↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園戦隊ボウエイジャー  作者: 水嶋りこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/31

第22話:【三月】引き継ぐバトン(前編)

「OBの総会日程が決まった。3月16日、空けとけよ」


部室に入るなり、昴は机の上に一枚の用紙を置いた。

先頭には『招待状』の三文字。


「総会……?」

若葉が首をかしげる。

「『E-Guarders(イー・ガーダーズ)』っつー、叡徳防衛部出身の現役ボウエイジャーで作られた組織だ」

「僕らも色々お世話になってるよ。校内全国模試とか現役が動けない行事の時とかに、代わりに守ってくれてる。長期休みの間に、校舎をボランティアで見回ってくれたりね」

泉が昴の説明を受け継いだ。


「すごい!そんな組織があるんですね。かっこいい!!」

六花が感嘆の声を漏らす。


叡徳の防衛部は縦のつながりが強い。

卒業後はOB同士で助け合いながら、個々にボウエイジャーとして活動する人が多い。

「総会ってのは、三年の卒業祝兼E-Guarders加入の歓迎会、それから現役との顔つなぎも兼ねてる。だから毎年学生は全員、無料で招待されるんだ」

興味津々に招待状を手に取った若葉は固まった。


「ホテルのパーティ!?服とかマナーとか全然分かんないんですけど!」

「心配すんな。全員制服で行く。現役だって一目でわかる方が、向こうもやりやすいからな」

落ち着かない様子の若葉に、昴は笑って返す。

 

「立食なので、かしこまったマナーは必要ありませんよ」

昴と千代の言葉を聞いて、若葉は胸をなで下ろした。


「防衛部出身の先輩たちは、色んな分野で活躍してる。進路の話も相談できると思うよ」

泉が言えば、六花が「すごい!」と手を叩いた。


「来年には俺らもそっち側か」

何気なく言った昴の一言に

「え!?」

若葉が驚いた声をあげた。

 

「え、じゃねーよ。一年後には卒業だろ。ついでに言えば来月は新入部員決め、あと四ヶ月で俺らは引退だぞ」

「いや、それは分かってたけど……っていうか、来月新入部員決め!?もう一年経つって早すぎませんか!?」


若葉は急に焦りを感じた。

来月には自分たちが先輩になり、七月で昴たちは引退する。

とてもあと四ヶ月で追いつけるとは思えなかった。

 

昴のように訓練で指導したり、ヤムヤム戦を乗り越える自信も全くない。


「早いよねぇ。もう若葉たちが先輩か」

しんみりした口調で呟くのは泉だ。

「ちなみに、新入部員決めについては新二年に一任されるからね。選び方も誰にするかも、若葉と六花の二人だけで決めるんだ」


新入部員決めについては現部長、副部長に権限はない。

相談すら受け付けないというのが、代々防衛部のスタンスである。


「どんな子が来てくれるか楽しみだね!」

六花はワクワクしているが、若葉はそんな気にはなれなかった。


「そんなに難しいことじゃねーよ。自分たちに必要だと思う奴をいれるだけだ」

「そろそろ選び方を考えておくといいよ」


「俺達が先輩かぁ……。やだ。考えたくない」

来月に迫っているのに、先輩という響きはずっしりとのしかかる重い石のように感じた。


◇


卒業式の余韻がまだ残る午後。

 

部室の扉が開き、真新しい花飾りを胸に付けた三年生が顔を出した。皐と、麗奈だ。


「邪魔するよー」

「よっ!おっひさーっ」

二人が来た途端、部室は一気ににぎやかな雰囲気に包まれる。


「卒業おめでとうございます」

用意した花束を渡すと、皐が口元を綻ばせた。

「お、グリーンだ!さすが。分かってるねー」


毎年ボウエイジャーカラーの花束を贈呈している。

防衛部では代々部長がレッドを引き継ぐ。

皐も部長になった時にグリーンからレッドに変わったが、

『レッドって柄じゃないし、昴がやればいいのに。俺はグリーンに戻るから』

とよく冗談でこぼしていた。


入部から引退までボウエイイエローだった麗奈には、黄色の花束。

鮮やかな色合いは麗奈の性格にぴったりだった。


「卒業と言っても二人ともE-Guarders入るからさ。今後ともよろしく」

「何か困ったら言ってね〜!」

 

