大仕事の準備
今日の仕事はこれで終わりだが、大仕事の始まりになる。例の工場の一件は編集こみだが、コップカメラの映像を提出して、公的な対応を終えた。フルオートショットガンを乱射するなんちゃって女学生を例に一部のやり取りは編集済みである。ジェーン自体が秘匿対象ではある上、どのみち隠蔽こみの仕事ではあった。
最後の仕事は、これまでの情報からいよいよ人身売買組織への攻撃に移ることへの協議である。
協議場所は、タチアナがきっかけとなりエレンが手を組むこととなった政治家。別邸の一つだ。
仕事上、要人や富豪といったVIPの豪邸に出入りしている為か見慣れた内装に感じた。依頼人だったり、ターゲットととして踏み込んだりしたときに見たような。
「お早い、再会になりましたね。門蔵議員」
与党に属する大物政治家。裏社会との大きなパイプを持ち、裏で汚れ仕事を行う大きな力を持っている。しかし、与党とは言え一枚岩でなく同じ党内でも魑魅魍魎の権力闘争が行われている。公的な警察に強い影響力を持つ勢力に対して、刺激しないように取り計らう必要がある為、あまり裏で動き過ぎると面倒なことになる。隠蔽の見返りに公的な警察が犯罪組織から逃亡した被害者の少年少女を保護し凶悪な犯罪組織を摘発したという筋書きである。
多少強引だろうが、マスコミが面白がって脚色されて誇張されるだろうから問題ないだろう。
「本来なら馴染みの料亭でもてなしたかったのだが、申し訳ない」
ソファーに座る門蔵の側に控える数人の護衛に一人見たことのある顔があった。土木建築会社の豪邸を襲撃の件にジェーンと共にいた青年だ。
「いえ、ここで話し合った方が安全なようですね」
「その通りだ。中立地帯の次に安全だと自負している」
中立地帯での会議は安全過ぎて重要でありながらある程度オープンな内容でないと変な勘繰りを受けて、外で危害を受けるリスクがある。中立地帯が使われる例として裏社会において大きな勢力どうしが協定を結ぶといったことだ。なお、門蔵とエレンの繋がりは中立地帯で行い、汚れ仕事を行う為に手を結んだと同党勢力内では根回し済みである。
「お名前はエッツィさんでしたか?部下が世話になりました」
青年に視点を移し、頭を下げる。
「いえ、こちらこそ作戦のご協力感謝致します」
表には出さなかったが、エッツィは面を食らっていた。彼女の苛烈さに聞き覚えがある。相手がどんな身分で立場だろうが敵であるならば徹底的に食らいつき、あらゆる手段で証拠を抑え、大義名分を得た上でその人物をその業界が切り捨てざるおえない状況に追い込むからだ。
傭兵集団の頭として狼の女王と恐れられるとは思えない雰囲気を纏っている。冷静で理知的な若い女社長といった印象だ。トップに着く前は社内で選抜された精鋭部隊を率いて現場で活躍していたと聞くがギャップがすごかった。容姿は美女といっても差し支えなく、モデルでもやっていても不思議ではない為、傭兵ではなく美容関係の会社の社長の間違えではないかとさえ錯覚する。
「優秀な人材をお揃えのようでうらやましいです」
彼女は門蔵に視線を戻しながら言った。
「ああ、だから安心して話し合える。しかし、貴女がまさかお一人で来られるとは驚きました」
共闘関係にあるとはいえ、一組織のトップ。こちらに敵意がないのを差し引いても無防備すぎるだろう。
「襲われれば、それはそれで事が動きますから大丈夫ですよ」
襲われても返り討ちにするから、問題ない。その上、それすら利用する。エレンはそう言っているのだ。エッツィは改めて彼女が恐ろしいと思った。
「さて、本題に入るとしよう」
「ええ、まずは本命に辿り着けたということでよろしいですか」
「そうだ。今までは地道に足がかりを手に入れて後手にまわっていたがそれも終わり。権力者の半端な弱みを握ったところ、シラを切られるか揉み消されるで有効打にならない」
「実働隊は直接繋がっているハーメルン本体を攻め、顧客リストや関連資料等入手、被害者を保護を行うと」
「だが、その上で別に保護対象がいる。それはこちらでやっておこう。だがそちらにジェーンを貸し出す」
テーブルの資料を見る。最優先ターゲットとしてVIPと呼ばれる強化人間の少年が狙われているとのことだ。
その後、お互いの組織がする行動を細かく話し合って固める。
「予想外に展開が進みすぎて、人が少ないですが…」
エレンの組織の活動目的である子供の保護に対して、懸念事項を聞いた。
「あの強化人間の二人はどうします?」
「あちらの管轄にいる以上裏側のこちらが構うのを嫌がるだろうし、公的機関が守りを固めてはいるので問題ないだろう」
公的警察に影響力を持つ勢力が、裏社会側の人間がでしゃばるのを面白く思わないのだろう。前回の工場の摘発を譲ったようになんらかの手土産がいることになる。裏でなにかやるならこちらに筋を通せ、でなきゃ大人しくこそこそと汚れ仕事をしていればいいといったところか。一抹の不安を覚えるが、下手に干渉はできないようだ。
「一応、当事者という名目で面会に行っても?」
「それはかまわないだろうが目的は?」
「少し、今後どうしたいか確認しに。本人らの意思表示だけでも確認したいもので」
「刺激はしたくないが、そちらはそちらの譲れないものがあるのは承知している。何かあれば対応しよう」
「ありがとうございます」
「だが、気をつけてくれ。奴らは裏側の人間を見下し、自分らが正しいと美辞麗句並べて権力や不正を行う連中だ」
現状、民間警察の活躍の裏で、公的警察は存在意義が弱くなっており。公的警察に力がふるえる人物たちに焦りがあるだろう。
「心得ました。作戦決行に差し支えないようにしますのでご心配ならさらずに」
そして、話し合いはしばらく続いた。




