第25話:仲間とともに
ホテルの会場にて、「E-Guarders総会」の幕が開いた。
立食のテーブルには色とりどりの料理が並び、談笑する人々の熱気が空気を満たしている。
若葉は思わず足を止めてしまった。
「……本当に、俺たちが来ていい場所なんですか?」
「全員俺らの先輩たちだ。心配すんな」
昴が半歩前に立ち、背中を押すように笑う。
「あ、皐先輩と麗奈先輩だ!」
六花が指差した先に、スーツ姿の皐と、カクテルドレスに身を包んだ麗奈がいた。
周囲のOBたちに囲まれて談笑している二人の姿は、在学中と変わらず自由で、けれど確かに「次の舞台」に立っていた。
「全員防衛部のOBなんですよね?」
六花が会場を見渡して、驚きの声をあげる。
「そうだよ。すごいよね、卒業してもずっとこうやって繋がってるんだ」
泉が答えた。
別世界に住む大人たちに見えるけど、全員が元叡徳高校の防衛部。
みんな自分達と同じようにモンスターと戦ってきた人たちだ。
「なんか、すごい」
思わず若葉がつぶやく。
「圧倒されますよね。私達も去年はそうでした」
その時、一人の男性がグラスを手にやってきた。
「よく来てくれたな。E-Guardersリーダーの貴久だ」
「貴久先輩、お久しぶりです。部長の昴です。今日はお招きいただきありがとうございます」
昴が会釈をして、一年の若葉と六花を紹介する。
緊張しながらしどろもどろに自己紹介をすると、貴久は優しく笑った。
「そんなに畏まらなくていい。気楽に楽しんでいってくれ」
貴久が立ち去った後、若葉が感心したようにつぶやいた。
「昴先輩って、敬語使えるんですね」
「は?当然だろ。何言ってんだ」
皐たちにも使っていたが、もっと砕けた昴らしい敬語だった。
澱みなく丁寧な挨拶を返す昴が意外で、少し遠くに感じる。
「あんなん、泉も千代もできるわ。お前らもできるようになる。……つーか、なれよ?」
圧を感じて、若葉はこくこくと頷いた。
「じゃあ俺は他の先輩たちにも挨拶してくる。若葉、六花。せっかくの機会だから、先輩全員に挨拶してこい」
「ぜ、全員!?」
「はい!行ってきまーす!」
躊躇う若葉をよそに、六花は手をあげて飛び出していく。
誰に話せばいいか迷っていると、20代前半の青年に声をかけられた。
「一年生?」
「はい、龍田若葉です」
「名前だけでいいよ。俺は涼介。若葉って呼んでいい?」
「はい!本当に名前呼びの伝統なんですね」
入部した時に、防衛部が名前呼びの伝統があると泉が言っていたのを思い出す。
「名前しか名乗らないの、最初はびっくりするよな。世代を超えて交流するから、苗字やあだ名が混ざると混乱するっていう理由らしい」
名前が被っても気にせず、同じ名前で呼ぶ。
必要があれば「弓の涼介」みたいに得意武器で区別することもあるという。
「現役の時に被っていないOBは、さん付けで呼ぶことが多いんだ。まぁ、涼介さんでも涼介先輩でも好きに呼んでよ」
「ありがとうございます、涼介さんっ!おぉっなんか、さん付けって大人みたいですね!」
その反応に「高校生って初々しいな」と涼介は笑った。
せっかくの機会なので、若葉は思い切って涼介に相談してみた。
新入部員決めに困っていること。どうやって決めたらいいのか。そして、先輩になる不安などなど。
話しているうちに、いつの間にか周囲に先輩たちが集まってきた。
「めっっちゃ懐かしい!」
「わかるー!これほんと最初の壁だよね」
「一年で仲良くなれたと思ったら、新入部員決めで決裂するやつ」
「それな!」
代によって部員決めのやり方は様々だという。
入部試験だったり、指名だったり。
「うちは希望者全員でじゃんけん大会だったよ。意見まとまらなくて、もう天に決めてもらおうって」
と答えたのは涼介だった。
「うちはおみくじだったな。大吉3ついれて、引いた奴が当選ってスタイル。メンバーの運が悪すぎて、“幸運の持ち主いれないとヤバいね”ってなってさ」
「そんな決め方アリなんすか!?」
若葉は目を丸くする。
もちろん、納得いくまで徹底的に話し合った代もあるらしい。
結局のところ——「新入部員決めは誰もが悩むし、決めた後も悩む」というのが、皆の共通の結論だった。
「しかも正式入部って免許取ってからだろ?一度活動始めたら“やっぱ無理”ってなっても取り消せない。20万かかってるから」
「そうそう。やる気がなくても、新人のプライドがエベレスト級でも、やるしかないんだ。決めたのは自分たちだから」