「わぁ〜!じゃあ総会でまた会えますねっ!」

六花が手を叩いて喜ぶ。


「おー、六花!新歓ぶり!元気だった〜?」

「元気ですよ〜っ!お久しぶりです、麗奈先輩っ」

笑顔でハイタッチする二人を眺めつつ、泉がそっと昴に尋ねた。


「あの二人って接点あったっけ?」

「新歓で一度顔合わせてる」

「その一回だけだよね……」


旧知の中かと疑うくらい、すでに打ち解け、盛り上がっていた。

 

「千代も混ざって来れば?」

昴の言葉に、千代は静かに首を振った。


「せっかくだし、俺も一年と話そうかな」

皐がにこやかな視線を一年に向ける。

 

「……変なこと吹き込まないでくださいよ」

昴が嫌そうな顔をするが、「分かってるよ」と涼しい顔で若葉と六花に話しかけた。


「なぁ、昴たちって頼りになるだろ?」


——だからいきなり何を言い出すんだ、あの人は。


「はいっ!!昴先輩は厳しいけど強くて頼りになるし、とにかく全てがすごいんですよー!」

六花が満面の笑顔で答える。

「泉先輩は優しくて、教え方がわかりやすくて、頭もよくて、たくさん褒めてくれるし……」

若葉も真面目な顔で頷く。

「千代先輩は強くてかっこいいのに可愛くて!みんな憧れますっ!」

「頼りになりすぎて、先輩達抜けたらどうなるんだろうってめちゃくちゃ不安です!!」

一気にまくし立てられ、ニ年組は固まった。


「お前らなぁ……」

昴が呆れたように笑い、

「…うん、分かったから」

泉も苦笑する。

「…ありがとうございます」

千代は「可愛い」の一言に耐えきれず、顔を背けて頬を赤らめた。

 

対照的に、三年コンビは満面の笑みだ。


「先輩たちって、一年のときはどうだったんですか?」

若葉が尋ねる。

「そうだね。今とあんまり変わらないと思うよ。昴は一年の時からほぼ部長ポジションだったし」

皐が軽く答えた。


「えっ?」

若葉が目を丸くした。


「俺の代わりに三人で練習メニューも作戦も考えてくれるし、戦闘も昴が引っ張ってくれるし」

「……それは皐先輩が俺にやれとか三人でやれっつーからでしょうが?」

昴が即座に突っ込む。

 

「適材適所だよ。俺そういうの苦手だから」

皐はさらりと受け流した。

「その一言で全部済ませてましたよね?」


「まーいいじゃん」

麗奈が昴の肩をポンと叩いた。

「皐はこんなんだし、うちは正面からぶっ飛ばせばいーじゃんって考えだし!昴達は一年なのにいろいろ考えてて、えらいなぁって思ってたよ」

あっけらかんと答える麗奈に昴はもう何も言わなかった。その横顔に浮かんでいるのは諦念だ。


「六花。せっかくだし、先輩達に聞いてみたいことない?」

泉が話を変えた。

 

「あ、皐先輩ってメガホンだけで倒しちゃうって聞きました!本当ですか!?」

「違う違う。みんなに戦闘任せて、俺は後ろの方で応援してただけ。浄化したことはあるけど……麗奈が殴り倒してる数の方が多いんじゃないかな?」

「殴り倒す……?」

六花がきょとんとする。麗奈は小柄で可憐なお姉さんにしか見えないからだ。

 

「麗奈先輩の個人武器がボウエイグローブだったんです。ボクシンググローブみたいな形状です」

横から千代が説明した。

「……それで、文字通り殴って倒してました」

 

「なんかさ〜、ソードってまどろっこしいじゃん?グローブでぶん殴る方が、うちの性分に合ってるんよねー!」

麗奈は豪快に笑った。

 

「まぁそれも、うち一人じゃ倒してないし!うちは単に奇襲担当ってだけ」

「奇襲で敵の戦意喪失させてましたけどね」

千代がさらりと補足する。


昴も泉も否定しない。つまり事実だ。


「こういう先輩もアリなんだ……」

若葉が衝撃を受けた顔をする。

片や一年に丸投げして、戦闘で後方から応援する。

もう片や作戦にはノータッチでとりあえず正面から突っ込むのみ。

 

