第2話:新生防衛部、始動!(後編)
校舎裏に着くと、地面を叩き割るように黒い煙が立ち上った。
そこからぞろぞろと現れたのは——
困った顔で「ヤダモンヤダモン♪」と歌う、真っ白なモンスターの群れ。
通称、ヤダモン。
ゆるキャラのような雰囲気だが、手には槍を持っていて振り回してくるのが厄介だ。
そしてなにしろ数が多い。
「ヤダモンだね。中級モンスター、ヤムヤムの子分みたいなものだよ」
泉が説明する。
中級モンスターのヤムヤムは、必ず複数のヤダモンを伴って現れる。
「ヤダモンはそこまで強くないが、数が多い。油断すんなよ」
昴の言葉に、二人は頷いた。
ヤダモンの中心に立つ一体の中級モンスターがヤムヤムだ。
ヤダモンはすべて同じ姿をしているが、ヤムヤムは毎回違う姿だ。
吸収した人間のストレスに応じた姿と能力になるという。
今回現れたのは、アロハシャツのヤムヤムだった。
サングラスに浮き輪まで装着して、
「我が名はカムバック!!!夏休みカムバーーーーック!!エンドレスサマァァァァーー!」
と叫んでいる。
ヤムヤム・カムバック。
見たところ、夏休みが終わった悲しみから生まれたモンスター……らしい。
「じゃあ、一年組。ヤムヤムはお前らに任せた!」
「えぇ!? いきなり!?ヤダモンじゃなくて!?」
「お前ら、養成所で習ったんだろ?“実戦で学ぶのが一番早い”ってな」
昴の笑みは悪戯っぽく、どこか挑発的だった。
六花は顔を引き締め、大きく頷く。
「大丈夫! やってみようよ、若葉くん!」
「お、俺は全然大丈夫じゃないんだけど!?」
養成所では、実戦で学べなどと教わらなかった。
むしろ中級モンスター、ヤムヤムに遭遇したらすぐに仲間を呼ぶように習った。
新人ボウエイジャーには荷が重いからだ。
訓練でも複数人で倒す練習しかしていない。新人二人でなんて無謀すぎる。
「剣のアイコンを押せば武器が出るから。まぁ、色々やってみろ」
言われるがままに剣のアイコンを選択する。
若葉には緑色、六花にはピンク色のボウエイソードが手の中に収まった。
柄を握る手に、汗が滲む。
きっと、いざとなったら先輩達が助けてくれるだろう。
後ろに目をやれば、ヤダモン達を早々に片付けた先輩達がはるか遠くで談笑していた。
助ける気はなさそうだ。
「若葉くん!危ないよ!」
六花の声に我に返り、ヤムヤム・カムバックの攻撃を躱す。
「夏休み、カムバ——クッ!」
カムバックが放つ水鉄砲が、地面に当たって爆発した。
石つぶてが、あられのように飛んでくる。
「ガハハハ!ただの水鉄砲じゃないぞ!これは俺様特製の水爆銃なのだ!!」
「くそっ!そんなんアリかよ!」
ヤケクソでソードを振りかぶる。
あっさり素手で受け止められた。
「離せよ!!」
ふざけた風体の割に、戦闘力は本物だ。
まるで歯が立たない。
カムバックがソードを手離す。
と同時にカムバックの蹴りが炸裂し、若葉は地面に叩きつけられた。
「いってぇ…」
ボウエイスーツに守られているものの、叩きつけられた衝撃で全身に痛みが走る。
何度も斬り掛かっているのに、カムバックの方は大したダメージを受けていないようだった。
余裕の表情で間合いを詰めてくる。
なんとか起き上がるが、勝てるとは思えない。
若葉に代わって六花が応戦するが、攻撃は当ててもほとんど効かず、こちらが受ける攻撃の方が遥かに多い。
六花の剣が弾かれ、背中から地面に叩きつけられた。
「六花!」
「だ、大丈夫! まだやれるよっ!」
泥だらけの六花がすかさず立ち上がった。
「頑張ろ、若葉くん。あたしたちの攻撃だって、少しずつだけどちゃんと効いてるよ!」
剣を握り直して、六花は笑った。
「あたしたちが諦めなければ、時間がかかっても絶対、倒せると思う!」
走り出して斬り掛かる。なんなく受け流されて、再び地面に膝をつくのは六花だった。
「あと少しだったのにー!でも負けないよーっ」
けれどすぐにまた、立ち上がる。
(なんで…笑えるんだ)
その姿に、若葉の胸がざわつく。若葉も何度も弾かれて、体力はもう限界だ。
視界は霞むし、息をするたびに肺が悲鳴を上げている。
六花も同じだろう。なのにカムバックに斬り掛かる。
「ふんっ甘いわ」
カムバックがそんな六花に水爆銃を構えた。
「あ、やば……っ!」
——避けきれない。
その瞬間、若葉は勝手に体が動いていた。
六花を突き飛ばし、もろに水爆銃を食らう。
当たった瞬間に胸に響く、爆発音。
「ガハハハ!夏休みバンザーイ!!」
勝ち誇ったように笑うカムバックの声と、
「若葉くん!?しっかり!!」
余裕のない六花の声が耳に届く。
「トドメだぁー!!くたばれー!」
カムバックが二人に水爆銃を放った。
「……ま、初陣にしちゃ上出来だな」
「後は僕らに任せて」
そんな声が聞こえ、若葉と六花の隣をふたつの影がすり抜けた。
「ボウエイシールド!」
泉のソードが盾の形に変形し、水爆銃の攻撃を弾き飛ばす。
次の瞬間——
「クロスブレイク!!」
昴と泉の斬撃がX字に交わり、爆光が弾ける。
カムバックの断末魔が空に吸い込まれて消えた。
「お二人とも大丈夫ですか?」
変身を解除した千代が若葉と六花に駆け寄る。
若葉達も変身を解いた。
全身に痛みは残るものの、傷もアザもひとつも残っていない。
「ボウエイスーツ、すご…」
アザどころか、骨折していてもおかしくないと思っていたのに。
やや遅れて昴と泉が戻ってくる。
「いや〜若葉と六花が削ってくれたおかげで楽勝だったわー」
「そうそう。僕らだけじゃ無理だったなぁ」
白々しい演技に、千代は小さくため息をつく。
六花は目を輝かせて叫んだ。
「すごい!先輩達、かっこいい〜!!あたしたちも頑張ろうね、若葉くん!」
「……はぁ。無理だろ。次元が違いすぎ」
二人の一閃で爆発するヤムヤムの姿が目に焼き付いている。
追いつきたいと思えないほど、その背中は遠かった。
こうして、新体制の学園戦隊ボウエイジャー達の戦いの日々が幕を開けたのだった。




