失敗した時に大切なこと
「そんなに顔色を悪くするなよ。大きい方も小さい方も漏らしそうだぜ」
どこかの事務所にて、目の前のスキンヘッドの男に応対する人物は冷や汗をかきながら震え上がっていた。ハーメルン傘下に入った日本で下働きをする末端組織のリーダーを任されている人物は取引先を潰され、損害を出し、さらに別件で裏切り者が商品を奪い逃亡した失態を犯していた。そして、奪われた取り戻す為にセーフハウスのツテも潰された。
「すみません、すみません、すみません…」
リーダーとはいえ下手を打てば、容易に使い捨てられるような末端も末端で、正規構成員すらない立場である。半グレや匿名・流動型犯罪グループのように明確な犯罪組織に属していないメンバーで構成されている。軍隊レベルといってもいい武力を持つハーメルンとは比べるまでもない差があり、そのボスがわざわざ訪ねてきたのだ。その状況に彼はガチガチと歯を鳴らし、恐怖で身体の震えが止まらないようだった。うわごとのように小声で謝罪を繰り返す。
「おまえさんが拾った呪われた子供の補助も兼ねて貸し続けた商品、アレだけでも取り戻して欲しいんだが…」
笛吹男が身を乗り出し笑顔で近づけ、肩をパンパン叩いた。思わず身体がビクンッと跳ねる、恐怖で返って悲鳴すらでない。
「しっかりしろよ。そんなに怖がるなって、故意にやった訳じゃないんだろ?ミスすれば注意されるのは当然だ。まあ、誰だってしたくてミスをするんじゃないからな。だけど、やってしまったのは仕方がない…」
笛吹男は威圧的な態度というより、失敗して怖がる部下を諭しているようだった。強化人間の少年の裏切りに商品の少女を奪われ、追いかけさせたがことごとく失敗した。男の恐ろしさは嫌という程知っている。無論故意に引き起こした事案ではない、故意に行なったことであればどうなるか考えなくないほど恐ろしい。だが、失態により切り捨てられもおかしくない状況に恐怖で萎縮してしまう。
「失敗して、大切なのは処理をどうするかと次に生かすことだ。わかるか?」
壊れたように何度も頷く。
「非正規でも部下は部下だ。オレの責任でもある。いいか?ともかくおまえらで商品を取り戻せ、後はそれからだ」
始終、優しげに語りかける笛吹男だが、それでも得体の知れない恐怖は拭いきれない。
彼らの組織で少年少女のいる病院を襲撃し、奪還することを指示される。さらには銃火器などの物質の支援まであるそうだ。
男は失敗を取り戻す為に、最終的には気合が入り、怯えてた時と打って変わって、最後は大声で挨拶していた。
車内で、部下は笛吹男に聞く。
「優しいですね。ボス」
「オレはいつだって優しいじゃないか、わざとでなければ失敗にはある程度寛容的だ。ある程度は」
葉巻を吸い、数秒無言で天井を見る。笛吹男のメンタルをリセットするルーティンだ。
「予定は狂ったが、そろそろあいつらは潮時だ。元々、スケープゴートにするなり、バラして在庫にする予定だった」
ため息をがでた。あの末端の連中だけではない山で薬物の栽培と酒池肉林を計画し、無様にとちった連中、自治区まがいな村もどきをつくりつつ巡り合わせが悪く終わった奴らのことを考える。
「使えないやつらだが、せいぜい最後まで働いてもらうさ。この国で人身売買を行った一連の事件の諸悪の根源であり、さらには病院を襲撃し卑劣な凶悪な犯罪組織になってもらう」
「なんの因果かこちらの対象のVIPも病院ですね」
「VIPの確保は最優先事項だ。それこそミスは許されん」
鉄クズ回収屋がいる情報が入っている。笛吹男としては最悪、強化人間二匹は惜しいが彼らには陽動としと奮闘してもらおうと考えていた。