うん、それなら自分にも、できる気がしてくる。


「ありあり。君らも自分達らしくやればいいんじゃない?俺や昴たちにはない武器があるんだからさ。それを大事にすればいいよ」

皐が明るく言った。


「武器、ですか?六花はともかく、俺は……」

若葉が口ごもると、麗奈がすかさず笑った。


「なーに言ってんの。あの号外はあんたらにしかできないって。サイコーだった!カッコよかったよ!」

背中を叩かれて思わずよろめく。

 

「あ、ごめんっ」

「大丈夫っす!」

背中はじんじんと痛むが、思わず頬が緩んだ。


「じゃ、もらうもんはもらったし、うちらは帰るわ〜」

あまりに急な切り上げに、部屋中が「えっ」と驚いた。

 

去年はもう少し思い出話に花を咲かせるとか、しんみりしていたはずだ。

卒業生からの一言や、現部長から卒業生へのメッセージとか、感動的な時間があったと記憶している。


「卒業生からのメッセージ的なのはないんですかね?」

昴が半ば呆れて尋ねた。

言いそうな答えは分かっているけれど。


「「ない」」

予想通り、声を揃えて二人はきっぱりと答えた。


「みんないい顔してる。今更俺から言うことなんて何もないよ。じゃあね」

皐は軽く手を振り、

「みんな仲良く楽しくやんな〜!またね!」

麗奈も元気に両手を上げる。


そして、嵐のように去っていった。



部室を出た皐と麗奈の足取りは軽い。

「みんな、いい顔してたね〜。千代を照れさせるとは、なかなかやるねぇ。可愛いかったわー」

麗奈が満面の笑顔を浮かべる。


「そうだね。三人とも、入部面接の時の悲壮感からは想像できない顔してたな」

 

「あの時はお通夜かって感じだったよねー!」

麗奈がうんうんと頷いた。


「……昴がさぁ」

皐が眼鏡の奥の目を細めて笑う。

「全っ然気負ってないんだもん。泉も千代も、自然体でいい顔してた。……だめ、思い出しただけで泣ける」

「あれ以上あそこにいたらやばかったよねー。一年はキラキラしてるし、二年はみんな雰囲気優しくなってるし。あーもうみんな可愛いな!」

笑っている麗奈も涙目だ。

 

こんな姿を後輩達には見せる訳にはいかない。

しんみりした空気は自分たちには似合わない。


「卒業おめでとう、麗奈」

前を向いたまま、皐が言う。麗奈は一瞬だけ目を伏せて

「さんきゅー!皐もおめでと!」

前を見つめて笑った。


 

二人が出て行った後の部室には、まだ嵐の後の余韻だけが残っていた。


「……相変わらずだな、あの二人」

昴が苦笑する。

 

「久しぶりに聞いたよ。先輩の『俺苦手だから』」

「それで全てを片付けてましたよね…」

三人が頷き合う。


若葉は逆に感心したように言った。

「……ってことは、俺らも優秀な後輩が入ったら丸投げしていいってこと?」


「やめとけ」

昴がすかさず切って捨てた。

「あれはあの人だから許されてんだよ。一見自由人だけど、あの人の丸投げは全部計算だ。……普通の人間にはできねーよ」 

そこが、腹立つんだけどな。と苦く笑って付け足した。

 

「一年の頃の僕らは、無茶振りばかりする無責任な先輩だと思ってたけどね。反発もしたし、昴は殴りこみにも行ったんだよね?」

泉が笑い混じりに呟く。千代も吹き出した。

「……懐かしい」


「皐先輩ってどんな部長だったんですか?」

「一言で言えば、放任主義だったな」


その一言から、自然と昔話へと移っていった。


練習メニューは一年に決めさせる。

訓練中に「好きにやりな」と言って姿を消すのは日常茶飯事。

「武器の使い方を教えて欲しい」と言えば、ボウエイ協会の無料講習会に申し込んで終わり。


ヤムヤム戦では「昴、あとよろしく!」と言うなり、モンスターの死角まで下がって座って見物していた。


あの時は何のための”部長”なのか、分からなかった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。