第18話:【特別編】入部の理由ー若葉の場合ー
昴たちの代は、部員決めの方法を指名制という形にした。
去年は立候補制だったが、結局そう言いながら千代はほとんど指名だった。
最初から指名制としておけば、立候補も考慮できるし縛りもない。
「立候補も考慮する」と明記した投票箱と立候補者名を記入する用紙を防衛部前に設置した。受付締め切りは4月20日。
その後立候補者と自分たちが見つけた候補の中から二人を選出することになっている。
防衛免許の申し込みは毎年4月末に出しており、新入部員は夏休みが終わるまでに防衛免許を取得することになっていた。
二年に進級した昴が、初めて若葉を見たのは駐輪場だった。
「えー、どうしよう」
入学式から一週間。
真新しい制服に身を包んだ新入生が、何かを手に困ったようにつぶやいていた。
「どうした?」
「あ……、えっと、鍵拾っちゃって。職員室ってどこでしたっけ」
「渡しとく」
「あ、ありがとうございます!」
新入生は鍵を昴に渡すと、背を向けた。
そして、戻る道中、風で倒れている自転車達を直していく。
自転車で登校してくる一年が、そんな彼に声をかけていった。
「若葉、おはよ!こないだのミニバス、来てくれて助かったよ!急な助っ人ごめんな」
「全然!俺も楽しかったし!」
また別の一年が声をかける。
「おはよ!若葉、今日の英語の訳やった?ごめん、俺当てられるから後で答え合わせさせて」
「おっけー!ってか俺も半分しかやってなかったわ!」
「おい!!」
「おう若葉〜!今日の放課後、暇だったら一緒にカラオケいかねー?」
「いーね!行く行く!他のやつも誘っていい?」
「おはよー!あ、昨日櫻井六花と話したよ!若葉が言ってた通り、めちゃくちゃ可愛かった!」
「だろっ!……って、ずりー!俺も話したことないのに!」
クラスメイト達と談笑しながら去っていく。
——おい、「若葉」。お前何者だよ。
まだ入学して一週間だ。
叡徳はいろんな中学から集まってくる。お互いまだ探っている時期のはずだ。
なのに自転車で登校する一年のほぼ全員が、若葉の横を通り過ぎる時に必ず声をかけていく。
頼られているのかと思ったが、周りの反応を見る限りそういう訳でもなさそうに見える。
少し興味を惹かれた。
入学から二週間も経てば、だんだん馴染んでくる。人間関係を測るにはちょうどいい時期だ。
「龍田若葉って知ってるか?」
一年の教室で聞いてみると、ほとんどが知っていると答えた。
しかし「どんな人か」という質問には、「え、めっちゃふつーじゃない?」という反応だった。
「勉強?いやー得意じゃないと思います。当てられる日は騒いでるし」
「部活はやってないと思います。サッカー上手いからサッカー部誘ったんですけど、走りたくないって言ってたんで」
「あー俺同じ中学なんですけど。あいつ、筋トレと試合がないならやるって言ってました。遊びならいいって。運動神経はいいんですけど、やる気ないから、全部そこそこっていうか……」
「え、若葉の友達?多いんですかね?いや、あいつに友達何人いるかとか知らないんで……」
本人不在の時に聞く評価は、『普通』
これと言って目立つものが何もない。
次に若葉を見たのは体育館だった。
二年がバレーの授業をしている一方で、一年がバスケをやっていた。
その中に若葉がいた。
華麗なシュートを決める訳ではないし、巧みなドリブル技術がある訳でもない。
(……いいポジションに立ってんな)
気づくといつもいい位置に若葉がいる。ピンチになれば若葉にボールが回るし、パスも正確だ。
歓声があがるような派手なプレーはしない。目立つのは別の生徒達だった。
だけど、試合中若葉がボールを奪われたことは一度もなかった。
放課後、部室から外を見れば若葉がバスケットコートで遊んでいた。
(普通に、シュートもできんじゃん)
意外だったが、まぐれでもないらしい。
楽しそうにシュートを決めると、仲間達とハイタッチしていた。
そう言えばミニバスの助っ人がどうのという話を聞いた気がする。
フットサルイベントの手伝いを頼まれたらしいという話を聞いて、週末に公園に足を運んだ。
チームの大半が小学生達だった。
プレーではサポートが中心。授業と同じで、他人のプレーの助けになる場所に必ずいる。
目立つプレーはできないのか意図的にやらないのかも、よく分からない。
前にサッカー部の一年が「サッカー上手いからサッカー部に誘ったけど、断られた」と言っていたことを思い出す。やれば、それなりに出来るんだろう。
「行けるっ!そっち、まわりこめ!」
小学生達に楽しそうに声をかけ、ゴールが決まると「やったな!」と自分のことのように喜ぶ。
若葉に褒められた子供達の顔が綻んだ。
帰ろうかと思った時、ペットボトルの水を飲んでいる若葉に高齢の女性が声をかけた。
「あらぁ、あなた。この間はありがとうね。荷物もってもらって助かったわ」
「あーあのときのおばあちゃん!?大丈夫っす!」
すぐに若葉が笑顔で立ち上がる。
そして、すぐに世間話で盛り上がり始めた。
(おい、どうなってんだよ)
思わず昴は笑ってしまった。
知れば知るほど、若葉がよく分からなくなる。
一つ一つだけ見れば普通に見えるのに、意識して見ると普通じゃない。
本人と話せば何か掴めるかもしれない。
昴は若葉の教室を訪れた。
だが。
「あー、若葉!あれ、さっきまで、いたんですけど」
「若葉ならさっき誰かに呼ばれてました」
「あ、保健室に誰か連れてくところ見ました」
「若葉なら、さっき廊下にいましたよ!プリント運んでました。日直かな」
(あいつは何日連続で日直やってんだよ!!)
いつ行っても、会えない。日を変えても会えなかった。
(……今度はどこに行きやがった。あのお人好しは)
もう呆れを通り越して笑えた。
「若葉に二年の教室行くように伝えましょうか?」
「いや、もういい」
集まった候補者リストをもとに、選出会議が始まる。
「俺はこいつを入れたい」
「龍田若葉さん、ですか。どんな方ですか?」
「普通のお人好し」
昴はそうとしか言えなかった。
説得できるほどの材料がある訳ではないからだ。
頭脳も、運動能力も、気遣いも、個々で見れば上がいる。
目立った特技がある訳じゃない。ボウエイジャーへのやる気にいたっては皆無だろう。
運動もセンスはありそうだが、技術は未知数だ。
社交性もあるのかないのか、よく分からない。
交友関係は広そうなのに、なぜか「友達が多い奴」という印象を誰も持っていない。
若葉は困ってる人を放っておかないと思う。
それだって、他の立候補者だってそうだと言われれば、それまでだ。
「なんでだろうな……見てて、ヒーローだと思った」
言いながら違和感を覚えた。
ヒーローと聞いて思い浮かぶイメージと、若葉は結びつかないだろうから。
「俺があいつと一緒にやりたいんだよ」
若葉をうまく伝える言葉はない。
でも多分、ヒーローとして必要なものを若葉は全部持っている。
それだけは確信している。
会った回数は少ないけれど——
若葉の周りにいた人は、全員笑顔だった。




