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第72話 王の試練 その1

 出迎えたネーベルさんはリアナを認めると、まるで時間が止まったかのように凍り付いた。

シルバナくんも彼女を認めると、その表情に緊張の色が濃く走る。


唯一まだあまりそういう事に不慣れなエーリスがまっすぐとリアナを見つめている。

面白いのは、緊張は見て取れるのだが、それ以上に何かを感じ、それを確かめるように小首をちょっとだけ傾げたり自分の手をちらりと見たりしていることだ。

エーリスがそうしている意味は、なんとなく分かる。

後で何を感じていたのか聞いてみようと思う。


「お初にお目にかかる。()が、リヴェリナ国使節団代表。

メルフィス=レッドフォルテ伯爵である。」


 お前、マジか。

横目でリアナの様子を見るが、まさかのリヴェリアス(リヴェリナ女王)の表情と空気を纏ったまま挨拶を交わしている。

隠すっていっただろうに、何てやつだ。


 リアナは軽く視線を巡らせ、ミリアルデ家の面々の顔を順に確認する。

そしてシルバナくんを見つけると、無言のまま、まっすぐ彼の前へ歩み出た。

エフィ団長も一歩後ろから静かに付き従う。


 ……多分これ僕のせいだな。

ミリアルデ家次期当主に対して見どころがあるなんて言ってしまったものだから、彼女なりに試しにきている。


シルバナくんが。

ミリアルデ家の次期当主が。

……アリヴィエの「貴族」の質が、どの程度のものであるかを計ろうとしている。


あの時話していた、「私は気に入っても、リヴェリアスが評価する」という言葉通りに。


 シルバナくんがちらりと僕に視線を送る。

だが、僕は目を伏せるだけだ。

リアナの試しなら、申し訳ないが僕は肩入れできない。

彼もそれを悟ったのか、ほんの一瞬だけ考え、動いた。


「……遠いところから、ようこそおいでくださいました。レッドフォルテ伯。

私は、ヴァルエルナ領を治めておりますミリアルデ家の次期当主。

シルバナ=ミリアルデと申します。」


 そういって、彼は片膝をついて跪き、右手を胸に当てて深く礼をする。

言葉は柔らかく、親愛をこめて。

しかし、その例は「高貴なるもの」に捧げる最敬礼をもって。

これをもって彼は答えを示した。

リアナは、わずかに眉を上げる。


「ミリアルデよ。余は伯爵だ。

リヴェリナという後ろ盾はあるが、階級としては貴公と変わらぬ。

それにしては随分と堅苦しい挨拶ではないか?」


「大国リヴェリナの伯爵様と、我が国の伯爵を同列に語り、同じであると無恥を晒すわけにはいきませぬ。

何より、本質は嘘をつかないものです。

貴人は平服を着ようとも、尊さを失わない。

例え伯爵様を名乗る方であってもです。」


 ごくりと唾を飲みこむ音と、額から流れる汗。

緊張が伝わってくる。

だが、目はそらさない。


「何より、私自身はまだ伯ではありません。

名代を名乗り、向き合う許可はあれど、この身にあるのはただのミリアルデの(せがれ)にという肩書のみ。

なればこそレッドフォルテ伯においては、この礼を持って迎えるべきと思いました。」


 シルバナくんはそれでも堂々と渡り合った。

リアナの意志を尊重し、王ではなくレッドフォルテ伯爵を相手にする言葉で。


しかし礼は敬をもって。

そのちぐはぐな対応の理由に、自身がまだ伯爵ですらないことを示す。


 つまり、


「あなたが誰であれ、僕はあなたを理解し、あなたの望む形で応えます」


 そう示したのだ。


「……なるほど。賢者殿が褒めるわけだ。」


 そう言って、リアナは手を差し出す。

おいおい、本気か。

うわぁ、エフィ団長の頬が引きつっている。


シルバナくんは、一瞬戸惑ったようだが、自分が示したあなたの望む形で応えるという言葉を飲みこむわけにもいかないだろう。

恭しく、しかし確かに手を取って微笑む。


「ヴァルエルナにようこそ、レッドフォルテ伯。歓迎いたします。」


「ああ、私のことはメルフィスと呼びたまえ、シルバナくん。

おっと、いきなりくん付けはなれなれしかったかな?」


「では、メルフィス様と。

私のことはシルバナでかまいません。

