第65話 ミリアルデの姫君、三度
「よし、こんなもんにしておくか。」
「……むう。アレスト、連携が悪い。
絶対最後タイミング合わせれば蹴りが入ってた。日和すぎ。」
「……即席であれだけ合わせたんだから褒めて欲しいっすよ。
後、あそこで姐さんがツッコむほうが無謀っす。
はあ……2人がかりで手も足も出ないとか、マジなんなんっすか。
バケモノっすよ、バケモノ。」
しゃがみ込むサリティさんがアレストくんに文句をいい、それに対してアレストくんが大の字に倒れこみながらも言い返す。
こう聞くと二人の連携が悪いようにも聞こえるが、そうでもない。
即席とはいえ、波状攻撃に同時攻撃。
囮なって死角をつこうとしたり、上下左右の揺さぶりなど、工夫は見えた。
ただ、いろいろと課題は多い。
「サリティさん、相手が体勢を崩したらそこで勝負決めようとしすぎ。
2人なんだから相方に攻撃させやすい状況を維持する方向で嫌なところからの攻撃を継続することも大事だよ。
サリティさんはインファイト中心だから、密着しての戦闘が多すぎてアレストくんが攻撃できない時間が増えてたよ。
それは2対1の状況を有利に扱えてない。」
サリティさんへのフィードバックは簡単だ。
自分で決めないとという意識が強すぎて、突撃からの攻撃が独りよがりになりがちだ。
時に入れ替わるような戦い方の工夫もあったが、1対1が交互に発生しているだけになっていたんだ。
こうなると、ただ集中する相手を切り替えるだけでもう一人を警戒しなくていいだけになるのは実にもったいなかった。
同時に仕掛ける際も、そういう譲り合いになったのを改善してほしいところだね。
「アレストくん。
剣は太刀筋がどこから来るのか最初の構えで大体わかるんだから、構えたまま移動すんな。
下段の切り上げ振り切って斬り返しはワンパターンすぎる当たるわけないだろ。
あと、サリティさんの動き見すぎこっちみろ舐めんな。
合わせるだけじゃなくて合わせてもらえるように自己主張しろ。
丁寧に戦っているのが丸わかりであくびが出るわ。」
「なんか、俺にだけ評価辛辣だし言いすぎじゃないっすかねぇ!?」
「バカ野郎、まだあるぞ。
変則的な戦い方で正攻法が通じんならサリティさんの死角からサリティさんごと斬るくらいの意外性のある攻撃のひとつでも見せろ。
サリティさんに剣が当たらないか心配してたな?
そんな心配しなくても彼女なら避けるし意図を汲みとってくれる。
余計な躊躇すんな。
あと、途中こっちが積極的に動いて、お前の立ち位置が常にサリティさんの後ろになるようポジション取りした意味わかってる?
まあ、これは途中で戦い方を死角を狙う戦法に切り替えてたから意味は分かってると思って褒めておく。
ただ、狙いがダメだ。
馬鹿正直に背後だけ狙ってどうする。
状況見ながら戦える余力ある格上が背後なんてとらせるわけないだろ。
それから、攻撃は足とか手とか末端狙え。
怪我させるかもなんていらん躊躇いが感じられたぞ。
あと、随所に殺意のない太刀筋見えたぞフェイントのつもりか見え見えなんだよ。
それから――」
「いや、やっぱ辛辣すぎません!?」
ちょっと舐められているかもって感じたから指導いれてるんだよ。
実際、こっちを気遣うような太刀筋で、手足を斬り飛ばすような気迫が籠ってなかった。
もちろん、技術的な視点から見るアレストくんの戦い方は悪くない。
剣筋は洗練されていて綺麗。
お手本のようなお作法がある戦い方だ。
が、乱戦において型に沿った綺麗な戦い方なんてそうそう通じやしないんだ。
こっちに本気を出させるように予想外の一撃を見舞ってやらなきゃ意表はつけない。
その点、型がほとんどないサリティさんの攻撃のほうがよっぽどいやらしかった。
攻撃を上下に振るだけでなく、ひたすらに上半身だけを狙った攻撃とかで下半身への注意が疎かになるよう意識付けを行おうとしてきたし、何より一撃一撃にぶち壊すような気迫が籠った攻撃が打ち込まれていたのがわかったしね。
「ん、アレスト。
アルトゥス様に気遣いはいらない。
ガルデス隊長に対して手加減マックスで稽古つけるほどの達人。
むしろ、こっちは殺意を込めないと舐められていると判断してどんどん厳しくなる。」
「……【鬼神】ガルデスに手加減……?」
アレストくんはサリティさんに対して冗談でしょという目線を向けるが、サリティさんの表情は一切揺れない。
その無表情を見た瞬間、アレストくんは顔を覆った。
「……この人に護衛とかいらんでしょ……。」
「頑張れ、アレスト。
私はアルトゥス様のところまで到達したい。
でも、諦めるなら私が剣を引き継いでもいい。」
「――それは、お断りっす。捧げた剣は、俺の全てっすから。」
普段のおどけた喋り方に対して、とても真剣な表情と口調でそういった。
彼なりの本気というのは伝わってきて、なんだか気恥ずかしくなる。
「立派な決意はいいけど、あのガルデスくんすら僕を殺すつもりで立ち向かってきたってこと忘れないようにね。
次舐めた攻撃してきたら容赦なく反撃するからねー。
ベッドで生活したくなかったら、死ぬ気で挑んでくるように。」
「姐さん、あの人おかしいんじゃないっすかね!?」
「知ってて剣を捧げたのかと思った。」
ちょっとだけ照れ隠しを込めた追撃と、サリティさんの追撃が、アレストくんのメンタルにクリティカルヒットしたらしい。
再度アレストくんの真顔が砕け散った。
というか、サリティさんは、僕がおかしいということに対してフォローしてくださいね。
いやまあ、おかしいというのは否定しないけど。
時間というズルはしてるし、彼らの基準では測れないのは事実だ。
でも、こんな僕に対して従者を買って出るんだから、期待はしている。
ボロクソに言っているように見えたかもしれないけれど、同時にこれくらいできるだろうなというポテンシャルは感じているからね。
彼への課題は多くあっていいものだ。
一気に全部をできるようになってもらう気はないし、少しずつ理解してもらえればいい。
ということで、アレストくんへの教育はこれにて終了した。
2人も互いの力量を把握しただろうし、次に手合わせしても、やりすぎる前に止まれるようになるはずだ。
「先生~!」
一仕事終えたなと地面に座り込むと、ミリアルデ家の屋敷から少女が駆け寄ってきた。
ご存じ、エーリスである。お出迎えしに来た時のドレス姿ではなく、エルフの戦闘服に似せた運動着を着ている。
もちろん、僕からのプレゼントだ。
暇を見て彼女用に仕立てていたんだよね。
どうやら相当気に入ってくれたらしく、早くも2着目以降を催促されている。
まあ、成長期でもあるだろうから、サイズを少しずつ上げながら作り続けてあげようと思う。
「先生!凄かったですわー!
