2章第22話 埋もれた光
情報管理室を出た一行は研究所の奥を目指して歩いた。一切、人気のない室内を進み最奥へと辿り着いた。そこにあったのは壁に埋め込まれた巨大な装置だ。それからは無数に枝分かれする吸気用と排気用、2種類のダクトが伸びている。これは、建物全体にルイン結晶の粒子の混じっていない空気を送り込み、同時に侵蝕によって発生したルイン結晶の粒子を外へ送り出すそんな装置だ。
『ここの侵蝕エネルギーが少ない理由がわかったね』
吸排気装置を見たウミが呟く。侵蝕区域内ではまずルイン結晶が粒子として発生し、その密度が高まると結晶化する。そしてその結晶が持つ侵蝕エネルギーが世界を蝕む力となる。
あの装置はフィルターを使ってルイン粒子を空気から除去、侵蝕により内部に発生したルイン粒子を排出することで内部の侵蝕エネルギーを低く保つことができる。こうすることで、対侵蝕薬剤なしでも侵蝕症の対策をしていたのだ。前回来た時はまだ人がいたから装置が動作していたため侵蝕エネルギーが低かった。その後、人がいなくなり、装置が止まったため研究所内のエネルギー量が徐々に増えたのだろう。
この建物はやはり、侵蝕を前提に設計されている。
「この装置ってバカみたいに金がかかるやつじゃないか?」
『維持費も考えれば高級車が何台も買えるやつだね。……でもどうして、こんなものがある施設を放棄したんだろ』
ウミは説明の後、疑問の声を漏らした。うーん、と3人が悩む声。しばらくの沈黙。それを破ったのはティナだった。
「何か理由があるんでしょうけど、それは今重要じゃない」
「そうだね、とにかく手がかりを探さないと」
ソラも彼女の言葉に賛同する。
ソラの頭の中に制限時間のことが浮かんでいた。動ける期間は3日、ここでルークの足取りを掴まなければ、エマを助けられなくなる。そんな焦りの中、研究所を捜索する。
『ここ、何かありそう』
先行するリンクスが前足で扉を指す。ずらりと並ぶ扉の上には人の名前が刻まれている。被験体は数字で呼ばれていたことを考えると研究員かスタッフの個室だろう。ソラが警戒しながら扉を開く。
室内には清潔な白い壁紙に飾られたシンプルなものだった。小さなデスクの上には、乱雑に書類とコップが置かれている。
部屋の隅々を確認する。机の上に無造作に置かれた資料にも特段手がかりのようなものはなかった。
ソラ達は各個室を次々と確認していく。多少の差異はあるもののほとんど同じ構造の部屋だった。そして手がかりは1つもない。
残りの部屋は1つ。頼む、何か、何か手がかりが残っていてくれ。
ソラは祈るように扉を開く。目の前に広がるのは先ほどまでと変わらぬ景色。ざっと目を通していくが目当てのものは存在しない。
「収穫はなしか」
ティナがため息を吐いて、退室する。ソラは最後に部屋全体を見渡した。
「ん?これ……」
ソラは部屋の壁に歩み寄り、指先で撫でた。その瞬間、彼の指に、微かに白い粉が付着した。壁から取れた粉がついたようだ。それに
「どうした?」
ティナが部屋から出てこないソラに声をかけた。
「ここさ、他と違わないか?」
「そう?」
ティナが近付き、壁を凝視する。本来、白い壁紙が均一に貼られているはずの場所に、わずかな凹凸。触れると剥がれた粉が指につく。
ソラが隣の壁を指で撫でる。硬さは均一で凹凸もない。
「ほら見て、こっちは何もつかない。明らかにここには何かあるよ」
ソラは確信を持ってそう言う。彼は鞘の下部に取り付けられたナイフを取り出して壁を削り始める。ナイフと壁が擦れる音が部屋に微かに響く。その音が徐々に金属同士が擦れる音に変わっていく。
やはり、ここに何かが隠されている。
ソラは壁に埋められた物を壊してしまわないように慎重に掘り進める。
そして、中から1つの機械が現れた。その装置は円形のフォルムをしており、その中央に大きな光源装置が取り付けられている。外周にはセンサーのようなものが等間隔に複数個設置されている。
「こんなところに……」
ティナが驚きの声を漏らす。
「これは、多分ホログラム装置だな」
ソラが装置を触る。外周のセンサーから青白い光が迸る。その光にソラが包み込まれる。彼は眩しさのあまり腕で目を覆った。光が止み、目を開くとそこにはホログラムの文字があった。
“アクセス権限なし”
空気中にその文字だけが浮かんでいた。どうやらこの装置は起動と自動的にユーザーの権限を確認するスキャンが行われるらしい。
「ロックされたか?」
ソラはホログラム装置を触ってみるが一切操作を受け付けない。
『うちがクラックしてみようか?……このタイプにリンクスがどこまでできるかわかんないけど』
ウミが若干不安の混じった声で提案する。
その瞬間、ホログラムの文字が溶け、再構成される。装置は女性の姿を空中に投影し始めた。
ティナが突如として動き始めたホログラム装置を警戒し、武器に手をかける。
投影された女性が鮮明になる。緑の髪と瞳を持つ女性がそこに浮かび上がった。
“これが再生されていると言うことはあなたは研究所の人ではないのでしょう”
女性が冷静な声で話し出す。ソラとティナは奇襲の警戒に一部の意識を割きながらもその映像に視線を向けた。




