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終末の境界線  作者: 5ion
2章 過去の軌跡
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2章第28話 影の道を進む

 早朝の冷たい風が頬を撫でる。

 ソラとティナは静まり返った街の端にある小さなカラオケを訪れていた。ここは侵蝕区域ストレイの外縁部に位置している。

侵蝕区域は侵入が禁じられており、フェンスとドローンの監視が行われている。その物々しい雰囲気のすぐ脇にあるカラオケはまるで異物のように佇んでいる。

 寂れた見た目のその場所は朝早いこともあってか客の姿は見えない。というかそもそも営業しているのだろうか。


「入るわよ」


 ティナがカラオケを指差して言う。


「ここが?」


 ソラが怪訝な顔でティナを見る。


「そうよ。まあ、見てて」


 ティナはそう言って、迷わず自動ドアの前に立った。扉が開き、中から暖かい空気と甘ったるい香りが流れてくる。

 中は普通のカラオケ店だった。受付カウンターの奥には色あせた部屋の案内図があり、モニターに流れる曲名は一昔前のものでここの設備がしばらく更新されていないことを物語っている。

 客の姿は1人も見えない。代わりにスタッフと思われる2人の男がタバコを吸いながら談笑していた。きちっとした制服に身を包んでいるが露出された部位に見える傷跡が彼らがカタギでないことを伝えてくる。

 やがて、ティナの接近に気づいた2人のスタッフは姿勢と表情を正し、


「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」


と尋ねた。顔は笑顔だが目には冷たい光が宿っている。


「2名、フリータイムで」


「3000トークンになります」


 ティナは金属と樹脂でできたプレート、クレジットチップをカウンターに滑らせる。クレジットチップは物理的なチップに金の量のみが保存されたものだ。基本的に表では流通していない。クレジットチップの流れを追跡する手段がほとんど存在しないため、賄賂など表には出しずらいものの支払いに使われる。特にこういった表向きは普通の店を装う施設では、店の利益と分離するためにクレジットチップの利用がされているらしい。

 スタッフはクレジットチップに記された金額を見た後、彼女を品定めするような目線を向ける。


「お釣りはいらないわ」


 その言葉を聞いたスタッフがニヤリと笑う。


「2名、フリータイム……部屋番号1-20になります」


 そう言いながらカラオケ道具の代わりに2枚のコインを差し出した。そのコインは鍵のような溝と出っ張りが存在している。


「どうも」


 ティナはコインが渡されたことに一切疑問を持たずにそれを受け取った。


「行くわよ」


 ソラは部屋へ向かうティナへ続いた。

 ティナは迷いなく歩き、店の奥の奥にあるルーム1-20の前に立った。その扉は他のものと少しだけ違っており、小さな穴が空いていた。ティナがその穴にコインを入れる。

 少ししてロックが開く音がした。

 室内は一見して他のカラオケルームと大差なかった。壁には防音素材が張られ、テーブルとソファが設置されている。薄暗い照明と、壁に飾られたモニターにはミュージックビデオが流れていた。ただ、漂う空気にはどこか違和感があった。


「普通のカラオケルームって訳じゃないよな」


 ソラが確認の意味を込めて尋ねる。


「うん、ほらここ」


 ティナが床を指さす。床には何度も何かが引きずられたような跡があり、塗装が削れていた。そして、それはテーブルまで伸びている。

 ティナはテーブルを削られた痕跡に沿うように動かした。元々テーブルがあった床から金属製のハッチが現れる。彼女はそのハッチを開けて


「お先どうぞ」


と言う。

 ソラはその言葉に従い、真っ暗空間に飛び込む。続いてティナがその空間に足を踏み入れ、ライトでそこを照らした。冷たい光が暗闇を切り裂き、狭い地下トンネルがその姿を現した。壁は剥き出しの土で一定間隔で金属の支柱が打ち込まれている。天井には木材が打ち付けられている。地面には小石や割れた木材が落ちており、このトンネルの安全性に不安を感じざるを得ない。

 おそらくこのトンネルは侵蝕区域内部へと続いているのだろう。侵蝕区域ストレイはラヴェジャーや仕立て屋(シュナイダー)が多く活動するエリアだ。あのカラオケ店は、侵蝕区域の接近で立ち退いた後を使って一儲けを考えた人間が営業していたのだろう。


「この辺は警備が厳しいのか?」


 トンネルを進みながら、ソラが口を開いた。普通は最初にストレイに侵入した時のように警備のゆるい場所をついて侵蝕区域内部へ潜入する。しかし、今回はわざわざ他人が用意した侵入路を金を払って利用した。その理由が気になった。


「ストレイを対象にしたA.E.Rの定期調査が近い影響で警備が厳しくなってるの。だから今回は安全重視にしたのよ」


 ティナがそう解説してくれた。ほぼ全ての侵蝕区域はその危険度や侵蝕の進行を確認するため定期的な調査が行われる。その時期の侵蝕区域には多くの人員が割かれるため、結果として警備が厳重になるのだ。


 しばらく進むと、先の方にぼんやりとした灯りが見えた。

 そこにはランタンとその灯りに照らされる銀色の幕が見えた。


「ランタン? 何のために」


「“この先侵蝕区域”っていうサインよ」


 なるほど、謎の銀幕は侵蝕区域の境界だったのか。


「ここから先の案内は……」


 ティナがソラに視線を向ける。

 侵蝕区域内部の案内はソラ達、ラプターアイひいては仕立て屋(シュナイダー)の仕事だ。ソラは自信を持って


「僕らに任せて」


と言った。そして銀の幕を超え、侵蝕区域に入った。

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