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進路

 作戦決行のブリーフィング前にタチアナとエレンは顔を合わせた。


「今回の仕事は殺し前提の非公式な汚れ仕事だってことわかってる認識でいいのよね?」


 タチアナの選択に齟齬がないように念を押す。


「はい、わかっています」


「理由は聞いても?」


 おそらく少年の顛末がきっかけに作戦へ参加をすることに決めたのだろうことは予想ができた。選択したきっかけはそれでもいいが、その上で参加する明確な理由が必要で、かつ、内容を判断するからだ。


 一番重要なのは迷いを捨てれたかだ。


「人身売買の被害者を少しでもはやく救いたいからです」


 タチアナは望む社会復帰よりも出来ることをする選択を示した。


「前回殺し抜きをこなして、社会復帰の為の判断材料になったのがなくなるよ?」


「それは命令だったからです。なければ尋問用に残す人以外殺してます。それにスプーナー少佐とも殺し合いになってます」


 中古車ヤードの工場での仕事は、保護団体や行政関係者に極力波風を立てないように違法行為の摘発として決着をつける必要があった。それと共に誰も死ななかったことは、簡単に殺人を選択に入れるタチアナに対して名誉挽回する意味もあった。


「ターニャは危険な犯罪者であっても極力生かす方針は相性が悪いしね。人を傷つける目的の凶器を持った不審者が目の前にいたら、殺さずに取り押さえれるとしても機械的に殺しを選択するでしょうね」


「そうです。治安がよく、そんなことが起きにくいこの国なら人を殺さなくて済むと思いました」


「だけど、運悪く事件に巻き込まれた」


「はい、こんな問題のある私が同じような問題を持つ子たちが社会復帰できる前例になり、社会復帰の支援がしたかった」


 何度もタチアナがエレンに話している内容である。


「母さんみたいに暴力抜きで子どもたちを笑顔にしたかったのでしょう?あなたの選択はそれが遠いものになる」


 ふぅーとひと息をいれてエレンは続けて問う。


「前回も子どもたちの為と言ったけど、今回も同じじゃない?別にそれが悪いって訳じゃない。子どもたちを理由にした事情がなんであれ出来ることしないのであれば話にならない。だけど、人の為を理由にし続けるのに迷いを持って動き続けるのはいつか限界が来て破綻する。それについては?」


「それでもやれる事をしたい」


「私が少年を救えなかったことがきっかけか?」


「例えば、救えなかったことでも…もしこうしてたらや動けなかったとかではなくてそもそも行動しないような選択はしたくない」


「結果的に救えなければ自己満足になるけど?」


「それでも、行動した上で後悔して、行動した責任を背負っていきたい。行動せず、責任を放棄したくない」



「わかった。だけど、背負っても引きずるな。しつこく言ってるけど、それだけは意識しなさい。じゃないと死者に引っ張られる。社会復帰は遠のくけど、最後に今後どうするかを教えて」


「…」


 タチアナの迷いは完全になくなった訳ではない。暴力で苦しむ人々の為に行動し、笑顔を取り戻す為に行動したあの人は暴力によって奪われた。そして、暴力を振るう事を学んでしまった子たちの受け皿を作った先代も殺された。恩人二人を殺された憎悪と同時に繰り返される暴力に取り憑かれる恐れがあった。好きで殺しをしている訳ではないのは心から断言できる。しかし、絶え間のなく湧く復讐心があった。それは彼女だけではなかったが、幸い、何があっても復讐するなとボスが死ぬ前に組織全体に命令を出し、もっとも復讐したいはずのエレンが強く止めていたのがかろうじてブレーキになっていた。


 暴力による嫌悪と自然かつ機械的に暴力を選択してしまう自分。そのジレンマにもがくように暴力のある環境から離れて、安全と言われる日本で社会復帰を目指した。


 だが、現実は厳しいものだった。


「民間警察の立場から一般社会を勉強します。ボスが前言ったように暴力を捨て社会に馴染めるように」


「矛盾するようだけど、ときには身を守る為に暴力が必要になるときがあるかもしれない。完全になくすのは難しくても、やり過ぎてはいけない。殺しなんてもってのほかだから…だけど、今回の作戦に参加してそれができるの?」


「もし、作戦後の様子次第で隊に戻す判断をしてください。ひどければ、処分をお願いします」


「あくまで救出が目的である状況で、邪魔者を排除する本作戦に関わった結果で進退の判断と…」


「はい、覚悟は出来ています。ただ、自分はどうなろうとも被害者を助け出します。その為に行動します。それは絶対です」


「そこまで言うなら、私も責任を持つ。だから、悔いが残らないよう」


 エレンも組織を抜け、社会復帰をする為に惜しみなく支援をしたいと考えている。暴力がなくならない世界ではあるが少しでも抜け出せる人が増えれば多少はましな世の中になるだろう。


 民間警察に戻ったら、門蔵と関わるだろうが、殺しは抜きで拒否もできるよう対等になる条件で交渉してある。あっさり通ったのに不気味さを感じたが、お互いに不義を働けない誓約なので問題はないだろう。


 しかし、どんな理由であれ今から人を殺させるという矛盾を抱えることにやるせなさを感じずにはいられなかった。



 




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