第29話:これからも、ずっと
話を終えた昴が、飲み物を手に一人でいる千代のもとへやってきた。
「先輩達と話できたか?」
「はい。志望している女子大の先輩がいたので、色々と教わりました」
そこへ皐と麗奈が現れる。
「卒業式はあんまり話せなかったから来たよー」
「なんか面白い話してよ!」
「……さっさと退場しといて、よく言えますね」
呆れながらも、昴はクリスマスに千代が“ぼっち讃美”で浄化した話を持ち出した。
負けじと千代も、昴が一歳の誕生日に赤ちゃんせんべいでクリスマスパーティをした話を暴露した。
さらに「コーラが苦くて吐いた」というオマケまで付けて。
「お前な!」
「先に言ったのはあなたです!」
皐と麗奈が腹をかかえて笑い転げる。
「ちょっ、やめて。窒息する……っ!」
「サイコー!見たかったわー!」
笑いが落ち着いた頃、皐の両肩にふいに重みがのしかかった。
「さぁーつーきぃ〜?久しぶりー」
「卒業おめでと!……ってことで、ちょっと顔かしなー?」
恐る恐る振り返った皐の顔が青ざめる。
「初音先輩、弥生先輩……!」
皐の肩に手を置いているのは、ドレス姿でにこやかな笑顔を浮かべる美女二人だった。
「昴、千代。おひさー!ほんとごめんねー?皐が色々迷惑かけちゃって」
「ほんっと申し訳ないわ…。あたしらの教育が間違ってた」
美しく微笑むのは、皐の一つ上の先輩、初音と弥生だ。
昴が入部した当時の三年生。他に当時部長だったアキラがいる。
「さつきぃ〜。色々きいたよー?部長になったらやりたい放題、一年に丸投げして何もしない……とかね。三年の教室からもよく見えたよ?放置された一年が健気に特訓してる姿」
笑顔だが、目はどこまでも冷たい。初音の声の温度は零度を切っていた。
「現役にはノータッチが暗黙の了解だから我慢してたけどさぁ。E-Guardersに入ったならもう関係ないよねぇ?」
対照的に弥生の瞳は獲物を逃すものかと燃えている。
「違うんです!それには深ーい訳が!ね!?昴!!」
慌てて皐が昴を振り返る。
「訳はあったけど、放置したのは事実だよな?」
昴が千代を見る。
「……否定できませんね」
千代が小さく息を吐く。
「ひどい!……先輩!これには理由があるんですって!訳を聞いてください!」
「はいはーい。言い訳ならアキラが聞きますよ〜」
「ゆーっくりたーっぷり聞くから、安心して」
左右から腕を絡め取られる。
傍から見れば、両手に花。
だが、その実は捕縛と連行だ。
弥生が振り返ってにっこり笑った。
「麗奈も来な。卒業祝い持ってきたよ」
「やったー!ありがとうございますっ」
「ひどいっ扱いが違う!」
皐の反論はもちろんスルーだ。
「じゃ、この子ら借りてくねー!」
騒ぎながら連れて行かれる皐を見ながら、昴はぽつりとつぶやく。
「……あの二人も、ここでは後輩なんだな」
正式入部した時、皐は部長で麗奈は副部長だった。
後輩としての顔は、先輩として見てきた顔とは全然違う。
皐は情けない声をあげながらも、防衛部にいた時よりのびのびしている。大げさに怖がってるくせに、どこか楽しそうな表情だった。
——もしかしたら、こっちが本来の皐に近いのかもしれない。
そんな気さえしてくる。
「来月新入生も入って最上級生になりますが……一年後には私たちも、また最年少になるんですね」
「……」
千代の言葉に、昴がわずかに驚いた表情を見せた。
「なんですか?」
「いや。お前もE-Guardersに入るんだなって思って。泉は続けると思ってたけど、千代はどうするのか気になってた」
千代はボウエイジャーになりたくてなったわけではない。泉に巻き込まれ、皐に頼み込まれ、仕方なく承諾しただけだ。
そもそも千代は人と関わることが好きではない。部活を引退すればそれで終わりでもおかしくない。
昴はそう思っていた。
「そうですね。辞めるという選択肢もあるんですね。……思いつきませんでした」
そんなこと考えもしなかった。
「俺も一年後には、気楽な後輩に戻れるんだな」
昴もE-Guardersに入るつもりということだ。
「後輩の立場は、あなたにとって気楽ではなかったのでは?」
「……こっちには世話好きな初音先輩達がいるからな」
昴の答えに、くすりと千代は笑った。
「確かに」
しばらくすると、泉が戻ってきた。
先輩たちと語った内容を二人に伝える。
進路のことを聞いたこと。
そして、教育の道も惹かれていることを。
千代はほんの少し目を細めて、生き生きと語る泉を見ていた。
中学の時から泉を知っている。
ずっと周りの期待に応えてきた泉が、自分の未来をまっすぐ語る。その姿が嬉しかった。
千代は改めて会場を見渡した。
現役ボウエイジャーとして活躍する、防衛部のOB組織——それが、E-Guarders。
ボウエイジャーに関わる道を選ぼうとしている泉が、この場所に来ないはずがない。
ここには二回りほども年の離れた先輩たちの姿がある。
防衛部で共に戦うのは、もうあと半年もない。
その後はそれぞれの道を歩んでいくけれど。
「私たち……長い付き合いになりそうですね」
千代の言葉に
「そうだな」
昴が短く答える。泉も笑って頷いた。




