第19話:【特別編】入部の理由ー六花の場合ー
新入部員の候補の一人は若葉に決まった。
泉と千代には若葉を推す理由がいまいち分からなかったが、二人は反対しなかった。
「分かりました。あなたがそこまで言うのなら」
「そうだね。僕もいいよ」
若葉をよく知らなくても、昴のことは信頼している。
「もう一人はどうしようか?」
泉が立候補者の名前が書かれた用紙に視線を落とす。
「若葉は俺が選んだから、もう一人は泉と千代の候補からにしようぜ。誰か入れたい奴いるか?」
「一人は女性がいいです。性別が全てではありませんが、男性に囲まれるのはちょっと……」
千代が一人の用紙を手に取った。
「立候補以外も一応探したのですが、教室を見ても誰がいいのか分からず………。立候補の方は全員お話してみました。その中なら、この方がいいです」
長谷瑠実。
中学の時はソフトボール部の主将だったという。運動神経は抜群で、即戦力として期待できる。
立候補するくらいだからやる気も十分ある。礼儀正しく、筋が通った人だった。
「部活でも成績を残しています。信頼がおける人だと感じました。……泉はどうですか?」
「僕は、この子がいいな」
櫻井六花。
立候補ではなく、泉が見つけてきた子だ。
いつも明るく笑顔で、天真爛漫な性格。人当たりがよく調停役に向いてそう。ただし、運動能力はそこまで高くなく、即戦力としては期待できない。
「櫻井六花?」
昴が眉を寄せる。聞き覚えがある名前だった。
——『昨日櫻井六花と話したよ!若葉が言ってた通り、めちゃくちゃ可愛かった!』
(あぁ、若葉が話してたやつか)
その後も、若葉は何度か六花の話題で盛り上がっていた。
「ニコニコしてて明るくて、いるだけでパッと空気が明るくなる雰囲気の子だった」
泉が推薦する理由を話し出した。
◇
最初に彼女を見かけたのは中庭だった。
女子生徒がしゃがみ込んでいたから、気分でも悪いのかと思って声をかけた。
彼女は驚いたように顔をあげると、すぐに笑顔を浮かべた。
愛らしい顔立ちだからだろうか。笑うとパッと華が咲くように、空気が明るくなった。
「すみません、大丈夫です!ちょっと気になるものがあって……勘違いでしたっ!」
ぺこりと頭を下げて、友人達の輪の中に戻っていく。
「六花〜、ピアスのことはもういいって言ったでしょ。まったくあんたは!探すの禁止!」
「探してないよ〜!光るものがあったから、ついっ」
「え!?」
「じゃんっ!お菓子の袋の切れ端でしたっ」
内側が銀色に輝くお菓子の切れ端を六花は広げた。
「ゴミ箱に捨ててくるねっ」
また笑顔でゴミ箱に向かって駆け出していく。
(明るくて元気な子だな)
それが彼女の第一印象だった。
千代と同じく泉も、まずは立候補者から見て回った。
教室内に明るい笑い声が響く。目を向けると、あの子がいた。
弾けるような笑顔で、友達と話していた。
候補者達と一人ずつ話をしているはずなのに、気づくと自然と六花を探すようになっていた。
いつも笑っていると、笑顔じゃない顔が見たくなってくるものだ。
昼休みに食堂でご飯を食べていたら、お弁当を持った六花達が隣のテーブルに座った。
「さっきの体力テストの長距離……六花、めっちゃ余裕だったよね」
「え。全然余裕じゃないよ!?」
「歌いながらゴールしてたじゃん!」
「うそ!声に出てた!?頭で歌うと、きつい長距離も楽しくなるって思って頭の中で歌ってたんだけどっ!えー恥ずかしいっ」
あははっと六花が笑う。
「歌ってた。めっちゃ歌ってた」
「六花って腹筋も笑いながらやってたよね?」
「あ、それはね。最近腹筋鍛えてるんだっ。筋肉ついてきたのが嬉しくてっ!できると楽しいね。みんなが割りたくなる気持ち分かるよー」
六花は目を輝かせている。
「アイドルが割るなよ……」
「みんなに含めないで。割りたい女子ばっかりじゃないのよ……」
周りも突っ込みながらも笑っていた。
”アイドル”と言う言葉が気になって、後で調べてみた。
アイドルグループ『∞Bloom』の”リッカ”。
人気投票では振るわず、ネットでは「無個性アイドル」「面白みがない」と言った評価が並んでいる。
意外だった。
高校での彼女は毎日が楽しくてたまらないというような、幸せオーラに溢れているように見えたから。
六花は見かけるといつも笑っていた。
『探すの禁止』と怒られるほど友達の無くしたピアスを探してしまう、優しい子なのだろうと思った。
少し気になって周りの子に聞いてみたけれど、勉強も運動も得意な方ではないらしい。
