2章第8話 存在しない座標
キャンピングカーに戻ったソラとウミは依頼の準備に入った。そしてすぐに議題はラヴェジャーは誰を雇うかと言う話になった。
「ティナは……ダメだろうな。あいつはヴォルフのことをあんまりよく思ってないっぽいし」
この依頼をティナと協力して達成しようとすれば、彼女は間違いなくヴォルフに何かしらのちょっかいをかけようとするだろう。それでは“余計なことを言わない、考えない”という条件から外れてしまう。彼女を同行者に選べばソラ達の評価が下がりかねない。
「それに、ティナさんはまだグリッド121にいるだろうしね」
確かに彼女とグリッド121で別れてから3日も経っていない、まだ用事の最中であってもおかしくない。仕事を持ち込んで邪魔するべきではないだろう。
「なら、エマか。彼女なら余計な詮索はしないだろうし」
彼女なら余計なことを聞かずに依頼についてきてくれるだろうし実力も申し分ない。
「そうだね、エマさんは今回の依頼にぴったりかも。これは、うちから連絡しておくね」
ウミも同意してくれた。同行者は確定でいい。
「にしてもすごい依頼を受けちゃったな」
「ねー、信頼して貰えているのかな」
「うーん、どっちかって言うと体よく使われているだけのような気もする」
「どういう意味?」
ウミが首を傾げる。
「僕らはヴォルフの機嫌を損ねたくない、そこにつけ込まれている感じがするんだよ」
ソラは軽く頭を抱える。自分はヴォルフに利用されるだけにならないように頑張っているつもりだがそれすら読まれているのではと言う疑念が頭の中をうごめく。
「考えすぎだって、うちらはちゃんと前に進んでる、でしょ?」
こういう時はウミの明るさが眩しく感じる。自分には持ち得ない楽観的な姿勢に救われる気がした。
「そうだね、悩んでないで進み続けないと」
ソラは両頬を叩いて余計な考えを弾き飛ばした。
✳︎
夜明け前、ウミの運転するキャンピングカーは集合地点に停車していた。まだ眠りについている静かな街の一角、そこにエマがいた。装備が入っているであろう大きなカバンを2つ担いでいる。
ソラは車の扉を開き、
「おはよう、エマ」
と挨拶する。エマは視線をソラに向けて
「おはよう」
と返した。エマはそのまま軽やかに車内に乗り込んだ。
そのままキャンピングカーは目的地、グリッド130にある侵蝕区域セクレトに向かって走り始めた。ソラとエマは移動時間を利用して依頼内容を再確認することにした。机を挟んで向かい合うように座り、ホログラム装置を底に置く。ホログラムの淡い光がセクレトが侵蝕区域に呑まれる前の様子を表示する。その地図には調査対象である研究所は存在していない。ただ一点の赤い光が灯っているだけだ。その点はヴォルフからの情報を投影したものだ。
「本当にここに研究所があるの?」
エマは少し疑わしげに首を傾げる。
「そこはヴォルフを信じるしかないかな。まあ、もし何もなかったら行って帰るだけの簡単な依頼になるな」
ソラは冗談ぽく言って小さく笑う。結局、情報が少ないので、特に作戦を細かく立てることはせずに臨機応変に動くことに決めた。その後、エマは自分の装備をカバンから取り出して、動作確認を始めた。静かにな車内を空中に浮かぶ地図と赤い点が照らしている。その小さな光にどれだけの危険が潜んでいるかまだ、誰も知らない。




