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終末の境界線  作者: 5ion
2章 過去の軌跡
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2章第7話 新たなる依頼

 楽しい旅行が終わってから数日後、ソラとウミはヴォルフに連絡を受けた。内容は簡潔で指定された時間にアフターバーナーへ来いというものだった。


「ヴォルフが呼び出しをするなんて珍しいな」


 ソラが連絡を見てそう呟く。ヴォルフは依頼を投げてくるだけで、呼び出してくることはほとんどない。それこそ最初の依頼の時からヴォルフと直接会う機会はなかった。それだけに今回の招集にどういう意図があるかが気になった。ソラは頬杖をついて、キャンピングカーの窓から外を見る。視線の先には街に溶け込む形で銀色のドーム、侵蝕が霞んで見える。


「何かでかい話でもあるのかな」


「考えたってしょうがないよ」


 ウミは車を駐車場に停める。

 外に出ると出迎えたのは星のように瞬くネオンとガラス張りの建物が織りなす人工の輝き。街全体が、つい先日の旅先で見た観光都市とはまた異なる、喧騒と威圧感を纏っていた。その街にそびえ立つ天を貫くガラス張りのビル。その頂点にバー・アフターバーナーがある。ソラはアフターバーナーに入るための手順を踏み、最上階へ向かった。

 入り口に着くと、きっちりネクタイを締めたスーツを身に纏ったガードマンが


「ラプターアイ様、どうぞ」


と軽く頭を下げた。ヴォルフと会うことはなくとも協力者のラヴェジャーとの打ち合わせなどでアフターバーナーを利用していたためガードマンに顔を覚えてもらい、身分確認が省略されるまでになっていた。まあ、そもそもエレベーターでここに到達できている時点で99%、アフターバーナーへの入場権限を持っている。そのため、ガードマンによるチェックは良く言えばダブルチェック、悪い言えば形式的なチェックに過ぎない。それでも顔パスできるのは優越感があり気分はいいものだ。


「ボブ、今日は案内頼むよ」


 ソラが軽く声をかける。ボブは眉ひとつ動かさずに


「承知しました。私に続いてください」


と返す。ボブの冷静な様子はまるで軍人のようだ。


「もうちょっと愛想よくてもいいんじゃないか?」


「仕事に必要ないことですので」


 ボブはキッパリと線引きしてしまう。


「そっかぁ」


 ソラは寂しそうに呟いた。

 ボブにバーの中を案内されていつもの席へと導かれる。そこにはボブよりもガタイの良い男、ヴォルフが座っている。彼はコップを片手にホログラムとして浮かぶ情報に目を向けている。


「来たか」


 こちらに気付いたヴォルフの声が低く響く。ソラとウミは彼と向かい合うように座った。机の上には2人のための飲み物が既に用意されている。


「ヴォルフさんからの呼び出しだからね、飛んでくるよ」


 ソラの軽口にヴォルフは笑みを浮かべながらコップ中のドリンクを飲み干した。ソラはは彼に続くように喉を潤す。甘さとアルコールが口の中に広がった。


「それで? わざわざ呼び出すほどの要件は?」


「今回のはちょいと特殊でな」


 ヴォルフはホログラム装置を操作する。空中にグリッドと侵蝕区域の描かれた立体地図が浮かび上がる。


「グリッド130に存在する侵蝕区域セクレトの調査を頼みたい」


 グリッド130にあるセクレト、聞き覚えがある。この前の旅行でホテルの窓から見えた侵蝕区域だ。奇妙な偶然を感じつつもそれよりも気になることがあった。


「そのエリアってヴォルフさんの行動範囲(ナワバリ)から外れてないか?」


 ヴォルフを含むフィクサーにはナワバリのような勢力範囲が存在する。巨大な大陸ともいえるグリッドの各地区をフィクサーが仕切っている。通常、あるエリアで問題が起きれば、その地域を仕切るフィクサーに話を持ちかけ、仮にナワバリの外への依頼が来た場合はその地域を治めるフィクサーに任せるのが不文律となっている。

 ヴォルフはグリッド121とその周辺を取り仕切っており、数あるフィクサーの中でも最大級のナワバリを持っている。しかし、グリッド130は彼のナワバリの外にある。そのため彼にグリッド130関連の依頼が入ってきていることにきなくささを感じる。


「そうだな、だからこれは俺がだす私的な依頼だ」


「詳細を聞いても?」


「細かい話をする前に依頼を受けるか否かを決めてくれ。この話を外に出されると面倒なんでな」


 依頼の詳細を伏せるのは単に慎重になっているのか、まだ自分たちを警戒しているのか。どちらにせよ、飛び込まなければ自分たちが望むリターンは得られない。ウミも同じように考えているはずだ。


「その話、ラプターアイが引き受けます」


 その言葉を聞いたヴォルフが嬉しそうに笑う。


「詳細を話そうか。セクレトには閉鎖された研究所がある」


 侵蝕区域に呑まれ、施設が閉鎖される。これだけならよくある話だ。だが、あのヴォルフが自身の縄張りの外でも気にかけるほどの場所だ、何か裏があるのだろう。

 ソラは黙って続きを待つ。


「ここにシャードの連中が出入りしているという情報を手に入れた」


 その言葉にソラの眉がぴくりと動く。

 シャードはヴォルフのナワバリで活発に活動しているギャングだ。ヴォルフと仕事をする上で避けては通れない相手で、最初の依頼から幾度となく対峙してきた。ヴォルフにとって、シャードは目の上のたんこぶのような存在で叩き潰すために暗躍しているという噂もあるほどだ。


「確か、グリッド130ではシャードも活動してないはず」


 ウミが何かを悟ったように呟く。


「そう、だからこそ調査を依頼したんだ。奴らがそこで何をしているかを調べてほしい」


 ヴォルフはウミを指差しそう言う。


「調査だけでいいのか?」


「そうだな。ただ実地の判断で対処は君たちに任せる。……もちろん、その場合は報酬を上乗せする」


 報酬は問題ないどころかかなり美味しい依頼だ。

 だが1つ気にかかることがある。


「1つ聞きたいんだが、シャードのためになぜそこまでする?」


 シャードは確かにヴォルフの妨害をしてくる。だが、わざわざ自分からちょっかいをかけに行く理由が分からない。


「この話はオフレコで頼む」


 ソラとウミは神妙な面持ちで頷く。


「いずれシャードは俺が叩き潰すつもりだ。そのために不確定な要素は減らしておきたいんだよ」


 なるほど、倒そうとしている相手がいつもの行動範囲から外れた場所で動きを見せたら調査する気になったのか。


「なるほど、重要な仕事だな」


「俺を失望させるなよ」


 ヴォルフの鋭い目がソラとウミに向けられる。その威圧感にウミは姿勢をピンと正してコクコクと頷く。

 ソラは気圧されていることを悟られないように表情を固めながら


「分かった。最後に1つだけ、同行者ラヴェジャーの選出に何か制限はあるか?」


と尋ねた。


「俺から提示する条件はこの依頼に余計なことを聞かないし、考えない奴だな」 


 依頼に対して裏を読んだり、依頼が出された理由を考えたりしない奴ということだけでない。ヴォルフはソラ達に「あまり余計なことを聞くな」、「余計な勘繰りは身を滅ぼす」と警告してきているのだ。


「シンプルな条件だな。了解した、早速準備に取り掛かるよ」


 ソラはあえて短く返し、話を切り上げる姿勢をみせた。

 ヴォルフは警告が伝わったか確認するように視線を向けた後、


「頼んだぞ」


 と告げた。

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