だけど、きつい長距離が楽しくなるように歌ったり、腹筋が出来るようになって嬉しいと喜べる。
グループ内の下位メンバー。無個性アイドル。面白みがない。
なのにそんな評価をものともしていなさそうだった。
本当に気にしていないか、もしくはマイナスな評価をバネに前向きに努力しているのか。
どちらにしてもただの「明るい性格」だけではない、強さがあるんだろう。
そう、泉は思った。
「芯が通った明るい子なんだと思う」
泉は六花の性格をこう結論づけた。
「確かに運動能力で見たら劣るけど、ボウエイジャーって明るさやポジティブさも武器になるからさ。それにチームとして考えた時に、あの明るさは僕らに欠けている要素だと思ったんだ」
「確かに明るい笑顔は私達には無縁ですね。ですが……チームで考えるなら若葉さんとの相性も重要かと。若葉さんが普通のお人好しなら、引っ張ってくれる即戦力の方がいいのでは?」
千代の意見はもっともだったが、昴は即座に首を振った。
「いや、櫻井六花の方がいい。優秀な奴がいたら手を抜いて何もしないに決まってる。相手が手がかかる方が若葉も面倒みるだろ。あと六花に興味があるらしいから、ちょうどいいな」
昴の言葉に、泉と千代が顔を見合わせる。
「……ねぇ、昴。本当にその若葉って子でいいんだよね?」
泉の表情に、不安が浮かぶ。
「すみません、良さがいまいち伝わらないんですが……」
千代も同様だった。
「まぁ、ヒーローの素質はある。……多分な」
「断言してください!」
新入部員は若葉と六花に暫定的に決まった。立候補じゃないから、断られる可能性もある。
その場合の候補も決めた上で、昴は本人に承諾を得る役目を泉に任せた。
「若葉くんは昴の方がいいんじゃない?」
と泉が言ったが、昴は首を振った。
「あんまり俺、いい噂ねぇから。下手したらびびって逃げられるかもしれねーからな。あいつの場合、多分優しそうなお前の方が警戒されないはずだ」
軽く笑いながら、昴が言った。
その際、先に六花の承諾を得ておくこと。
若葉の勧誘には六花を餌にすること。
それでもダメなら「進学や就職に有利」「一流企業に勤めるOB達とのパイプがあること」などで釣るようにと昴は念を押した。
「くれぐれも、使命感とかやりがいとか言うなよ。モンスターの出現は月一回程度。5人がかりで倒すとだけ言えば、あいつは勝手に侮るだろ」
「ちょっと待って、昴……」
泉は額に手をやった。
叡徳高校防衛部と言えば、全国から注目を集める存在だ。
それを目指して入学する生徒もいるくらい、憧れている生徒は多い。
自分たちには学校を守る使命がある。
その次世代ヒーローの勧誘方法として、昴の提案はあまりにも酷かった。
半端な気持ちで入って、免許が取得できなければ大問題だ。危険もある。半端な覚悟でつとまるものではない。
「あのさ……防衛部のこと真剣に考えてる?」
「考えてる。大丈夫だ。入れたら俺が絶対に逃がさない。ちゃんと責任持って育てる」
昴が大真面目に頷いた。
「入れてしまえばこっちのもの——ではありません。あなたの都合だけじゃなく、若葉さんの気持ちもちゃんと考えなさい!」
静観していた千代の一喝が飛ぶ。
多少揉めたものの、昴の説得に二人ともしぶしぶ納得した。
後日、正式に二人の入部が決まった。
泉が防衛部に入部して欲しいと伝えたら
「アイドルとして、プラスになれるなら!」
六花は弾けるような笑顔でそう言った。
「無個性アイドルって言われてるんですよー!」
彼女は気にしていない訳じゃない。分かった上でいつも笑っているんだと泉は思った。
「歌って踊って戦えるアイドルなんて、なかなかいないと思うよ」
そう答えると
「じゃあやりますっ」
と承諾してくれた。
若葉は
「もう一人は櫻井六花さんだよ」
この一言で本当に入部を即決した。
(この子、本当に大丈夫なんだよね……?)
と泉が思ったのは言うまでもない。
その後、部長の皐に新入部員が決まったことを報告した。
「この子達を選んだのは意外だけど、いい人選だね。二人ともヒーローの素質は十分ある」
皐は二人の入部届を見て、満足そうに笑った。
皐の観察眼は、全員が認めている。
その言葉に泉と千代はほっと胸を撫で下ろした。
※次回、第20話から本編に戻ります。(時系列では第14話の続きになります)
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