屋敷にて軽食を用意しております。

リヴェリナの麦酒もアルトゥス様がご用意してくださったんですよ。」


「ほう、賢者殿が。それは楽しみだ。

……エフィリス、騎士団はしばらく暇を出せ。

ヴァルエルナは穏やかな領と聞いている。

休暇を与えてやれ。」


「はっ。ありがとうございます。

……ルッテ、全員に連絡。」


 そういって、エフィ団長は後ろの騎士に耳打ちする。

聞こえてきたのは「現地兵と連携を」との指示。


言葉通りの休暇ではなく、第一種配備から第二種へ、警戒態勢のランクダウン ってところだろう。

もちろん数名は交代で本当に休憩をとりながらだろうが、あくまでも王の安全を確保した上での休暇だ。


ルッテと呼ばれた騎士は、僕と目が合うと、一礼して下がっていった。

なるほど、屋敷内での出来事についてはエフィと僕に信任されたといったところかな。


エフィ団長の顔からは、頼むから穏便に願いますよと王への懇願が込められているようであった。

いつも大変だね、エフィは。


 シルバナくんに連れられて屋敷内に入ろうとすると、ネーベルさんの視線が突き刺さる。

無言であるが、明らかに書いてある。

どういうことですか?と。


……うーん、そうだよね。

なんの説明もなしにいきなりリヴェリナの王様とご対面だもんね。

サリティさん達護衛班にも事情を軽く説明しておきたいし、一旦外すか。


僕がそう思案していると、リアナがふいに振り返り、僕と目が合った。

彼女は僕にしか見えないように口端を軽く上げると、やれやれと言いたげに言う。


「シルバナくん。

軽食の前に、身綺麗にしてかまわないか?

旅疲れもしているしな。」


「これは配慮が足りませんで。

申し訳ありません。

部屋を用意いたしますので、そちらでお休みください。」


「何、こちらも急な訪問だったからな。

気を遣わせてすまぬ。


……そうさな、1刻……いや、2刻もあれば食欲も湧くだろう。」


 チラリと僕を見ながら言うんじゃないよ。

シルバナくんからも視線が飛んできている。

みんな僕に頼りすぎだよ。


――いや、これもしかして僕に対して抗議する時間も含んでいるのか?

その辺り込みで2刻は必要だろうってこと?

抗議の原因がそこに気を配ってくれてるわけだ、ハッハッハ。


……マジで覚えてろよ。


 僕は心の中で盛大にためいきをつきながら無言で首肯する。

シルバナくんはそれを見てから言葉を繋げる。


「では、軽食会は取りやめ、お部屋にお持ちいたしますね。

夕食にて歓談と致しましょう。」


「ああ、頼む。

アルトゥス、温めて飲める麦酒を頼むよ。

甘くて濃いやつだ。」


「……ええ、承りました。後ほどお部屋にお持ちします。」


 そういってメイドさんに案内されてリアナとエフィ団長は去っていった。

見送る僕らは取り残され……案の定、詰め寄られる。

主に凄い表情のネーベルさんから。


「アルトゥス様、ご説明をっ!」


 はい、そうですよね。

リヴェリナの使節団を迎えにいったら陛下連れて帰ってきたんですものね。

そりゃ、説明求められても仕方ありません。


僕はネーベルさんに半ば引きずられるようにしながら別室に向かった。

途中、メイドさんに温めて飲める麦酒の銘柄と温め方を教え、リアナに持ってかせることを言伝するのを忘れずに。


 弁明も何もないんだけど、少なくとも事情をみんなに説明する機会が必要だったのは間違いないしね。

でも、メイド長や執事長など、ミリアルデ家のトップ層みんな集める必要はなかったんじゃないかな!?


「何いってるんですか!?

私がミリアルデ家に嫁いできて以来、1番の危機ですよ!?」


 ネーベルさんの声が震えている。

怒りか、恐怖か、あるいはその両方か。


その反応が大袈裟とも言い切れない人物、

リヴェリナ国王、ラセルエア=リアナ=リヴェリアス。


彼女の来訪により、いつもは静かなミリアルデ家の忙しい日々が始まる。

その忙しさは、騒ぎを起こす元凶にとってなんとも愉快な日々になろうことは……


多分、この時点で予想していたのは僕だけだったんじゃないかな?

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