第11話:【十二月】クリスマスベル(前編)
教室にキラキラと星の光が降り注いだ。
肩にふれた瞬間、ぱっと視界が光に包まれる。
千代が周囲を見渡すと、クラスメイトたちが子供の姿に変わっていた。
「え?」
自分の目線も低い。見下ろすと、いつもの制服ではなく白いブラウスに緑のチェックのスカート。
クラスメイトたちの服も白と緑と赤を基調とした服へと変わっていた。
(クリスマスっぽい服……?)
ボウエイウォッチのアラームが鳴った。
ヤムヤム発生。
点滅している場所は、防衛部の部室だった。
「部室?」
千代は目を瞬かせた。
部室に向かうと、ドアの前に赤いふわふわのワンピースを着た六花が立っていた。
小学1年生くらいだろう。
六花より目線が高いので、自分はおそらく小学2〜3年生だろう、と千代は思った。
そして、六花は同じくらいの背丈の小さなモンスターと手を繋いでいた。
緑と白の縞々の体に、赤いサンタの上着を被っている。
頭にはパーティ帽子、首にはリボンのついた鈴を身につけていた。
「ヤムヤム、ですか……?」
千代が問いかけると、モンスターはにっこり笑った。
「ぼくの名前はベルボッチ!一人が寂しくて寂しくて、みんなで遊びたくて来たんだよっ。ねぇ、おねーちゃんも遊ぼう?」
差し出された小さな手を、思わず握らされてしまう。
「どうしていいか分からなくて、連れて来ちゃいました」
六花が小声で言った。
「……クリスマスぼっちの寂しさから生まれたモンスター、というわけですか」
ベルボッチは二人の手をぶんぶん振った。
「クリスマスにぼっちなんて嫌だよっ!寂しいのなんて大っ嫌い!ねっ、みんなでパーティしようよっ!」
「とりあえず、中で話を聞きます」
千代は部室のドアを開け、そのまま何事もなかったかのようにそっと閉め直した。
「先輩?」
六花が不思議そうに見上げる。
「すみません。直視したくない現実があったので……」
そのまま現実逃避をしたかったが、部室のドアは中から勢いよく開いた。
「せんぱいっ!それってヤムヤムですよね!だいじょうぶなんですかっ!?」
元気な声とともに飛び出してきたのは、幼児姿の若葉だ。……推定5歳。
「若葉くん、可愛い〜っっ!」
六花の瞳がきらきらと輝く。
「ねぇねぇ、君も遊ぼっ!ぼくはベルボッチだよ!」
若葉の手を取ってぶんぶん振るベルボッチ。
「えっ、えっ!?な、なんすかこれ!?」
混乱する若葉。
「ふれんどりーな、やむやむだねぇ」
すると、部屋の奥からおっとりした幼い声が割って入った。
長いまつ毛、ふんわりした髪の、それはそれは愛くるしい幼児(推定3歳)が立っている。
「泉先輩!?きゃーっ可愛すぎます〜っ!!」
六花が叫ぶ。
さらに向こうには、サンタクロース風の服を着た1歳児姿の昴があった。
千代と目が合った瞬間、ぷいと視線を逸らしてため息をついた。
千代はその光景を見て、悟る。
このヤムヤムと戦う、という選択肢がないことを。
「ベルボッチ。あなたの望みは、みんなでパーティをすることですね?」
「うん!みんなで楽しく過ごしたいんだぁっ!」
「……分かりました。叶えましょう」
寂しさから生まれたヤムヤムなら、願いが満たされれば浄化するかもしれない。
少なくとも攻撃はされないだろう。
今日さえやり過ごせば、クリスマスも終わる。
「六花さん、買い出しに行っても大丈夫ですか?」
「はいっ!ベルちゃんはあたしと飾りつけしようね!」
「うん!するする!」
ベルボッチと手を繋ぎ、部室を出ていく六花に尊敬の眼差しで見送った。
六花が小学生だったことに、千代は心から感謝した。六花まで乳幼児になっていたら、詰んでいた。
「おれ、かいものてつだいます!」
若葉が勢いよく手を挙げたが、千代は首を振った。
若葉は他のメンバーよりはまだ動ける。
「念のため、若葉さんは六花さんの側にいてください」
それならヤムヤムと過ごす六花のそばにいてもらった方が心強い。
「じゃあ、ぼくがいこうか?」
可愛らしい声で足元から提案が聞こえる。
はじめてのおつかいですか?
と、言いかけた言葉を千代は飲み込んだ。
3歳児を連れての買い出しはむしろ手間が増えるが、中身は泉だ。
荷物持ちは無理でも、いてくれれば助かるかもしれない。
迷っていると、
「ちよちゃん、ぱーてぃのかいだし、とくい?」
おっとりした声が胸を突いた。
得意だったら迷うことなく断っていたが、千代はパーティというものに縁がなかった。
何をどれだけ用意するべきか、検討もつかない。
千代は観念した。3歳児だろうと、泉がいてくれた方が助かる。
「……分かりました。お願いします」
「うん、いこっか」
にっこりと泉が微笑んだ。
二人で並んで商店街を歩く。千代は袋を抱えながらぽつりとこぼした。
「こういう行事は向いてないんです。……ずっと一人が好きだったから」
それがこんなところで仇になるとは思わなかった。
泉は静かに微笑んだ。
「しってるよ」
泉とは中学のときからの付き合いだ。千代がいつも好んで一人でいたことを泉は知っている。
千代は袋を見下ろし、肩をすくめる。
「……パーティなんて、何をすればいいんでしょう。正直、気が重いです」
「いっしょにかんがえよ?ちよちゃんはいやかもしれないけど…ぼくは、ぼうえいぶのみんなとパーティできてうれしい」
泉が天使のように愛らしく笑う。
千代もつられて、少しだけ口元を緩めた。




