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学園戦隊ボウエイジャー  作者: 水嶋りこ


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20/31

第20話:【ニ月】バレンタインは甘くない(前編)

二月。


六花がボウエイジャーとして正式に活動をはじめて、もうすぐ半年になる。

放課後の部室で、泉は一人、ノートを開いたまま手を止めていた。


(六花の育て方……これで、本当にいいんだろうか)


実戦訓練は、若葉を昴が、六花を泉が担当している。

素直で努力家な六花は、泉の教えをよく聞き、必死に食らいついてきた。

防衛部員としては、順調に成長している。


でも——。


『アイドルとして、プラスになれるなら!』


防衛部に勧誘した日のことを思い出す。

 

『無個性アイドルって言われてるんですよー!』

六花は笑ってそう言った。

その声が、今も泉の耳に残っている。


『歌って踊って戦えるアイドルなんて、なかなかいないと思うよ』

そう答えたのは自分だ。

その一言に六花は目を輝かせ、『じゃあやりますっ』と即答した。


(……無責任なこと言っちゃったな)


六花の入部は、防衛部にとっては”大正解”だった。

明るさと前向きさはモンスターに対抗するための武器になる。

人当たりが良くて、誰からも愛される人柄は、外部との交渉役にもちょうど良かった。


だが、それはすべて防衛部側の都合。


現実の『∞Bloom(インフィニティブルーム)』での六花は、ほとんど役割を得られていない。

ライブの選抜には滅多に選ばれず、全員参加のイベントだけ。

ファンからも「無個性」「可愛いだけで面白みがない」と言われ続けている。


ボウエイジャーとしての経験を積んでも、アイドルで戦闘力を発揮する機会はない。


六花の長所は笑顔と明るさ。ポジティブで頑張り屋なところだ。

でも、それはアイドルなら誰もが求められるものでもある。大人数のグループの中では、差別化できる武器にはならなかった。


加えて六花は不器用で覚えも悪い。

飲み込みが早くセンスもあるメンバーとは、同じ土俵では戦えない。


防衛部にとっては、不人気アイドルでいてくれた方が都合がいい。

表舞台で引っ張りだこになられたら、活動に支障が出るからだ。


(でも……それじゃ、六花があまりにも報われなさすぎる)


泉はノートを閉じ、深く息をついた。


(六花のアイドルとしての“個性”って、一体なんだろう?)


窓の外には冬の夕焼けが広がり、部室の中をオレンジに染めていた。



◇


「もう一度。お互いの動きをよく見て」

「はいっ!」


泉の指示に、六花は大きく声を上げた。

額に汗をにじませながらも、いつものように笑顔を崩さない。

振りかぶる動作も、足の踏み込みも、まだ粗い。

けれど彼女は何度失敗しても立ち止まらない。

「よし、次っ」

「いきますっ!」

小柄な体で全力を尽くし、何度でも挑んでくる。


(ほんと、素直で頑張り屋だよな)

泉は手本を示しながら、内心でそう呟いた。


クラスでの六花の評価を聞いてみた。


「櫻井?めっちゃ元気だよな」

「明るくて優しい子だよ」

「いい子だよねー!」


返ってくるのは、どれも同じような答え。入学当初に聞いた時から変わらない。

”元気・明るい・優しい・いい子。”


防衛部の評価と同じ。そしてアイドルとして、武器にはならないもの。


みんなに愛されているけれど、みんなを仕切る訳ではない。そこにいるだけで雰囲気を明るくする存在。

それが、六花なのかもしれない。


訓練の休憩中。

ベンチに並んで座ると、六花が美味しそうに水を飲み干した。


「六花はすごいよね。いつでも笑顔で前向きで、誰にでも優しい」

泉が何気なく言うと、六花は目を丸くした。


「えええ!?そんな〜嬉しいですっ」

ハイテンションで身を乗り出す。


「泉先輩もじゃないですかっ。いつでも笑顔で、誰にでも優しくて親切で。頭もいいし強いし、すごいですっ」

「いや、そんなことないよ」

泉が笑って首を振ると、六花はますます瞳を輝かせた。

 

「謙虚なところもすごいです!!泉先輩は何でもできるのに自慢したりしないし、いつも真剣に向き合ってくれるし。ちょっとした疑問とかも丁寧に教えてくれるし、頼りになるし」

あれもこれもと、六花の力説は止まらない。


「……うん、分かったから。僕のことはいいから、その辺で……」

尊敬の眼差しに見つめられ、泉はどうしていいか分からず、思わず視線を逸らす。

 

「……そんなふうに見えるんだ?」

「はい!すごく尊敬してます!!」

「…………」

泉が沈黙する。


「泉先輩?」

六花が不思議そうに首を傾げた。


「……ごめん、どうしていいか分からなくて……っていうか、そんな風に思われてるっていうのが意外で……」

「え!?」

泉の言葉に六花が驚いた。


優しくて親切でなんでもできる王子様——それが周囲から見た泉の一般的なイメージのはずだからだ。


「え、でもみんなそう言ってますよ!?」

「みんなはね。みんなの前では、そうしてるから」

泉が苦笑した。

 

「……昔からさ、周りに合わせて生きるのが得意で……ずっと優等生を演じてたんだ。そのうちそれが染み付いちゃって、自分がどこまで本物か分からなくなって……だから、褒められても素直に受け取れないんだよ」


言葉を探しながら、それでも泉は笑った。

 

「でも、防衛部では素の自分でいるからさ。よく昴や千代ちゃんには怒られるし、頼りなくて弱い自分も全部見せてるから。だから、防衛部にいる僕がそういう風に見られてるのは、ちょっと意外で……でも嬉しい。ありがとう」


六花は頬を緩ませて頷いた。

 

「六花はさ。どうしていつも前向きでいられるの?頑張っても無駄になったり、悔しさや不安に襲われること……六花にもあるだろ?」


「ありますよ!でも寝ると忘れちゃうんです。単純だから、あんまり深く考えても分からなくなっちゃうし。だから『まぁいっか!』って笑って寝ちゃうのが一番楽なんですよ〜」

あっけらかんと六花は笑った。

 

「……メンタル強すぎるでしょ」

泉が苦笑する。


六花はぽんと手を打った。

「あと、前に何かで聞いたんですけど——“成功は高くなり、失敗は深くなる”。高さは人に見えるけど、深さはその人と話してみないと分からないって。あたし、この言葉すごく好きなんです」


「深さ?」


「そう考えたら、無駄なことなんてないじゃないですか〜!選抜落ちたらその分頑張るだけだし、むしろ深みが増して味わい深くなるっていうか!」


その無邪気な笑顔に、泉は思わず息をのんだ。


泉が叡徳高校に入学したのは、第一志望に落ちたからだった。

 

努力が必ず報われることでないことも、周りに手のひらを返されることも知っている。

叡徳に来て防衛部に入れたから、結果としては良かった。

でも、失敗自体は棘となってまだ心の中にいる。


「……六花なら、アンチが来ても浄化しそうだね」


自分が失敗から得られた『成功』だけに目を向けていたことに気づく。

でも六花は、失敗そのものを肯定してる。経験自体が財産だと思ってる。


——だから、折れない。


「まずアンチが来るくらい頑張ります! ウェルカムアンチ!」

「招いてどうするの」


二人で吹き出した。


六花の長所は前向きで、努力家で、優しくて、折れないこと。そして周りを明るくする力。

アイドルとして『普通』のもの。

だけど、それはみんな、アイドルの間だけ装備するものだ。


泉は思った。

「アイドルとしての“普通”」を、素のまま体現できる六花は、——〈天性のアイドル〉なんだと。


 

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