第13話:【一月】ヒーローの真実(前編)
新年を迎えたばかりの叡徳高校。
凍りつくような空気の中、校舎の屋上からたくさんの何かが舞い落ちてきた。
——白い紙。
「なにこれ……?」
通りかかった生徒がそのうちの一枚を拾い上げる。
大きな見出しで、黒々とした文字が踊っていた。
『スクープ!知られざるあの人の秘密!!』
「え、山田と奈々美って付き合ってたの!?」
「見て、これ!教頭がカツラって書いてあるんだけど!マジ!?」
「ちょっ……こっちの、ミスコン出てた人じゃん。『中学のとき100kg超え』って……この写真本物?」
ざわめきが一気に広がる。
手にした紙は次々と友人へと回され、瞬く間に学校中に噂がばら撒かれていった。
屋上では、人影が不気味に笑っていた。
「フハハハ!俺様の名は、ヤムヤム・ゴーガイ!スクープをばら撒き、世の中をひっくり返すモンスターだ!」
ストレスが波のように校内を覆っていく。
書かれた本人の心を抉り、そうでない者も「次は自分かもしれない」と不安を煽られていく。
「新年早々、えっぐいの出てきましたね」
若葉が顔をしかめた。
「この時期は受験ストレスが溜まるから、他人を蹴落とすヤムヤムが出やすいんだよね」
泉が冷静に分析する。
「俺らも来年は他人事じゃねぇな」
昴がため息をついた。
ボウエイウォッチは紙が降り注ぐ屋上を示している。
「屋上です。急ぎましょう」
千代が短く言い切る。
「よし、行くぞ!」
昴が号令をかけ、一同は走り出した。
屋上に駆け上がった瞬間、空気はさらに重苦しく淀んでいた。
校内から溢れ出したストレスが、ゴーガイの体に吸収されていく。
「来たな、ボウエイジャー!」
ヤムヤム・ゴーガイが札束のように号外を取り出し、にやりと笑う。
「お前らの秘密もあるぞ。これだ!!」
「それっ!」
ばさばさと紙が風に舞い校内へ降り注いだ。
昴の手に落ちた一枚。そこに書かれていた見出しは——
『ヒーローの裏の顔』
昴は息を飲む。
——赤塚昴はヒーロー失格である。
中学三年生の時に暴力事件を起こして停学。合格していた私立難関高校入学を取り消される。
知り合いの理事長の計らいで、叡徳高校に特別に入学した。
若葉は目を丸くした。
(……これ、聞いたことある……)
暴力事件。裏口入学。
部長が強くて怖いから、誰かが面白がって広めてる噂だと思っていた。
「残念ながら、この号外はすべて事実だ!」
ゴーガイが高らかに宣言する。
「まぁ、読者は事実かどうかなど、気にしないだろうがな!人は面白いものを信じる!」
勝ち誇ったように笑った。
「例え俺様を倒しても、世間は忘れん!ボウエイレッドを、いつまで名乗れるかなぁ!?」
六花が息を呑み、千代と泉が思わず昴を見る。
昴は、何も言わなかった。
冷たい表情で、手にした号外を見下ろしている。
「昴先輩……?」
初めて見る昴の表情に、六花の声が揺れた。
「……過去ってのは、消えないもんだな」
低くつぶやいたその声は、どこか乾いていた。
「それって……」
若葉が問い返すが、昴は答えない。
次の瞬間、ボウエイレッドに変身した昴がソードを抜き放ち、真っ向からヤムヤムに斬りかかった。
「ははは!ストレスまみれの攻撃だ!俺様を強くしてどうする!」
ゴーガイの一撃に弾き飛ばされ、昴は地面を転がる。
「部長!」
「昴先輩!」
六花と若葉が駆け寄る。
だが昴はよろめきながら立ち上がり、無理やり前に出た。
「まだだ……!」
だが、その剣はまたもはじき返され、吹っ飛ばされる。
普段の昴にはありえない光景に、若葉と六花は言葉を失った。
敵は余裕の笑みを浮かべたまま、白紙の紙束を掲げる。
「今日はここまでにしてやる!まだまだ号外のネタはある!当分貴様らのストレスで楽しませてもらおう!」
大きく笑い、ゴーガイはストレスの霧とともに姿を消した。
屋上に残されたのは、敗北感と——沈黙する昴の姿だった。




