる方がいたら、お話を聞いてみたいなって」
その言葉に、30代くらいの男性がひょいと手をあげる。
「お、いるぞ。防衛免許養成所の教官やってる」
短く名乗った。
「大和だ。よろしく」
「養成所の教官って、どうやってなるんですか?」
泉が尋ねると、大和はグラスを側のテーブルに置いた。
「なり方は普通の企業と同じだな。養成所に就職して、大卒で防衛免許持ってれば、まずは条件クリアだ」
真剣に聞き入る泉に、大和が笑った。
「楽しいぜ。もちろん腹の立つこともあるけどな。熱意を持って努力してる奴を応援できるのは最高だ。何としてでも免許を取らせたいし、モンスターに負けない強さを身につけさせたいって思う」
その言葉を聞いて、泉の胸に何かが灯る。
(あれ……?なんだろ、今すごく惹かれてる)
若葉と六花のための練習メニューをノートをまとめる日々が、ふいに浮かんだ。
どう伝えれば分かりやすいか、夜遅くまで考え込んだ。
誰かの夢を応援したくて、真剣に悩んだ時間。
(大変だったけど……あれ、楽しかったな)
「ありがとうございます。教えて育てるって、すごく惹かれます」
軽く頭を下げる泉の横から、元気な声が飛んできた。
「俺も育ててるぞ!」
ぱっと手をあげたのは、明るい笑顔の先輩だった。
「広夢。中学の体育教師!ボウエイジャー枠で採用されてんの」
「え、教師なんですか!?」
驚く泉に、広夢はにかっと笑った。
「授業中にモンスター出たら戦うのも仕事!『先生カッコイイー!』って言われるし、子どもらはクソ生意気で可愛いし、最高だぜ!」
その場の空気がどっと笑いに包まれる。
泉も思わず吹き出してしまった。
ボウエイジャーを支える仕事もある。
ボウエイジャーのまま誰かを支える道もある。
「ありがとうございます。もう少しゆっくり考えてみます」
「おう!なんか他に聞きたいことはない?」
「……じゃあ、皆さんの防衛部時代の苦労話を聞かせてください」
途端に全員の顔に不敵な笑みが浮かぶ。
「そりゃあ苦労って言ったら……」
飛び出す伝説の数々に、テーブルが笑いに包まれた。
どの代も、モンスター退治も運営も一筋縄では行かなかったようだ。
苦労話は尽きることはない。なのに、みんなの顔は笑顔だった。
一通り話が終わり、泉が礼を告げて席を離れる。
卒業まであと一年。
そろそろ進路を決める時期だ。
ちゃんと調べて、考える。そして——
(あの人達と、ちゃんと話をしよう)
叡徳高校に入学してから、両親との会話は必要最小限しかしていない。
向こうが今の泉をどう思っているのか分からない。
泉が会話を避けているのは、嫌悪ではなく気まずさからだった。
理不尽なことを言われても、傷つけられても……両親のことを、どうしても嫌いにはなれなかった。
大学受験をするのなら、いつまでも避けてはいられない。
”否定の言葉が返ってくる。”
”理解を得られない。”
”無関心。”
”勝手な期待をまた押し付けてくる。”
そのどれかかもしれないけれど。
(話し合いもケンカも一度もしないまま、分かり合えるはずがないんだ)
何もせずに得られるものは、表面的な当たり障りのない付き合いだけ。それは防衛部で学んだ。
昴とも千代とも、初めから分かり合えた訳じゃない。
意見がぶつかったことなんて、何度もある。
そのたびに大切な存在になっていった。
他の先輩達もそうだろう。苦労話を聞けば、大変だったエピソードは山ほど出てくる。
だから、それを仲間達と笑う今がある。
『何度失敗したっていい』
『失敗したら、その分味わい深くなるっていうか!』
その言葉は今も胸にある。
(話し合って、ぶつかって……ケンカしてみよう)
自分の望む未来は、きっとその先にある。