「で、その育て方でまた揉める。その繰り返し」
「どこの代も同じだね〜」
どの顔も苦笑いが浮かんでいる。
「あとさ、防衛部あるあるなんだけど――」
優秀な後輩は先輩になったら苦労する。
優秀な先輩は後輩の時に苦労する。
これも皆頷きあっていた。
優秀だろうとそうでなかろうと、必ず苦労がつきまとうということだ。
確かに昴達は先輩として優秀だけど、一年の時は先輩から丸投げされていたと聞いた。
「もう、苦労はする前提で、やるしかないってことっすね!」
若葉が言うと、先輩達が一斉に頷いた。
「そう!その時はもうやめてやるってずっと思ってるのに、なぜか全員ここにくる」
その一言にみんなが「分かるー!」と頷きを返している。
「若葉の悩み聞いてると、俺も同じタイプかも。先輩たちが優秀で、気が重かったよ。投げ出したいわけじゃないんだけど、そうやってうだうだ悩んでたな」
懐かしそうに涼介が笑う。
「どうやって乗り越えたんですか?」
「んー、考えるのやめた」
「えっ」
「目の前のことを一生懸命こなした。そんだけ。あとは……まぁ下が優秀で扱いづらい後輩だったんだけど、選んだ以上は信じるしかないから。後輩に頼って仲間と協力して頑張っただけ」
涼介はそう言いながら、苦笑を浮かべた。
「……なんかごめん。普通すぎてアドバイスになってないよな」
すると横から声がした。
「私が、涼介先輩の“扱いづらい優秀な後輩”です!あ、名前はかすみね。よろしく」
かすみがにやっと笑う。
「あたしたち、最初は反抗してたんだ。“部長って全然大したことないじゃん。偉そうにしないでよ”ってね」
「こ、怖っ!言われそう!!」
若葉が思わずたじろぐ。
「で、その度にすっっごい悩むの。この人」
「この人って言うな」
涼介が突っ込み、笑いが起きる。
「頼りになるかって言うと微妙なんだけどさ」
いたずらっぽく笑いながら、かすみが続ける。
「いつもうちらのことに真剣で、必死で、ちょっと危なっかしくてハラハラするの。……で、ある日、一年で結託した。“反抗してる場合じゃない。部長を守らねば”って」
涼介も黙って頷いている。どうやら本当らしい。
「まぁ部長は手がかかったけど……すっごい楽しかった。いなくなったら、“涼介先輩たちいないとこんなに静かなの?”って思ったもん。会議はスムーズに終わるけど、その後ずっと無言よ?無言」
腕を組んでかすみはため息をついた。
「一生懸命で明るい性格って大事なんだなぁって思ったよ。うちらにはなかった。だから新入部員の入部試験はコントやらせた」
「コント!?え、めっちゃ面白そう!」
思わず若葉が爆笑しながら身を乗り出す。
「若葉も、思いっきりやってみればいい。楽しんだもん勝ちだよ。ボウエイジャーって、楽しいだろ?」
そして涼介は笑って、当たり前のように尋ねた。
六花に釣られて防衛部に入った。
養成所でも六花の練習に付き合っているうちに、免許まで取ってしまった。
筋トレや基礎トレは正直逃げたかった。
それなのに——いつからだろう。
「はい!」
部活が楽しくて仕方なくなっていたのは。
訓練はきついし、地味な筋トレは大嫌いだけど、技を教えてもらって強くなるのは楽しかった。
部長との特訓は全然勝てなかったけど、攻撃が効いた時は嬉しかった。
実戦は必死だったけど、
「よくやった」
そう言われると、達成感で胸がいっぱいになった。
放課後部室に向かうのが、みんなでわいわい騒ぐことが楽しみになっていた。
先輩になりたくなかった理由。
責任から逃げたいんじゃない。ちゃんとやっていかなきゃいけないことも分かってる。
——いつかあの部室から先輩たちがいなくなることを、考えたくなかったんだ。
ずっと変わらずこのままでいたかった。
モヤモヤしていた答えが分かって、若葉は思わず俯いた。
「だったら、その気持ちを大事にすればいい」
涼介が若葉の肩に手を置く。
「後輩にも“楽しい”って思ってもらえるように、自分なりに頑張ればいいんじゃないか?仲間なんだから、後輩も頼ったっていいんだ。足りないところは、きっとみんなが助けてくれる」
「……はい。ありがとうございます」
大きく息を吐き、若葉は顔をあげた。
「後輩達にも“楽しい”って思ってもらう……それいいっすね! 俺と六花なら、絶対それ合ってます!」
涼介も笑って頷いた。
「そうそう!困ったらうちらもいるし!悩んで楽しめ、若者よっ!」
かすみも笑いながら若葉の背中を叩いた。