あんないっぱい攻撃されていたのに、汗ひとつかかずにあしらっていて、流石ですわ!」
うん。褒めてくれるのはありがたいけれど、あしらった二人がまだいるんだから言葉には気をつけようね、エーリス。
ほら、サリティさんがちょっと頬を膨らませてる。
アレストくんに至っては、再度地面に倒れこんだままピクリとも動かなくなってしまった。
そもそも、僕はエルフなんだから汗はかかないものなんだよ。
身体の構造の仕組みが違うんだから。
まあ、発汗作用が備わったとしても、アレストくん相手なら汗かかずにあしらえるかな。
「すっげー失礼なこと考えましたよね?」
悔しいなら、大の字で伸びているのを何とかしてね。
「ありがとう、エーリス。僕の作った服はどうだい?窮屈じゃないかい?」
「んー、むなもとが少々きついかもですわ!
でも、心配いりませんわ!
それ以外はぴったりで、私せんようって感じですの!
すてきですの!」
「サリティさん、これ服の素材が伸縮性あって身体にフィットするからであって、エーリスのサイズを自己申告させて作ったわけじゃないからね!
そんな目でみないで!」
離れていた間にどうやって採寸したんだ?まさか……という大変不名誉な勘繰りの視線を感じたので、ちゃんと弁明しておく。
身長は聞いたけど、流石にサイズ聞くほどデリカシー終わってないわ!
なにより、聞いたとしてもエーリスはまだ子供だぞ。
そんな視線をぶつけられるほど変なことしてないじゃないか。
エーリスは褒めて欲しいのか、僕の前でくるくる回っている。
うん、問題なく着こなせているね。
この伸縮性のある素材は、リヴェリナの湿地帯でとれた植物を研究して作った布を利用したものだ。
エルフの森で使用されていた木の皮と同じく、伸び縮みして肌触りが良かったから、溶剤で溶かして繊維を作って布地に仕立ててみたものだ。
想定していた以上に生地が柔らかくて光沢のある布地になったんだよね。
まあ、ゴムくらいぴっちりボディラインに沿うものではないのと頑丈さが通常の植物布ほどで、戦闘服としては微妙なんだけど。
普段着扱いならかなり使い心地がよさそうなんだ。
そのうちリヴェリナからの輸出品のひとつにしたいところだね。
「先生!エーリスの練習の成果をごらんくださいませ!」
エーリスの頭を撫でながら、僕がそんなことを考えていると、エーリスがそう言って張り切り始めた。
「せーの、はいっ!」
ぽわっとエーリスのアイズが回転をはじめ、身体をかけぬけている。
末端までみっちりとした回転力ではない。
しかし、その回転の維持は安定し、エーリスの身体がそっと強化されていることが伝わってきた。
「なっ!?」
その様子をなんとなく見ていたサリティさんの眼が丸くなった。
流石、これができることの凄さというのをよく知っている。
しかも、エーリスはアイズの回転を維持するコツをつかんでいるようだ。
「で、こうです!」
ん?ちょっと、エーリスさん?
何をなさるおつもりです?
「てぇやっ!」
エーリスは身体の中心で生み出しているその回転の軸を、右の掌に移動させた。
淡い麦穂の輝きが、右手に集中している。
え?なにしてんのこの子ってば。
驚きをよそに、少しの間光り輝くエーリスの右手の光が、どんどん小さくなって、やがて消えた。
「……ぷはぁ!
やっぱり先生の【励起】みたいに光らせるのは、まだまだこれが精いっぱいです。
先生、どうでしたか?」
……うん。
教えてないアイズの【移動】と【収束】を自主的に編み出したみたいだね。
驚きだね。
しかし、それを今披露するのはちょっとまずいかな?
「……ちょっと、アルトゥス様。話がある。」
あ、やっぱりね!サリティさんの目が怖いね!
違うんです、サリティさん!
この子が天才なだけなんです!
私が教えたわけじゃないんですよ!




